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3.3 世帯における加入決定のプロセス

(1)家族の賛否数

 前節で述べたように、地域のケーブルテレビを認知し、その結果加入のための検討を行う層が34.0%あり、そのうちの12.6%が加入に至っている。本調査ではこの様な加入の決定のプロセスにおいて、加入を検討した層については、世帯内で加入についてどの様な賛否があったかを聞いている。非加入者は295人のうちで72人が加入の検討を行っている。まず加入世帯と非加入世帯の検討層における賛否状況を図3.3-1に示す。


図3.3-1 加入世帯と検討非加入世帯の前向き者数(χ2 Sig.:**)

顕著な差は、検討非加入世帯に比べ、加入世帯の前向き家族が非常に多いことである。世帯当たりの平均前向き者数は、加入世帯が2.15人であるのに対して、検討非加入世帯では1.69人である。

 同様に両世帯について加入に消極的な家族がどの程度存在したかを調べた結果が図3.3-2である。こちらは図3.3-1の傾向と類似し、加入世帯は検討非加入世帯に比べて、消極者が非常に少ない。加入世帯では8割弱の世帯で消極的な人は誰も居ないのに対して、非加入世帯では4人以上反対とのケースもある。


図3.3-2 加入世帯と検討非加入世帯の消極者数(χ2 Sig.:****)

 この様に見てくると、世帯内の賛否が加入に影響することは容易に想像される。そこで賛否の全体像を表3.3-1に示す。同表によると加入世帯では平均前向き者は家族の2/3であるのに対して、平均消極者数は8.7%に過ぎない。それに対して検討非加入世帯では、半分強が前向きなのに対して、約1/3は消極的である。この前向き者の少なさと消極者の多さが、決定過程での非加入を結論づけている可能性が高いと理解される。 ただしこの賛否だけで結論が下されるかというと、そうではない側面もある。表3.3-1の最後に、消極者がいる67の加入世帯では賛否がどの様になっているかを示している。この行の数値は検討非加入世帯の数値より若干消極さが強くすらある。また検討非加入世帯の29%(21世帯)では消極者はいないが、加入には至っていない。しかし結果としては加入と非加入に分かれるわけで、賛否が加入非加入の大きい要因であるとしても、それ以外の別の要因も存在することを示している。

 なお参考として表3.3-1の下に別の調査で得た同様な賛否データを再掲している。双方はほとんど一致しており、この2つの地域では同様な加入決定過程があることを示している。
 

表3.3-1 加入に関する家族の賛否と決定 単位:人 ( )は%
世帯区分 平均家族数 平均前向き数 平均消極数
加入世帯 N=286
3.21
(100.0)
2.15
(67.0)
0.28
( 8.7)
検討
非加入世帯 N=72
3.31
(100.0)
1.68
(50.8)
1.22
(36.9)
消極者のいる
加入世帯 N=67
3.39
(100.0)
1.71
(50.4)
1.57
(46.3)

(注)加入が10世帯、検討非加入が3世帯の単身世帯を含む。


 
[参考]家族の賛否に関する別の事例 単位:人 ( )は%
世帯区分 平均家族数 平均前向き数 平均消極数
加入世帯 N=211
3.50
(100.0)
2.38
(68.0)
0.25
( 7.0)
検討した
非加入世帯 N=63
3.73
(100.0)
1.64
(44.0)
1.00
(26.8)

(注)横浜ケーブルビジョンの場合(94.4) 出典:八ッ橋(1996A)

(2)家族の賛否状況

 賛否の人数の比較からさらに一歩進んで、次に家族の賛否状況がどの様になっていたのかを図3.3-3に示す。家族を世帯主、配偶者、男子中・高生などのように11のカテゴリーに分け、さらに賛否を、最も前向き、次に前向き、中立的、消極的(最も消極的と次に消極的を合算)の4種類に分けている。この分類にしたがって、家族それぞれがどの様に賛否を主張していたのかをまとめたものである。各比率は、加入者世帯全体、ないしは検討非加入世帯全体をベースに求められている。同図から次の傾向を読みとることが出来る。


図3.3−3 家族の賛否状況

  1. 世帯主はいずれの場合も前向き姿勢が強い。加入世帯では前向きは8割弱、検討非加入世帯では6割弱である。世帯主が加入意欲の相当部分の源泉になっていることが分かる。
  2. 世帯主は消極姿勢の点では、検討非加入世帯の方がかなり大きい。
  3. 配偶者は、加入世帯では前向き姿勢が50.0%と大きいが、非加入世帯では30%弱に留まっている。他方、加入世帯の消極姿勢は10.8%であるが、検討非加入世帯では半分弱である。加入世帯と検討非加入世帯では著しく異なり、配偶者の賛否が加入を大きく左右する可能性が高い。
  4. 男子中・高生〜女子学生の場合は、加入世帯より非加入世帯の方が前向き者が多い。それに対して、働く30才未満男子〜働く60才未満女子の場合には、加入世帯の方が前向き家族が多い。この辺は世帯主、配偶者の場合とも共通しており、経済力のない加入希望者が多くても、加入には至りにくいことが理解される。

(3)加入に消極的理由

 加入動機の分析は次節で行うが、ここでは加入に消極的な理由を集計した結果を図3.3-4に示す。加入世帯と非加入世帯での消極的な理由の差は、双方とも同様な傾向であるが、「3.加入費用や利用料が高い」、「6.テレビの見過ぎはよくない」、「10.BSだけに加入 or 加入希望」の3項目については、非加入が特に大きくなっている。その点で注目すべき理由と考えられる。これらについては、後に別のところで議論をする。


図3.3-4 加入に消極的な理由

(4)加入か非加入の決定者

 誰が最終的に加入か非加入の決定を行うかを調べたのが図3.3-5である。加入世帯の場合は、6割が世帯主で、世帯主が加入に果たす積極的な割合と一致する。また2人による共同決定が約15%、配偶者が約12%、家族の多数決6%などがある。


図3.3-5 加入/非加入の決定者

 他方非加入世帯の場合は、加入世帯と多少異なり、世帯主が決定するのは約38%と低くなっている。また配偶者の決定は約3%と低い。それに対して2人で決定が約26%と増加し、配偶者の役割が間接的に高まっていることを示している。また未決定が約13%居る。世帯主の消極者は36%であったから、ほぼ同数程度が世帯主の決定で、消極者の多い配偶者は、2人の決定や他の決定の陰に隠れており、潜在力を行使しているように見える。

 また、世帯主や配偶者の決定力が大きいが、家族メディアとして家族が広く決定に関与する構造も見て取れる。

 それでは世帯主や配偶者の消極性はどの程度に非加入をもたらしうるのだろうか。ここでは調査データをもとに、消極者が、1.世帯主と配偶者の両方、2.世帯主、3.配偶者、4.どちらもいない場合の非加入率を推定してみた。その結果を表3.3-2に示す。抽出率を用いて調査データをウエイトバックし、全体像を推定し、各グループごとにどの程度の加入率になっているのかを求めている。それによると全体像はこの様になっている。
 

表3.3-2 世帯主・配偶者の賛否と加入
賛否状況
調査データ
ウエイトバックでの推定数
加入 検討
非加入
加入 検討
非加入
合計 構成比 加入比率
1.両方消極的
4
15
6
166
172
13.6%
3.6%
2.世帯主が消極的
20
11
33
121
154
12.2%
21.4%
3.配偶者が消極的
26
19
43
210
253
20.0%
17.0%
4.どちらも消極的でない
236
27
387
299
686
54.2%
55.1%
合計
286
72
469
796
1265
100.0%
37.1%

 母集団全体の3720世帯のうちで、34%の1265世帯が加入を検討した。そのうちの172世帯(13.6%)は世帯主と配偶者の両方が加入には消極的であった。結果としては6世帯(3.6%)が加入に至り、ほとんどは非加入となっている。同様に世帯主が消極的な世帯は12.2%あり、そのうちの21.4%が加入に至って、約8割は非加入になっている。

 これらの傾向を大ざっぱに見れば、次のように言うことが出来る。世帯主も配偶者も消極的でない世帯では、加入か非加入かはおおよそフィフティ−フィフティであり、世帯主か配偶者のどちらかが消極的になると、加入確率は1/5程度になり、両方が消極的な場合は1/25程度になる。世帯主か配偶者の賛否がかなり加入と非加入の選択を決めていることをよく理解できる。

 以上の調査結果から家族の賛否が加入に及ぼす影響をまとめると、次の点を挙げることが出来る。

  1. ケーブルテレビへの加入決定は家族の合意に基づいて行われる。加入にはおよそ2/3の賛意が必要であり、1/3強の反対があると加入には至らない。
  2. ケーブルテレビへの加入をリードするのは世帯主である。加入および決定面での世帯主の影響力は大きい。
  3. しかし加入への決定は配偶者の意向にも大きく左右される。配偶者が反対すると、加入に至るのは難しい。
  4. 他方配偶者が前向きの場合、世帯主が反対すると同様に加入には至りにくい。
  5. 世帯主か配偶者の片方が加入に反対すると、加入確率は1/5程度になり、両方反対すると1/25程度となる。
  6. 世帯主と配偶者以外の家族の影響は、補足的に効いている。どちらかと言えば経済力のない若年層より、経済力のある家族の発言力が効く。
  7. 総称すれば、世帯主がリードするコンセンサス型の意志決定で、経済力を持つ家族の意向が加入を左右する、と言えよう。

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