文教大学女子短期大学部同窓会「芙蓉会」|コラム:気候変動と食文化について考えてみましょう


気候変動と食文化について考えてみましょう

【カーボンフットプリント】

 気候変動に関する政府間パネル( ICPP )は、今後地球温暖化が促進され、熱帯低気圧の強度の増大、降水量の増加などにより頻繁に災害が発生すると、警告しています。現実にそのようなことが頻繁に起こっているように感じられる今日この頃だと思います。

 気候変動問題への対処は喫緊の課題であり、わが国でも、菅総理大臣が、カーボン(炭素)ニュートラルな社会の実現を 2050 年までに達成する目標を表明しました。温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、フロン類などは炭素で構成されており、その炭素に注目して、温室効果ガスの大気中への排出量を、ある商品における原料の生成から廃棄に至るまでのライフサイクル全体の中で算出したものをカーボンフットプリント( CFP )といいます。

【食事に伴うカーボンフットプリント】

日本人の年間 CFP の総量は、 1 人当たり 7.6 トンであり、そのうち、電気などの住居関連が 2.4 トン、自動車などの移動が 1.6 トン、そして食事に関係したものが 1.4 トンであるとの報告があります。

食事に伴う CFP の排出量のうち、最も多くを占めるのが肉類の摂取です。肉類消費の CFP が、食事に関係した CFP の約 23% を占めます。排出元として、畜産によるえさの栽培や糞尿の処理、牛の「おなら」や「ゲップ」などがあります。牛の「おなら」や「ゲップ」にはメタンが含まれており、このメタンの温室効果は二酸化炭素の 28 倍あります。お肉を食べることは、環境に負荷をかけていることになりますね。

肉食に関しては、 2019 年に英国の医学雑誌ランセットの EAT 委員会が、 1 日当たり 14g (牛肉、ラム肉、豚肉の調理済み重量)を、持続可能なフードシステムにおける健康的な食事の推奨量として提案しました。でも、この量は数日に 1 回、まとまった量の肉塊を食べられますので、肉食好きには酷かもしれませんが、無理な数字とは言えないでしょう。

【カーボンフットプリントの軽減】

 食事よる環境負荷を軽減するため、様々な取り組みが行われているようです。

例えば、牛からのメタンの排出量を減少させる飼料の開発・研究、ゲノム科学を応用したメタン排出量の少ない牛の繁殖計画、フードテック(フードとテクノロジーを融合させたもの)によって、植物性たんぱく質から人工肉を作り、環境負荷を軽減する試み(すでに代用肉として商品化されています)、培養肉の作成などがあります。

また、 2013 年には国連食糧農業機関( FAO )が、昆虫食の可能性を展望した報告書を出しています。私も柳虫やコオロギの昆虫食を経験したことがあります。さらに、宇宙食としての昆虫食(イエバエの幼虫など)も研究されているようです。

 食事によるカーボンフットプリントの軽減は大事でありますが、同時に、このような科学技術が、これまで培ってきた食文化にどのような影響を与えるかについてもよく考えていく必要があるのではないでしょうか。

健康栄養学部学部長 松村康弘