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第4章 ケーブルテレビの加入要因の分析

 第3章ではケーブルテレビへのテレビ放送メディアの移行の実態と、移行に関与する様々な傾向について、調査データをもとに説明してきた。本章ではこれらの様々な調査データ(変数)を用いて、加入を左右する可能性のある要因の概念を作成し、これらの要因が加入に寄与する程度と、さらには加入のメカニズムを明らかにする。

 基本的な考え方は、2.1節にも述べたが、補足すると次のようになる。加入モデルを考えることは、加入、非加入の相違をもたらす構造があると予想することでもある。その構造が要因群で表されるとすれば、ある要因は加入vs非加入の差に強く寄与するものであり、また別の要因は加入vs非加入の差には影響しないものとなるであろう。その様に幾つかの要因が加入vs非加入をもたらしているとすれば、加入vs非加入で差が現れている変数を集め、因子分析を適用すれば、色々な要因の概念を因子として作ることが出来ると同時に、その因子スコアは要因の強弱を表すので、どの要因が加入vs非加入に影響しているのか、その程度を知ることが出来る。この様にして加入と非加入を左右する要因を知ることが出来よう。そこで加入と非加入で統計的に差(有意差ないしは有意差に近い差)がある変数を集め、因子分析を適用し、さらに因子スコアに対して判別分析を適用し、要因の見極めを行った。

4.1 選択に係わる変数   目次へ戻る

 第3章で述べてきた加入に関与しうる変数を整理したのが、表4.1-1である。世帯主レベルでの変数である個人傾向、世帯レベルでの変数である世帯傾向、世帯の立地に関する環境条件の3つに区分している。

 なおこの変数候補の選択は、第3章で述べてきた加入層−非加入層間で有意差のある変数の採用を中心としているが、それ以外には加入・検討層−未検討層間で有意差のある変数、加入層−検討層で有意差のある変数も追加的に含めた。

 加入・検討vs未検討(A)、加入vs検討(B)のそれぞれの場合に有意差のある変数を採用するのを基本とした場合、分析に採用する変数はかなり異なる。加入vs非加入で有意差のある変数群を基準にした場合、その傾向はおおよそ次のようになる。
 
A.加入・検討−未検討 かなりの部分が加入−非加入の場合と類似している。ここでは電波障害を加えている。
B.加入−検討 この場合は視聴傾向、加入動機、情報機器利用のほとんどの変数が有意差を持たない。TV台数、加入前向き人数、加入消極人数が有意差を持つ。

 結果的には、どの場合の有意差を持つ変数と厳密には決めず、上述した方法を採った。また因子の概念形成上で有効と思われる幾つかの変数も加えた。これらの変数は結果的には表4.1-1となっている。

 さらに同表では後の分析の参考のために、変数名を添付した。これらの変数は全部調査データそのものである。

表4.1-1 分析候補とした変数
変数区分 変数と内容 変数名
1.個人傾向 1-1.ケーブルテレビへの加入動機/関心
15の加入動機/関心から因子分析で作られた多チャンネル娯楽指向や反アンテナ指向、映像向上指向などの因子は、ケーブルテレビの加入と有意に関係している。
N13A〜N13Yの20個
1-2.ケーブルテレビのコスト感
ケーブルテレビの加入コストと利用コストに対する受け止め方が、ケーブルテレビへの加入と有意に関係している。 
Q14a・b〜Q14cの2個
1-3.日常的なテレビの視聴傾向
世帯主のテレビの見方には、いつもテレビを点けておく環境視聴や頻繁にチャンネルを変えて番組を探す走査視聴などの傾向があり、これらの傾向がケー ブルテレビの加入と有意に関係している。
Q3a〜Q3kの11個
1-4.日常的な番組の選好傾向
世帯主が選好する番組では、映画、ワイドショー等がケーブルテレビの加入と有意に関係している。
Q4b〜Q4jの5個 
1-5.日常的なテレビの効用
世帯主によるテレビ活用の仕方としては、暇つぶし等が有意に関係しうる。
Q5b〜Q5jの4個
1-6.情報機器利用
世帯主または相当する人の家庭における情報機器利用状況。インターネット・PC系、オーディオ系等が加入と有意に関係している。
Q18b〜Q18tの12個
1-7.フェース
世帯主または相当する人物の年齢、学歴が有意に関係しうる。
f3、f9
2.世帯傾向 2-1.家族の賛否
ケーブルテレビの加入の前向き者数と消極者数は加入−検討層間で顕著な有意差を持つ。
Q12_2,jQ12_3mの2個
2-2.家族数
加入世帯の家族数は非加入世帯の家族数より少ない。
Q1_1 1個
2-3.世帯収入
加入世帯の世帯収入は、非加入世帯より有意に多い。
f10 1個
2-4.世帯の利用TV台数 Q2 1個
3.環境条件 3-1.電波障害
電波障害が強い世帯ほど加入しやすくなる。
Q7 1個

4.2 加入要因の分析の概要   目次へ戻る

 これまでは加入−非加入のグループ間で有意差を生じる変数を説明してきた。これらは今後の分析に利用する変数の候補である。次にここでは具体的な分析に先立ち、その方法を説明しておく。

(1)分析の方法について

 従来の研究(第2章)では、加入−非加入の決定に寄与する要因を抽出する場合、表4.1-1に示されている種類の変数(または吟味前の調査データそのもの)に、加入、非加入を従属変数とする回帰分析や判別分析を適用し、回帰式や判別式の係数の相対的な比較により、分離に有効な変数か否かを判断してきている。しかしこの場合には次の2点で方法上の問題が生じる。
  1. 回帰式や判別式で、係数の相対的な比較が有効性を持つためには、分析に際して採用する変数間に相関があってはならない。変数間に相関がある場合、係数の相対的な比較は困難となる(注)。
  2. 分析に利用する変数が増えて、見かけ上で回帰や判別の有意性が高まっても、多くの変数が要因として抽出されるようでは、加入と非加入の差の背景にある構造を理解するのは難しくなる。

 そこでこれらの2つ問題を解決するために、まず上記の多数の変数に対して因子分析を適用し、変数の集約をはかる。もともと相関のある変数群は1つの因子に置き換わり、変数値そのものは因子スコアに集約される。因子分析の結果得られた因子スコアは相互に独立し、相関係数は0になるので、この因子スコアに対して判別分析を適用すれば、変数間の相関に悩まされることはない。さらに多数の変数が集約されることにより、存在が期待される加入と非加入の差の構造が分かりやすくなることも期待される。もとより因子分析で抽出された因子が加入と非加入の分離に関与する保証はないが、テレビ放送メディアの選択がデータの分散を作り出しているとすれば、その分散をもたらしている因子の存在を期待することは自然である。

(注)回帰分析での変数間の相関の問題の1つは多重共線性がある。この場合には回帰式そのものの有意性が低下するので、相関の強い変数を独立変数から除外しなければならない。しかし係数そのものの相対比較を行う場合には、多重共線性に対するよりもずっと強い制約が必要である。経験的には相関係数が0.4程度でもかなり問題が生じる。この点は特に注意が必要である。

(2)分析対象の限定

 表4.1-1では、分析に関与しうる変数を列挙してきたが、この中で「2.1 家族の賛否」は全サンプルに共通したデータではない。これらは加入世帯か加入を検討したことがある世帯のみのデータである。したがって分析の対象は、a.全サンプルを対象とした分析とともに、b.一度でも加入を検討したことがある世帯のサンプル(加入世帯+検討世帯)の2つが存在しうる。以降の分析ではまず、「a.全サンプルを対象とした分析」を行い、必要に応じて「b.加入・検討世帯の分析」を行う。

(3)初期の分析

 初期の分析の段階では、60個余の変数を利用して、固有値1以上の因子を条件に因子分析を行い、66%余の分散をカバーする約18個の因子を得た。その因子スコアを用いて判別分析を行ったところ、18個の因子のうち10個が判別係数を持ち、正準相関係数0.676、判別率84.6%という結果となった。この状態でも結果的に見ると、骨子となる部分は現在の結果と大きく変わるものではないが、「関与する因子が多すぎて、構造がうまく把握されているとは考えにくい」という点では、期待する解とは考えられなかった。

 そこで次の方針のもとで、変数と因子の探索を行った。

  1. 因子数は60%程度の分散をカバーする水準とする、
  2. 判別に寄与しないマージナルな因子を構成する変数を出来るだけ減らす。

 幾つかの場合について変数の採否を変化させ、さらに因子数を変化させて判別の傾向を辿った。その結果、

  1. 「1-4.日常的な番組の選好傾向」、「1-5.日常的なテレビの効用」の変数は、「1-1.ケーブルテレビへの加入動機/関心」、「1-3.日常的なテレビの視聴傾向」が中心となる 因子と結合し、これがなくても因子の形成そのものは大差ないこと、
  2. 「1-6.情報機器利用」はそれらだけの変数で因子を形成し、独立性が強い、
  3. 「1-6.情報機器利用」の変数を採用しない場合と、採用してかつその因子が判別の係数 を持つ場合でも、結果的には判別率等にはさしたる改善はない、
が明らかになった。

 それらのことを踏まえて、今後の分析においては、表4.1-1の「1-4.日常的な番組の選好傾向」、「1-5.日常的なテレビの効用」、「1-7.フェース」の各変数の採用を止め、さらにそれ以外の変数については、以下の3段階に分けた分析の説明を行う。
 

a.基本ケース 前記の変数減少に加え、さらに「1-6.情報機器利用」、「2-1.家族の賛否」の除いた変数を利用しての分析
b.家族賛否ケース 基本ケースに「2-1.家族の賛否」を加えた変数を用いた分析
c.情報機器利用ケース 基本ケースに「1-6.情報機器利用」を加えた変数を用いた分析

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