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3.研究の成果
3.1W杯情報の収集手段としてのインターネット利用
(1)インターネット利用者と非利用者W杯の情報は、テレビ、新聞、ラジオ、インターネット等の様々なメディアを介して提供され、人々に利用されている。ここではまずインターネットがどのように利用されていたかを見てみる。図3-3-1はその結果である。同図によると約1/3がインターネットを利用し、残りの2/3は利用していない。
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次にインターネットの利用時間を図3-1-2に示す。インターネット利用者(約1/3)のうちの約1/3つまり20%がインターネットを1時間/日以上利用していた人々である。残りの約2/3(22%)は1時間/日未満の利用者である。
そこで、この3つのグループにどんな違いがあるのか見ていく。
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(2)インターネットの利用時間によるW杯の関心度
調査では回答者がW杯の試合をどの程度観戦したかを聞いている。質問は、日本戦、韓国戦、日本・韓国以外の試合のそれぞれについて聞いている。インターネットの利用度合いとこれらの試合数がどのような関係にあるかを見ていく。
まず、日本戦についての結果を図3-1-3に示す。インターネットを利用した人は、利用時間に関わらず4試合見ている人が圧倒的に多いが、1試合以下という人はいなかった。それに対してインターネット非利用者の方は、観戦試合数はずっと少ない。日本戦への関心の差、ないしはW杯への関心の差がかなり大きいと考えられる。
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次に韓国戦であるが、インターネットの利用時間が増えるとともに、韓国戦を見た割合が増えている。やはり、インターネット利用者は、日本戦だけでなく韓国戦にも強い興味を持っていたことが分かる。
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最後に韓国戦以外の試合である。図3-1-5に結果を示す。
インターネット利用者の方が、非利用者に比べれば、観戦試合数が多い。しかも、インターネット利用者の中でも1時間/日未満と1時間/日以上を比較すると16試合以上の割合が1時間/日未満の場合15%であったものが、1時間/日以上では45.5%と大幅に増加しているインターネット利用が長いほどに日韓戦以外の観戦数は多くなっている。
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図3-1-3、図3-1-4、図3-1-5から次のようなことを言うことができる。@インターネット非利用者は、概してサッカーそのものよりもW杯と日本チームに関心を持っている。A1時間/日未満のインターネット利用者は、概してサッカーに関心があり、またW杯と日本、韓国チームに関心がある人である。B1時間/日以上のインターネット利用者は、W杯に限定するよりも、もともとサッカー自体に強い興味を持つ人である。
調査ではW杯に対する様々な感想を聞いている。この感想が、インターネット利用時間のグループでどのように異なるかを図3-1-6で示している。設問の選択肢は「1.そう思う」、「2.ややそう思う」、「3.どちらとも言えない」、「4.ややそう思わない」、「5.そう思わない」まで5段階ある。図3-1-6ではグループ毎の回答の平均値を示している。同図によると、インターネット利用1時間/日未満と非利用者の平均値はかなり似通っており、さらに、どの設問でも好意的に評価している。しかし、インターネット1時間/日以上の利用者は、これらの2つのグループに比べて好意的には評価していない。
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(3)インターネットの利用別に見たテレビ報道による印象の違い
図3-1-6の結果から1時間未満の利用者は、非利用者と感想などの傾向が似ているため1つのグループにまとめる事にした。
以下のグラフは、インターネットの1時間以上の利用者と1時間未満・非利用者の2つのグループによる違いをみたものである。また、特に調査に重要だと思った項目についてのみグラフとして表示した。a.ダイジェスト番組
テレビ報道では多くのダイジェスト番組が組まれ、W杯の報道が行われた。これらのダイジェスト番組に対する感想を様々な面から調べている。いくつかの項目についてその結果を図3-1-7に示す。
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「ダイジェスト番組で言論統制的な空気があったと思うか」という設問では、全体を見ると平均値が3.33となっていて、「どちらとも言えない」という、言論統制的な空気をあまり気にしていないという評価である。しかし、1時間/日以上のインターネット利用者の平均は2.8で、「言論統制的な空気」を多少は感じる評価となっている。他方で、1時間/日未満・非利用者は平均値3.41であり、インターネット非利用者と1時間/日未満の利用者は、ダイジェスト番組では言論統制的な空気はなかったと評価していることが分かる。
次に「日韓友好キャンペーンが良かったと思うか」という設問である。全体を見ると3.27であるが、インターネット1時間/日以上の利用者の平均値は3.8となっていて、1時間/日未満・非利用者と比べると日韓友好キャンペーンはあまり好評ではなかった。
「誤審問題を取り上げていたか」という設問では、全体は2.89だが、インターネット1時間/日以上の利用者は平均値が3.5で、インターネット非利用者・1時間/日未満の人は2.79だった。1時間/日以上の人は1時間/日未満・非利用者と比べると、誤審問題を取り上げてないと思った人が多かった。
なお、図中の*印は、平均値の分離が統計的に有意である(0.01<P≦0.05)ことを示している。b.ワイドショー
テレビ放送では、ダイジェスト番組を同じようにワイドショーでもW杯を多く取り上げていた。そこでワイドショーについても質問をした。
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ワイドショーで「言論統制的な空気があったか」という設問では、全体の平均値は3.21だった。しかし、1時間/日以上のインターネット利用者の平均値は2.7で、多少言論統制的な空気を感じていた。1時間/日未満・非利用の平均値は3.3でダイジェスト番組と同じような結果になった。「日韓友好キャンペーンは良かったと思うか」という設問では、1時間/日以上の利用者の平均値は3.7で、どちらかというと日韓友好キャンペーンを好意的には思っていなかったようだ。
「誤審問題を取り上げていたか」という設問では、1時間/日以上の平均値が3.9で、取り上げていないと評価する傾向が強い。1時間/日未満・非利用者の平均値は2.97で「どちらとも言えない」という結果である。(なお、図中の**印は、平均値の分離の有意確率が、0.001<P≦0.01であることを示している)
ダイジェスト番組とワイドショーでは、ほぼ同じような結果である。インターネットで広く情報を得た人はテレビの報道に納得できない点があったのではないかと思う。
(4)韓国戦の感想
今回のW杯では、韓国は予想外の快進撃を続け、同時に誤審問題が起こるなど、韓国戦は様々な話題を提供した。
そこで韓国戦に対して回答者はどのような感想を持っているのかを調べた。その結果を図3-1-9に示す。
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回答者の回答比率で最も高かったのは、「審判が怪しいとかった」である。1時間/日以上の利用者の利用者は90.0%とほとんどが、審判を怪しいと感じており、非利用者・1時間未満/日利用者葉47.8%と約半分がそう感じていた。どちらも1位の項目だが、2つのグループ間の差が非常に大きい点も注目される。2番目に高かったのは「好きなチームが韓国に負けて悔しい」で1時間/日以上のインターネット利用者には、韓国と対戦した欧州チームのファンが多く、サッカーに対する関心度が高いことが見てとれる。
3番目「プレースタイルが好みでない」から5番目「応援マナー(スタジアムの雰囲気)が嫌だった」までは、全部1時間/日以上のインターネット利用グループは強く感じ、他のグループの感じ方は弱い。
これ以下の項目については、1時間/日未満・非利用者のグループの回答比率が高く、しかも項目内容は概して韓国チーム好意的な傾向が見てとれる。全体的に見れば、1時間/日以上の利用者は、韓国チームに対してあまり好意的ではなく、ゲームの公正さに関する点で強く反応していた。他方、非利用者・1時間/日未満の方は韓国チームに対して好意的な傾向が見られた。
以上で見てきたように、この2つのグループ間ではW杯の成否やゲーム・チームに対する印象はかなり異なる。テレビ・新聞では、韓国チームに対して好意的な情報を多くは発信していたが、インターネットでは好意的な情報もそうでない情報も発信されていたために、このような差が生じたのではないかと考えられる。