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3.5 加入におけるコミュニケーションの効果

 技術革新の普及理論(ロジャーズ(1990))から見ると、新技術の採用には様々なコミュニケーション・チャンネルが影響すると言われる。初期の普及段階ではマスメディア・チャンネルが、普及が進むとともにパーソナル・チャンネルの比重が高まるとされている。本調査ではこの様なコミュニケーションの効果がどの様になっているかを調べた。

(1)認知のルート

 まず最初は、どの様な情報ルートから地域のケーブルテレビの存在を知るに至ったかを聞いている。集計結果を図3.5-1に示す。同図は加入者にとって多い情報ルートの順にグラフを書いており、主な傾向を次にまとめる。

  1. 断然多いのは加入者、非加入者ともに「ポスター、チラシ」で、加入者の38%、非加入者の43%がこれをあげている。
  2. 2位から4位までの比較的上位の項目で加入世帯が非加入世帯に比べて多く、「営業マンの訪問」、「町会の回覧・説明会」、「家族の話」がある。加入者ではパーソナル・チャンネルが多い。
  3. 非加入世帯が多いのは、「ポスター、チラシ」、「工事を見て」で、マスメディア・チャンネルが多い。

 パーソナル・チャンネルからの情報は、単なる認知情報や宣伝情報だけでなく、評価情報を含み、かつやり取りが可能(インタラクティブ)であることから加入への促進効果がかかり易いと考えられる。


図3.5-1 ケーブルテレビ認知の情報ルート

(2)CATV局以外の人への相談

 加入検討中には情報を求めて他者に相談することもある。CATV局以外の人への相談がどの様になっていたのかを調べたのが図3.5-2である。双方に有意な差はなく、傾向としては加入世帯も非加入世帯も約1/4がCATV局以外に相談している。


図3.5-2 CATV局以外の人への相談の有無

 具体的な相談相手を図3.5-3に示す。加入世帯でも非加入世帯でも傾向は類似しているが、大きく異なるのが「加入者の知人」と「職場・仕事関係の知人」の場合である。前者では加入者の比率が高いが、後者では非加入者の比率が高い。身近な人々から話を聞く方が、疎遠な人々から話を聞くより加入する可能性が高いことを示していると思われる。また加入世帯では若干だが専門家に意見を聞いている例がある。またCATV局の代理店は加入世帯の上から2番目にあり、情報ルートとして重要な役割を果たしていることが分かる。


図3.5-3 相談の相手

 次に相談相手の人数を聞いているが、その結果を図3.5-4に示す。大体が2人以内というところだが、4人以上が1割程度はある。一見すると加入世帯の方が少なく見えるが、統計的な有意差はない。しかし非加入世帯は慎重に調べるということはあり得る。


図3.5-4 相談相手の人数

 次に相談内容についての結果を図3.5-5に示す。相談内容にはかなりの差が見える。概して非加入世帯では加入世帯より多くのことを聞いている。両者の差が大きい点は、「チャンネル・番組の内容と評判」、「ケーブルと普通のテレビの損得」、「サービスの種類と契約」である。非加入世帯ではより詳しく内容を調査・評価し、損得を考えて加入を止め、または先送りしているように見える。


図3.5-5 相談・質問した内容

 さらに質問・相談に答えた相手が、ケーブルテレビに対して好意的だったか否かを聞いた結果を図3.5-6に示す。加入世帯の方は82%が好意的であるのに対して、非加入世帯では53%に留まっており、好意的である度合いが高い。次に中立的な相談者は非加入者の方が明らかに多い。それに対して否定的な印象を与えた相談者は非加入世帯に多いが、その比率は僅かである。統計的有意差はあるが、好意的に説明を受けても非加入に至っている場合が多いので、相談者の否定的な印象が非加入を引き起こしているとは考えがたい。


図3.5-6 説明者のケーブルテレビへの好意(χ2:Sig.*)


(3)CATV社員からの説明

 次は加入決定の前にCATV社員から説明を受けていたか否かを調べている。結果を図3.5-7に示す。加入者の5割は決定前の説明を受けているが、非加入者では4割である。解釈としては、1.CATV社員の説明が効果的である、2.加入決定前と言っても、CATV社員に説明を受ける段階では、前向き姿勢が強まっている場合が多い、3.普及の初期で口コミよりチェンジエージェントの説得が有効な段階にある、の3つが考えられる。関心のある問題だが、現状ではこれ以上の判断をすることは出来ない。


図3.5-7 加入決定前のCATV局社員からの説明(χ2:Sig.*)

(4)加入/非加入の決定への影響

 CATV社員やCATV以外の人への相談・質問が、加入/非加入の決定に影響したか否かを聞いた結果を図3.5-8に示す。加入世帯では5割強が、加入決定に影響した家庭外の人は居なかった、としている。これらは世帯独自で決定をしている、かなり確信のある決定者と言うことが出来よう。残りの半分弱は加入決定に影響を与えた家庭外の人の存在を挙げている。第1位は約1/4で、CATV局の社員・営業マンである。次いで加入者の知人、職場・仕事関係の知人となっている。


図3.5-8 決定に影響を与えた家庭外の人

 これに対して非加入者は約8割が「特にいない」としており、決定がほとんど世帯独自の判断で行われている。図3.5-6による、加入に否定的な印象を与えた相談者が居なかったことと対応している。ただしこの図では72人のうちの4人(5.6%)が外部の人の影響を受けたとしている。しかし大筋の結論、大部分の検討非加入者は、世帯独自の判断で非加入の決定をしている、と言う姿は変わらない。


(5)コミュニケーションの効果の全体像

 これまでに説明してきた、CATV局以外の人との相談、CATV局との相談から4つのコミュニケーションのタイプ(CATV局以外の人のみ、CATV局の人のみ、CATV局以外とCATV局の両方、両方無し)を作り、その分布を見ると図3.5-9が得られる。同図によると、加入世帯の方が相談者が多く見えるが、全体としてみると加入世帯と非加入世帯の間には、統計的な有意差はなく、相談者が加入に有意に作用していると見ることは出来ない。


図3.5-9 決定過程における相談者(χ2:Sig.0.63)

 ところで図3.5-10に横浜テレビ局YTVの調査結果(八ッ橋 1998)を示しておくが、こちらの方は相談者が加入に影響する可能性については明確で、特にCATV局の社員の効果が明確であった。この差は何処で生じているのだろうか。可能性のある説明の一つはCATVの普及段階と関係があるかも知れない。双方の地域の世帯普及率は、YTVの場合は約8%である。それに対して今回のジェイコム湘南の場合は12%である。仮に世帯普及の成熟上限を米国の水準の65%程度とすると、10.4%(65%×0.16)が初期採用者が採用を終わり、前期多数採用者が採用を始める段階にある。したがってYTVの場合には初期採用者が採用を終わりつつある段階であり、ジェイコム湘南の場合には前期多数採用者が採用を始めつつある段階である。他方、初期採用者ではチェンジエージェントの影響が大きいが、前期多数採用者の採用が進むほどに採用においてパーソナル・コミュニケーションが重要度を増す。したがって採用が進むほどにCATV局営業マンの効果は減少し、オピニオン・リーダや知人の効果が増すことになる。両者のデータの相違はこの様な傾向と一致している。この様な効果の分析は今後の興味ある課題である。


図3.5-10 YTVに見る決定過程における相談者(χ2:Sig.****)


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