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4.3 基本ケースの分析

(1)基本ケースの因子分析

 基本ケースの分析に際して採用した変数のリストを表4.3-1に示す。これらの変数を用いて因子分析を行った結果、表4.3-2に示す因子を得た。第1因子は映画娯楽指向、第2因子は社会教養指向、第3因子は走査視聴、第4因子は環境テレビ視聴、第5因子は画質向上指向、第6因子は反アンテナ指向、第7因子は家族規模、第8因子は割安感、第9因子は協調視聴、第10因子は計画視聴である。同表で因子の概要と因子スコアの変数を示しており、10因子で全分散の63.9%をカバーしている。

(2)基本ケースにおける判別分析

 次にこの因子スコアを用いた判別分析の結果を表4.3-3に示す。分析の方法としてはステップワイズ方式(注1)を用いている。このため寄与の小さい係数の変数は排除されている。

 分析は次の3ケースを行っている。

ケース1 加入グループ VS 非加入(検討非加入・未検討)グループ
ケース2 検討(加入・検討非加入)グループ VS 未検討グループ
【参考】 加入グループ VS 検討非加入グループ

 そして各ケース毎に判別関数の係数、分析対象のサンプル数、正準相関係数、正判別率等をつけた。全体としては、正準相関係数や正判別率はかなり高いものである。

(注1) 変数の投入はF値の確率を用い、0.05以下では投入し、0.1以上では除去している。

表4.3-1 変数とその内容
変数 内容(変数の選択肢) 平均 標準偏差
[加入動機/関心](1.重視・関心〜3.無し)
N13A a.電波障害でのTV映りの悪さを解消する
2.14706
.85502
N13B b.普通には見えるが、よりきれいな画面でみる
2.01838
.81704
N13C c.衛星放送(BS)を見る
2.02206
.85448
N13D d.多くのチャンネルの色々な番組を選べる
1.59191
.80520
N13E e.ケーブルのチャンネルで映画を見る
1.76103
.82727
N13F f.ケーブルのチャンネルでニュース(国内)を見る
2.23897
.71222
N13G g.ケーブルのチャンネルでニュース(海外)を見る
2.15074
.78458
N13H h.ケーブルのチャンネルで経済ニュースをを見る
2.35662
.68835
N13I i.ケーブルのチャンネルで地域の天気予報を見る
2.01103
.82616
N13J j.ケーブルのチャンネルで地域番組を見る
2.21324
.77705
N13K k.ケーブルのチャンネルで音楽番組を見る
2.07353
.83407
N13L l.ケーブルのチャンネルでスポーツ番組を見る
1.94118
.84840
N13M m.ケーブルのチャンネルでゴルフ番組を見る
2.38603
.79311
N13P p.ケーブルの有料チャンネルで映画を見る
2.27206
.82817
N13Q q.ケーブルの有料チャンネルでWOWOWを見る
2.18382
.86508
N13U u.アンテナの更新・維持管理が不要になる
2.20221
.82372
N13V v.家の美観上で邪魔なアンテナが不要になる
2.28676
.79582
視聴傾向(1.よくする〜3.しない)
Q3A a.見たい番組があるときだけテレビをつける
1.65441
.68055
Q3B b.仕事や勉強のときに、何となくつけておく
2.45588
.77190
Q3C c.見る番組を事前に調べて決めている
1.66912
.75925
Q3D d.テレビを見る直前に見たい番組を調べる
1.83088
.82895
Q3E e.テレビをつけて見たい番組を捜す
2.00000
.85044
Q3F f.CMの間は別のチャンネルに切りかえる
2.02574
.85654
Q3G g.面白い番組が無くてチャンネルをいろいろ回す
1.83456
.87092
Q3H h.深夜0時過ぎまでテレビを見る
2.25368
.89586
Q3I  i.他の人の見ている番組をおつきあいで見る 
2.24632
.80243
Q3J j.つまらないと思ってもつい見てしまう
2.44118
.72656
Q3K k.見たい番組が無い場合はテレビをこまめに消す
1.92647
.82069
Q3L l.家族と一緒にテレビを見る
1.57353
.72011
F10 F10年収 (1.500万円未満〜5.2000万円以上)
2.16176
1.01079
Q14AB ab.加入初期費用 (1.安い〜5.高い)
3.40809
1.30526
Q14C c.毎月の基本利用料 3.5千円 (1.安い〜5.高い)
3.86397
1.07293
Q7 問7電波障害の有無 (1.見えない〜4.影響無し)
3.45956
.85381
Q1_1 問1(1)家族人数 (1.1人〜8.8人以上)
3.30147
1.36547
Q2 問2テレビ台数 (1.1台〜5.5台以上)
2.01838
.95452

(注)サンプル数:272(全変数のデータが揃っているサンプルのみが利用されるため、サンプル数は減少している。


 
表4.3-2 基本ケースにおける分析結果の因子
因子(平方和、寄与率) 因子に関与する変数と因子の内容 因子スコア
第1因子(4.2,11.9%)
社会教養指向
N13H,N13F,N13G,N13M,N13L,N13J,N13I
経済ニュースをはじめとして内外のニュース、ゴルフ、スポーツ、地域番組等の番組を望む傾向
FG6A1
−(注3)
第2因子(3.2, 9.1%)
映画娯楽指向
N13P, N13Q, N13E,N13K,N13D,N13C
ペイチャンネルでの映画やWOWOW,映画,音楽等を望む傾向
FG6A2
第3因子(2.5, 7.2%)
反アンテナ指向
N13U,N13V,N13B
メンテナンスや家の美観上でアンテナを嫌う傾向
FG6A3
第4因子(2.4, 6.9%)
環境テレビ視聴
Q3B, Q3K(-)(注2), Q3A(-),Q3H
とにかくテレビを点け、こまめに消すことはなく、見たい 番組がなくても、つまらないと感じても見る傾向
FG6A4
第5因子(2.0, 5.8%)
走査視聴
Q3g,Q3e,Q3f
チャンネルを頻繁に回したり、点けてからチャンネルを回して番 組を探したり、CM時には他局を見たりする傾向 
FG6A5
第6因子(1.8, 5.2%)
割安感
Q14C,Q14AB
ケーブルテレビの加入費用や毎月の基本料に対するコスト感 
FG6A6
第7因子(1.7, 4.9%)
家族規模
Q2,Q1_1,F10
家族数や見ているテレビの台数、世帯収入など、家族の規模を表す
FG6A7
第8因子(1.7, 4.8%)
画質向上指向
Q7,N13A
電波障害の場合も含めて、テレビをきれいな画面で見ようとする傾向
FG6A8
第9因子(1.7, 4.7%)
協調視聴 
Q3I,Q3L,Q3J
他者が見ている番組をつき合いで見たり、家族と一緒に見たり、つまらなくても見たりする傾向 
FG6A9
第10因子(1.2, 3.4%)
計画視聴 
Q3D,Q3C
事前に見る番組を調べる計画性があり、場合によって は直前に確認するなど視聴を計画化する傾向 
FG6AA
− 

(注1)平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である。寄与率の合計は63.9%である。
(注2)因子スコアに寄与する変数の符号が逆転する(係数が負の場合)場合、(-)でそれを示した。
(注3)多チャンネル娯楽動機が強まると、その因子スコア FG6A1 は負で絶対値が大きくなる。この様な場合には−で示した。傾向が強まると正で絶対値が大きくなる場合には+で示している。
 

表4.3-3 基本ケースにおける判別分析と判別係数
因子スコア ケース1
加入(-) VS 非加入(+)
ケース2
加入・検討(-) VS 未検討(+)
【参考】(注1)
加入(-) VS 検討(+)
1.社会教養指向
FG6A1(−)
0.545 (2)
(注2)
0.609 (2)
 
2.映画娯楽指向
FG6A2(−)
0.525 (3)
0.648 (1)
 
3.反アンテナ指向
FG6A3(−)
     
4.環境テレビ視聴
FG6A4(−)
0.352 (4)
0.423 (4)
 
5.走査視聴
FG6A5(−)
     
6.割安感
FG6A6(−)
0.648 (1)
0.565 (3)
0.668 (1)
7.家族規模
FG6A7(+)
     
8.画質向上指向
FG6A8(−)
0.297 (6)
 
0.490 (3)
9.協調(節約)視聴(注3)
FG6A9(−)
-0.306 (5)
(節約)
 
-0.547 (2)
(協調)
10.計画視聴
FG6AA(−)
     
備考  グループ 加入 非加入 加入・検討 未検討 加入 検討
分析サンプル数
135
137
176
96
135
41
判別関数重心値
-0.622
0.613
-0.463
0.849
-0.166
0.549



Wirks'λ
0.723
0.716
0.915
判別式の検定
0.0000
0.0000
0.0016
正準相関係数
0.527
0.533
0.291
正判別率
71.7%
75.4%
67.1%

(注1)【参考】の場合、データから未検討グループを除外したために、10個の因子スコアの独立性は失われ、変数間に相関が生じる。この場合には「割安感」と「協調視聴」は-0.034の相関係数を持つ。しかしこの程度の相関は判別係数の順位に影響してはいない。
(注2)( )番号は判別係数の絶対値の大きさの順位を表す。
(注3)因子9の判別への寄与は、ケース1では協調視聴というより節約視聴というべき概念から生まれ、参考】では本来の協調視聴の概念から生まれている。詳しくは本文のa.ケース1の末尾を参照せよ。

また3ケースを通して、10個の変数のうちの6個が判別に関与し、これらの変数で主な傾向が説明されている。表中には各ケース毎に係数の大きい順序を○番号で示している。以下では個別的にケースを見ていく。

a.ケース1:加入グループ VS 非加入(検討非加入・未検討)グループ

 表4.3-3のケース1は、加入グループと非加入グループの間で判別分析を行った結果である。ここでは6つの因子スコアが判別に効く変数として残されている。最も強く効くのは「割安感」、次いで若干下がって「社会教養指向」、3番目が「映画娯楽指向」、4番目が「環境テレビ視聴」、5番目が「協調視聴」、6番目が「画質向上指向」となっている。解釈としては、世帯主の先行傾向として「環境テレビ視聴」の傾向が強く「協調視聴」が弱く「割安感」が強い(コストを強く感じない)世帯が、「社会教養」や「映画娯楽」の番組を求め、また「画質向上」を求めてケーブルテレビに加入する、と言うことである。この6つの変数で、正準相関係数0.527、正判別率71.7%を実現している。

 加入グループと非加入グループの因子スコアの平均値を図4.3-1に示す。加入グループは5軸については有意に平均値が大きく、平均値の差が大きい軸ほど、判別関数の係数が大きくなっている。また判別関数の係数が与えられなかった他の4軸については、平均値はほぼ同じ水準にあり、加入・非加入での差はないため、分離に有効に働く変数とはなりにくい。協調視聴を除いては、加入者はすべての点で非加入者より傾向が強い。これらの強さが加入の源泉と考えられる。なお家族規模の軸は正で家族規模が大きくなる方向であるため、因子スコアの符号を逆転させ、便宜上図上では外側ほど家族規模が大きくなる様に見せている。


図4.3-1 加入グループと非加入グループの因子スコア平均値
(注)グラフの軸は外側ほど絶対値が大きく符号は負である。
したがって、外側ほど軸の傾向が強いことを表している。

 ケース1の場合について、各グループのサンプルが判別関数の値によってどの様に分布しているかを、図4.3-2に示す。同図に示すように様々なサンプルは判別関数値によって加入か非加入かの判別が行われる。


図4.3-2  加入グループと非加入グループの判別状況

 最後に、協調視聴の判別への寄与について注意をしておきたい。そもそも第9因子協調視聴を構成する「q3i.おつきあいで見る」、「q3j.つまらなくてもつい見てしまう」、「q3l.家族と一緒に見る」の3つの変数は、実は加入−非加入グループ間では平均値の有意差がない。にもかかわらず因子スコアには有意差があるのは一体何故だろうか。この原因を探るために、因子係数行列を見ると、実は第9因子協調視聴は主に次のような変数の一時結合によって出来ている。なおz??? は変数 ??? の標準化データである。
 

第9因子スコア= 0.507*zq3i + 0.483*zq3l + 0.325*zq3j - 0.110*q3e - 0.131zq3h + 0.103q3k + 他の寄与の小さい変数

 このうちの最初の3項から協調視聴の名称が決まっているが、この3項の和は加入−非加入グループ間では有意差はない。しかし続いてある4項目から6項目の合計は、非常に強い有意差を持っている。そしてその寄与があって、因子スコア全体ではグループ間の有意差を持ち、判別係数を持つに至っている。

 この様に見てくると、協調視聴の因子が判別に寄与すると言うより、-q3e、-q3h、q3kが作る因子概念(ここでは節約視聴)が判別係数を作り出していると考えるのが自然である。このために表4.3-3では(注3)をつけて、協調(節約)視聴とした。

 ところが同じ計算を加入−検討非加入のグループ間で行うと、今度ははじめの3項が強い有意差を持ち、後ろの3項は有意差を持たない。その結果として協調視聴の名称通りの効果が現れている。その原因は、加入、検討非加入、未検討の3グループのうちで検討非加入グループだけが特に協調視聴に強い傾向を持っているためであった。したがって判別係数の由来にはかなりの差があることになる。

b.ケース2:検討(加入・検討非加入)グループ VS 未検討グループ

 この2つのグループを分けるのに最も強く効いているのは、加入動機・関心のうちの番組指向性の「社会教養」と「映画娯楽」である。次いで「割安感」で、ケーブルテレビの加入料や基本料の費用負担感で、安く感じるほど検討が促進され、高く感じるほど未検討が促進されている。最後に世帯主の先行傾向としての「環境TV視聴」性が挙げられる。これらが強いほどに検討グループへの帰属が促進される。これはいつもテレビを点けておき、ながら的にテレビを利用する程度を意味しており、テレビを点けておくことが習慣的になっていることを示している指標である。

 まとめて言えば、「環境TV視聴」的でかつコスト意識が弱い世帯主が「社会教養」的な番組や「映画娯楽」的な番組を求めて、ケーブルテレビの加入を検討する、と言うことが出来る。

 次に参考のために、検討グループと未検討グループの因子スコアの平均値を図4.3-3に示す。各軸の外側ほどその傾向が強くなるように表しており、したがって検討グループはほとんどの点で未検討グループよりかなり各軸での傾向が強いことが分かる。さらに各グループ内の因子スコアの分散は大体1前後であるので、それぞれの軸上の平均値の差が、表4.3-3の判別関数の係数の大小を反映している。なお軸の名称の横に*印が添付されているが、これは平均値の分離の検定結果を示している。*印のついている4つの軸が、すべて判別に寄与する変数として採用されている。この様な平均値の分布を見ると、判別分析の結果はよく理解できる。


図4.3-3 検討グループと未検討グループの平均値

c.参考ケース:加入グループ VS 検討非加入グループ

 b.で述べた検討(加入・検討非加入)グループは、加入に関心を持って家庭内で話したり不明点を調べたりするわけだが、結果としては加入するグループと、検討したが加入はしなかったグループに分かれる。そこでこの2つのグループを分ける要因が何なのかを知るために、これらのグループ間で判別分析を行った。表4.3-3の参考ケースによると、最も強く効くのは「割安感」であり、次いで世帯主の先行傾向としての「協調視聴」、加入動機・関心の「画質向上指向」が挙げられた。この3つの因子以外には判別係数はない。

 そこでこの結果とケース2の結果を考えると、環境テレビ視聴の先有傾向が強く、コストを強く意識しない世帯主が番組の魅力に引かれてケーブルテレビの加入を考えるようになるが、さらにその中で画質向上を希望し、協調視聴が弱く、コスト感が弱い層が加入者になる、という構図を見ることが出来る。もしそうなら、関心を持つ段階と、決定に至る段階では、それぞれの段階への進展を促進する要因は、コスト面以外では別物であるということも言える。これは興味ある問題である。

 なおこの2グループの因子スコアの平均値を図4.3-4に示す。加入グループは7軸のうちで6軸については傾向が強いが、有意差があるのは「割安感」と「画質向上指向」、「協調視聴」の3軸である。この3軸が判別係数を持っており、判別分析との対応は明確である。平均値の差に比例した判別係数が現れている。


図4.3-4 加入グループと検討非加入グループの平均値

 しかしながらこの分析では正準相関係数は今までの場合よりかなり小さく、判別率も低いという点では問題がある。ところで第2章では、加入を検討する過程での家庭の賛否が決定を大きく左右するという点を見てきた。その際の変数の「前向き家族人数」と「消極家族人数」が値を持つのは、今回の「加入グループ VS 検討非加入グループ」を対象とした層の場合である。そこでこの2つの変数を含めた検討を次に行った。


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