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第1章 研究の概要

1.1 研究の背景と目的   目次へ戻る

 1980年代前半のニューメディア・ブーム以来、メディアの多様化の進展が顕著になり、様々な新たなメディアが現れ、社会に定着してきている。とりわけ社会への影響力の大きい放送分野でも、ケーブルテレビ、BS放送、CS放送、ハイビジョン放送、CSディジタル放送というように多くのメディアが現れてきている。メディアの多様化の進展の背景には、技術革新に伴う規制市場から自由市場への移行という潮流があり、利用者の選択性の増加がある。この様な環境変化の中で、利用者は様々なメディア選択を行って、自分に適したサービスを享受する生活様式が進展しつつある。この様な段階においては、メディア間の移行とメディアの棲み分け・選択ががどの様に進むのかを明らかにすることは、興味ある問題である。また今後の社会での放送利用がどの様に進むのか、新たな放送産業はどの様に普及していくのか、などを考える基礎的な知見として、本来は欠かすことの出来ないものである。

 他方、ケーブルテレビはその起源を1950年代にまで遡るが、最近は自由市場化の中でサービスは多チャンネル指向となり、大都市部に普及し始めている。さらに将来的には、放送と通信の融合を支えるインフラストラクチャーとしても様々な可能性が期待され、関心が持たれている。

 そこで本研究ではケーブルテレビに着目し、放送メディアのメディア間の移行として、地上波放送およびBS放送からケーブルテレビへの移行の実態をを明らかにする。またケーブルテレビの棲み分けを明らかにするために、ケーブルテレビへの移行/加入のプロセスを研究し、移行を決定する要因を明らかにしようとするものである。

1.2 研究の方法   目次へ戻る

 本研究では、次のように、先行研究に関する文献調査と、テレビ放送メディアの利用者調査を行った。

a.文献調査

 過去のケーブルテレビの加入を決定する要因の研究の実績は、米国に散見することが出来る。米国ではケーブルテレビが最も発展したため、ケーブルテレビの研究成果が多い。しかしケーブルテレビの加入決定=選択に関する研究は、あまり多くはなされてはいず、かつ統一的な見解がまとめられているわけではない。そこで既存の研究成果の文献調査を行い、既存の成果の評価を行い、問題点を調査した。

b.テレビ放送メディアの利用者調査

 もう一つはテレビ放送メディアの選択と利用の実態調査である。具体的なケーブルテレビ地域として茅ヶ崎市(ジェイコム湘南)を選び、ケーブルテレビの加入者と非加入者を対象に、放送メディアの選択の過程と利用状況について調査を行った。そしてこれらのデータを分析して、ケーブルテレビの加入要因を抽出し、同時に加入モデルとしての有効性を検討した。

1.3 主な成果   目次へ戻る

 本研究の主な成果を下記にまとめる。

(1)文献調査

 米国の加入モデルの研究は、1970年代からのケーブルテレビの発展とともに、変遷している。その変遷を反映して、加入モデルの前提となる条件としては、

  1. 地上波放送電波数や電波障害などの地域性
  2. 普及率とともに新規加入層が変わることによる普及段階
  3. 地域の事業者が提供するサービス

の3点が挙げられている。この3点を含む加入モデルは困難で、それぞれ部分的な条件の下で成果が議論され、相互比較は困難な状況にある。他方、ケーブルテレビの普及とともに加入モデルの関心は新規加入から、中途解約問題に移行し、新規加入の加入モデルの研究は過去のものとなった。この点で纏まった成果が残されているということはない。

 もう一つは統計処理の方法上の問題がある。加入モデルの研究において、すべての場合において調査データを直接に判別分析や回帰分析にかけ、判別式や回帰式の係数の絶対値の大小から、要因としての重要性を判断している。しかしこれが出来るためには変数間の独立性が保証されねばならない。変数間の相関がない場合のみ、この様な解釈が可能である。しかしほとんどの場合で変数間の独立性は検討されてはいない。変数間に相関がある場合、分析に使う変数の組み合わせが研究ごとに異なれば、係数は異なって現れることになり、当然研究成果間の結論は変わってくる。この点が相互比較をさらに困難にしている面がある。

 そこで以降の本研究の分析においては、これらの研究成果を総括し、問題を回避する方法を試みている。因子分析と判別分析を利用する方法であり、因子スコアを判別分析の変数として利用している。これにより、判別分析の変数間の独立性が保証され、先行研究に見られた統計処理上の問題を回避し、同時に相関のある変数群を1つの要因として扱うことにより、問題を簡略化して扱うことも可能となっている。

 これらについては第2章で述べられている。

(2)テレビ放送メディアの利用者調査

 これらの成果は第3章〜第4章にまとめている。なお実際の調査データは巻末に資料として添付した。

a.ケーブルテレビへの移行

 対象地域では、ケーブルテレビへの移行は次のようになっている。

  1. 地域の約9割の世帯がケーブルテレビを知っているが、関心を示して加入を検討する層は全体の1/3であり、そのうちの1/3きり加入に至らない。加入者が10%強であるから、その倍以上が検討したが加入していないことになる。
  2. 移行前のメディアは、地上波テレビ、NHK−BS放送、WOWOW、CSデジタル放送があるが、より高度な放送サービスの利用者ほどにCATVへ移行する可能性は高く、CS放送やWOWOWでは30%前後がCATVへ移行している。「ケーブルテレビ以外のテレビ・メディアに加入すると移行が難しくなる」と言うことはない。

b.加入決定の姿

  1. ケーブルテレビへの加入決定は家族の合意に基き、加入にはおよそ2/3の賛意が必要で、1/3強の反対があると加入には至らない。
  2. ケーブルテレビへの加入をリードするのは世帯主である。加入および決定面での世帯主の影響力は大きい。
  3. しかし加入への決定は配偶者の意向にも大きく左右される。配偶者が反対すると、加入に至るのは難しい。
  4. 世帯主か配偶者の片方が加入に反対すると、加入確率は1/5程度になり、両方反対すると1/25程度となる。
  5. 世帯主と配偶者以外の家族の影響は、補足的に効いている。どちらかと言えば経済力のない若年層より、経済力のある家族の発言力が効く。

c.ケーブルテレビの加入要因の研究

 加入に関与しうる多数の変数を最終的には5〜6個の要因に集約し、それぞれの要因の効果の程度を明らかにするという、従来にない分析法の定式化を試みて、一定程度の水準の判別を実現している。また今回の調査対象地域以外の別の地域についても方法を適用し、ほぼ同じ要因と判別の水準を実現している。この点では汎用性が高い可能性がある。以下では成果を列挙する。

  1. 2つの地域についてほぼ類似した変数を用いて因子分析と判別分析を行っているが、ほぼ同じ10個の因子が現れた。したがって加入要因を扱うことの出来る、地域に依存しない構造があることが分かった。
  2. その構造は大きく見ると、世帯主の先有傾向、加入動機/ケーブルテレビへの関心、コスト感、世帯特性の4つの部分から成り立っている。
  3. 世帯主の先有傾向としては、日常的なテレビ視聴傾向で、環境テレビ視聴、走査視聴、協調視聴/確認視聴、計画視聴の4つが挙げられる。このうちで環境テレビ視聴は加入に必須の条件で、各地域に共通する加入要因である。
  4. 加入動機/ケーブルテレビへの関心では、映画娯楽指向、社会教養指向、反アンテナ指向、画質向上指向の4つの因子がある。
  5. 加入動機/ケーブルテレビへの関心の因子スコアに地域差が現れる。電波障害がある地域では加入要因としては画質向上指向が強くなる。普及率が低い地域では映画娯楽指向が強くなる。
  6. コスト面では、利用者または潜在的利用者が費用を安く感じる度合いとしての割安感は常に加入の要因である。環境テレビ視聴と同様に、加入に至る必須の条件である。
  7. 世帯特性の因子には家族規模があるが、これは加入要因ではない。この因子には世帯収入が含まれ、世帯収入には有意差はあるが、要因としての影響力はない。
  8. この分析は、加入グループ VS 非加入グループの判別においても有効だが、ケーブルテレビへの加入について検討したことがある検討(加入・検討非加入)グループ VS 未検討グループの判別の方がより適合性が高い。
  9. 検討(加入・検討非加入)グループを加入グループ VS 検討非加入グループに分ける要因としては家族の賛否(加入に賛成の家族数、反対の家族数)とコスト感が該当する。これらは加入の最終決定に際して効く要因である。特に加入に消極的な家族の人数が強いと非加入に至りやすい。その点でケーブルテレビへの加入は家族のコンセンサス型の決定である。

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