目次へ戻る


2.2 先行研究の概要

(1)ケーブルテレビの将来の成長性

    R.E.Park "Future Growth of Cable Television"
    Journal of Broadcasting Vol.15,No.3(1971) PP.253-264

 1960年代の米国では10年間平均年率21%でケーブルテレビは成長し、1970年には7.5%の世帯普及率になっていた。ケーブルテレビの成長は放送サービスの向上を期待できる反面、既存の放送産業に色々な影響をもたらし、さらに非加入者のサービスを低下させかねない側面を含んでいると言う警告が流布されていた。そこで当時様々な対応の検討が要求されたが、対応策の一環として、究極ではどの程度まで成長するのか、その見通しによって対応策は変わるとの観点でこの研究がなされた。フォード財団の資金で、シンクタンクのランド社が研究を行うという点に、政策先行の研究の色合いが強く出ている。

 基本的なモデルはロジスティック曲線で、重要な変数は世帯数、地元放送電波数、地域外再送信電波数である。地元放送電波数 VS 地域外再送信電波数の散布図を6区分し、全国416地域のデータを用いて、各区分毎、さらには全米平均の究極普及率を算出した。各区分毎では29〜60%まであり、全米平均は大きくても40〜45%であるとした。

 これがケーブルテレビ研究の最初の加入モデルであるが、加入動機は地元放送電波数と地域外再送信電波数の差に依存し、再送信が魅力の中心の時代のモデルである。したがって多チャンネル化が進む後の加入研究とは本質的に異なるところがある。

 以下に骨子を説明する。

1.普及予測の考え方:Logistic Growth Curve

 ロジスティック曲線での成長を想定。パラメーターをデータから決定し、究極の普及比率を求める。

   Y = ea−b/T        Y:加入数、a,b:定数、T:時間

2.モデル

 各部分を次のように表す。
   e = F H e       Fi:サービスiの究極の加入率
H:世帯数
e:誤差(収入、代替手段、システムのサービスと管理など)
   b = b + b H + b H
bが大きいほど成長に時間がかかる。
世帯数が大きいほどにbが大きいと仮定。

 以上より、次の回帰式を求める。

   log Y = log Fi + log H + b1(-1/T) + b2 (-H/T) + b3(-H2/T) + u

3.利用データ

(2)ケーブルテレビの加入予測:地域要因

    J.Collins,J.Reagan and J.D.Abel "Predicting Cable Subscribership:Local Factors"
    Journal of Broadcasting Vol.27,No.2(1983) PP.177-183

1.研究の概要

 Parkが成長モデルを提案して10年程度が過ぎ、ケーブルテレビの普及は従来規制が強かった米国TOP100と呼ばれる都市部にも進み始め、同時にサービス内容も地域外再送信から様々な多チャンネルのサービスに変わり始めた。このため地域電波数と地域外電波数の差を主な要因として地域の加入率を説明するParkのモデルは、適用が困難な状況が生まれてきた。

 その様な状況変化の中で、従来のモデルとは異なる別のモデルが研究された。まずモデルの目的を地域の加入率ではなく、同一地域の個人の加入の有無に絞り、個人や世帯の加入決定を促す変数が何かを知ることを重視した。そこでデモグラヒック変数(年齢、性別、学歴、年収)以外に、ライフスタイルやメディア利用の変数として住宅所有、住宅タイプ、居住年数、前日のテレビ利用時間、前日のラジオ利用時間、前日の個人電話利用数、前日に会話をした人数、前日の新聞閲読時間、前月の映画視聴本数を取り上げた。また加入のコスト効率を高める変数も重要と想定し、子供の有無、世帯人数も変数として採用した。探索研究の位置づけから、多くの変数を採用している。

 データ収集はミシガン州の一つの多チャンネル型のケーブルテレビ地域で電話調査で行い、730サンプルのデータを得た。なお加入者は54%、非加入者は46%である。次のこのデータを判別分析にかけ、加入と非加入の判別に有効に効く変数を抽出した。主な結果を以下の表に示す。
 

表 加入者と非加入者の判別分析
変数 判別係数 加入の傾向
1.テレビ視聴
-.566
時間短い
2.住宅所有
.319
自己所有
3.収入
-.286
低い
4.住宅タイプ
.249
一戸建て
5.会話数
-.229
少ない
6.家族数
-.215
少ない
7.ラジオ利用
.175
時間長い
8.子ども
.161
有り

(注)判別分析はWirk's λ=0.878(12%の分散を説明)、正判別率67.7%、p<0.001

 この結果によると、「テレビ視聴時間短い」、「低収入」ほど加入者が増すことになる。「テレビ視聴時間」については、他の調査でも定説はないが、この研究の説明としては、「番組配信は衛星利用となり、多くの番組が配信される。様々な番組は映画館で見るよりもケーブルテレビで見る方が安価で、高収入層は映画館へ行くが長時間テレビを見る低収入層はケーブルテレビへ加入しやすい」と言う説明をしている。また「低収入」については、「高収入世帯ではテレビを見るよりスポーツ等に参加する傾向があり、加入が少ない」との見方もある、としている。

 最後に、検討している地域が狭いので、地域固有のメディア利用や構造が反映されており、地域固有のモデルとなっているので、複数地域間の比較研究の必要性を強調している。

2.研究へのコメント

a.判別分析の処理結果の解釈の問題

 多くの変数を扱い、処理過程で自動的に重要な変数が選ばれてくると考えられている様だが、判別分析を機械的に適用しても、係数の大小関係から直接的に重要な要因を同定することは出来ない。これが出来るためには、変数間の独立性が保証されねばならない。変数間の相関がない場合のみ、この様な解釈が可能である。

 この分野の多くの研究では、選択に効く要因を抽出する過程で、判別分析や回帰分析を使っているが、ほとんどの場合で変数間の独立性を検討してはいない。このため分析に使う変数のセットが異なれば、一次式の係数は異なって出てくることになり、当然研究成果間の結論は変わってくる。したがって地域間で差が問題なのか、採用する変数の組み合わせが問題であるのか、その辺の原因は定かではないし、結論は困難である。

b.分析対象の変数選択

 探索研究として多くの変数を扱っているが、選択過程で変数と加入の関係を定性的にでも説明することが省略されている。この場合には意味内容が分かり難い。

c.加入を検討するための枠組み


(3)ケーブルテレビ産業におけるマーケット構成:ベーシックとペイ

    R.V.Ducey, D.M.Krugman and D.Eckrich, "Predicting Market Segments in the Cable
    Industry: The Basic and Pay Subscribers," Journal of Broadcasting Vol.27, No.2,155-161(1983)

1.研究の概要

 ケーブルテレビの関係の研究は、ケーブルテレビが視聴者に与える影響や加入者と非加入者の差、公共放送への影響などが多い。他方、ペイ加入者は1976年の400万から1982年の900万に増えてきており、マーケットの観点からも、双方の差が何に依るのかという問題は重要性を帯びつつある。

 ここで配下の項目について調査を行った。

  1. 加入理由(5段階):電波障害対策、地域外局の受信、普通は見られない映画、普通は見られないスポーツ、HBO視聴
  2. テレビ利用:ウイークデイ昼の視聴時間、夜の視聴時間、土日に視聴時間
  3. 放送波数:地上波放送波数
  4. デモグラヒック変数:性別、年齢、学歴、収入、居住期間、子供数

 MSOのTeleCable系の4地域(異なる州)で郵送法調査を実施し、56%の有効回収率で、ベーシック662票、ペイが523票を得た。この回答に判別分析を適用した。

 主な分析結果を表に、概要を下記に記す。

  1. 断然大きいのは、加入理由のHBO、次いで年齢(若年ほどペイ)、収入(高収入ほどペイ)、地域外放送、映画、子供数、スポーツとなっている。高収入で映画好きの子持ち世帯はHBOに加入しやすい。
  2. テレビ視聴時間には有意差はない。
  3. 放送波数にも有意差はない。5〜6波の放送がある場合には、その倍ある層よりHBO加入が増すわけではない。この辺になると放送波数は影響しない。むしろHBO加入者は質的に別の番組を求める層で、ペイ加入のためにベーシックに加入する。今後の都市部での加入では、これらの視点が重要になろう。

 
表 判別分析に結果
変数 標準化 平均
判別係数 ベーシック- HBO +
<加入理由> 
難視対応 *
-0.064
 
4.174
3.978
地域外放送
-0.135
4.655
4.647
映画 **
0.135
3.219
4.103
スポーツ
-0.121
3.409
3.437
HBO **
0.832
1.947
3.772
<放送利用>
昼視聴時間
0.083
 
2.739
2.782
夜視聴時間
-0.011
 
4.474
4.553
土・視聴時間
0.019
 
4.419
4.523
日・視聴時間
0.080
 
4.667
4.728
<放送波数>
地上波数(0少、1多)
-0.063
 
0.403
0.385
<人口統計>
性別(0:f,1:m)
0.002
 
0.593
0.551
年齢 **
-0.299
5.344
4.465
学歴
0.018
 
3.126
3.206
子供数 **
0.129
0.928
1.416
居住年数 **
-0.017
 
16.211
12.605
収入 *
0.141
7.728
8.275

(注)1.判別関数の正準相関係数=0.6206,Wirk's λ=0.615、正判別率79.6%
2.右の番号は絶対値の大きい順を示す。
3.*:平均値の差の有意差を示す。

2.研究へのコメント

 判別係数で要因の有効性を議論する場合には、その前に各変数間の相関の程度の確認を欠くことはできない。相関がある場合には、単純に係数の大小で意味を判断することは出来ない。

(4)満足度、デモグラヒック変数とメディア環境面でのケーブルテレビ加入の決定要因

    R.LaRose and D.Atokin."Satisfaction,Demographic,and Media Environment Predictors of Cable Subscription"
    Journal of Broadcasting & Electronic Media Vol.32(1988),No.4,PP.403-413

1.研究の概要

 ケーブルテレビの加入者は全米で半分を超えたが、初期加入、さらにはチャーンが係わる加入継続決定の要因について、納得のいく研究はなく、理解は不十分である。80年代前半の先行研究において、ケーブルテレビ加入決定要因は、いわば外部変数とでも言うべきデモグラヒック変数が中心で、ケーブルテレビを現在のように普及させた筈の加入動機や内在するニーズ等の内的な要因は殆ど考慮されていない。

 また以前の研究は加入率が30%程度の時点であり、データのほとんどが幾つかのケーブルテレビ地域からのもので、現状を代表するとは言いにくい。ケーブルテレビは成長過程にあり、加入者のプロファイルは次々と変わる。研究者はどれが特定の地域・時期に依存するものか、どれが本来的な加入のダイナミックスに関わるかの識別すべきである。 

 そこでこの研究では、過去のケーブルテレビ加入の研究にある矛盾を、新たな変数利用とナショナルレベルの世帯サンプルを用いて解決する。同時に現段階に見合う加入プロセスの概念形成をする。

2.加入継続のモデル

 加入継続のモデルとして、confirmation/disconfirmation paradigm(確信−落胆パラダイム)を用いる。これは、購入前の期待と購入後の評価が再購入(再加入)を決定する、つまり期待が満たされ満足が生じれば今後の購入も継続する、使用経験が最初の期待に至らないと、再購入は起こりにくい、とするものである。

3.調査項目

4.調査

 85年と86年のホームパス地域から、多段階サンプリングを適用し、世帯数で層化した100地域を選び、random digit dialing で、各地域から同数程度が抽出されるように、サンプルを抽出した。世帯主がインタビューされ、全体のうちの約60%程度が調査された。サンプル数は1236、欠損値のないサンプル数は1001である。

5.結果

6.明らかになった点

  1. 人口統計変数やメディア環境変数よりも、満足度が最も効くことが明らかになった。
    中止意図の予測式は、P<0.001で R=0.38, R=0.14。conf/disconf パラダイムに係わる評価の態度変数が、説明が付く分散(14%)の90%を占め、大筋はこれらの変数で決まっている。

     
    表 中止意図を従属変数とする回帰分析
      β
    回帰係数

    寄与率 
    r
    相関係数
    態度変数
    ・満足度
    -0.20
    0.09
    -0.30
    ・カスタマ・サービス
    -0.11
    0.02
    -0.24
    ・不平経験
    0.10
    0.01
    0.21
    ・期待度
    -0.10
    0.01
    -0.25
    メディア環境変数
    ・空中波数
    0.09
    0.01
    0.10
    ・カウンティ規模
    0.05
    0.00
    0.00
    10
    ・VCRのCATV接続
    -0.06
    0.00
    -0.04
    ・VCRテープレンタル
    -0.04
    10
    0.00
    -0.02
    人口統計変数
    ・収入
    -0.06
    0.01
    -0.01
    ・家族数
    -0.07
    0.00
    0.06

    (注)右の番号は絶対値が何位の大きさかを示す。

    分散の説明力が十分に大きいと言うわけではないが、加入継続に関するCATVの価値認識は、必ずしも番組の種類や画質にある訳ではなく、むしろオペレーターが地域で果たす役割、お客の扱い方、メディアが持つイメージにある。番組や画質は文句が生じない範囲なら問題はない。問題が起こったら、どの様に対処するかがより重要である。
  2. 番組や画質に満足している人たちが、サービスに不満を感じている人たちより安心できる、と言うことはない。画質や番組評価は、相関係数上ではかなり大きかったが、重要な予測変数ではない。
  3. メディア環境面では、コストや番組数は無関係であった。料金と加入に関係が無い点は興味がある。価値認識が継続性と関係しており、客観的なコスト(料金そのもの)は関係ないのである。料金が高くても、価値を認識させることが出来れば、加入は継続する。
  4. VCR所有自体は関係ないが、CATV接続数、テープレンタル数が多いほど、中止はしにくい。VCR利用はCATVにとって敵対的ではなく、相乗的である。重度のメディア利用者ほど加入傾向が強く、VCR利用者もその傾向である。
  5. ペイ加入やティア料金採用の有無は無関係。
  6. 人口統計変数は弱い関係があるだけ。収入が高いほど、家族数が大きいほど、中止しにくい。他の変数は関係ない。

(5)ケーブルテレビのサービスをアップ/ダウンさせる決定要因:コスト

    Don Umphery(1991),"Consumer Costs:A Determinant in Upgrading or Downgrading of
    Cable Services",Journalism Quarterly Vol.68: 698-708

1.研究の概要

 ケーブルテレビは新規加入が少なくて、加入−非加入の問題は、新規加入者というよりも加入を中止したりサービスを低下させたりするチャーンの問題が中心になってきた。そこでチャーンを引き起こす要因は何かを調査している。

 調査項目は下記で、86年4月、87年5月にパネル調査を行い、データを入手し、グループ間比較、クロス集計で、有意差をもたらす項目を明らかにしようとした。

a.加入状況

 加入動機(画質、映画、番組の選択)、加入継続期間、月額利用料(8段階選択)

b.テレビ利用

c.他のメディア利用

d.テレビ態度

 主な結果を次に示す。

  1. サービス変更グループ間では、TV態度面、TV以外のメディア利用、人口統計面での差はない。
  2. R.LaRoseはチャーンにコストは関係ないと言っているが、本研究ではコストが支配要因である。期待/落胆のプロセスの考えからすれば、加入者の支払いは大きい期待であり、かつ毎月の料金水準はサービスのダウンとアップの規定要因である。他の要因に有意な差はなく、料金だけが有意差を生じている。
  3. チャーンをする人は、若年層、高料金支払い、短期加入、映画とトークショーをよくみる層である。
  4. 変更の前と後では、後の方で態度とメディア利用に差が出る。サービスアップは期待して上位のサービスを得、サービスダウン(ペイチャンネルの中止)はTVに疎遠となって下位のサービスを得る。この時点での視聴時間や映画視聴の増加ないしは減少は明確である。
  5. 初期の研究と違って、ベーシックとペイには人口統計変数での差はない。視聴動向とTV態度でも差はない。普及が既に高い段階に達しているためであろう。(ペイは若年、子供あり、高収入の傾向がある。Ducey 83)

2.研究へのコメント

 加入変更への影響調査の手法としては関心が持たれるが、メニュー選択の決定要因がコストであるというのは、不自然である。コストは期待を表す変数かもしれないが、直接的に表す変数が採用されるべきであろう。この論理では、高コスト負担者はすべてチャーンの予備軍と言うことになる。高コストの背景となった期待の項目が検討されるべきである。その期待が変わるかCATVへの見方が変わるかして、利用者はチャーンを選ぶだろう。


次へ進む
目次へ戻る