5.電子メールの利用
a.電子メール利用時間
次にホームページ利用と並ぶもう一つの利用の主流である電子メールの利用時間についての集計例を図5に示す。この時間には読み書きと受発信を含めている。利用時間は明らかにブロードバンド・グループの方が長い。週に1時間以上電子メールに時間を使っている人は、ブロードバンドでは54%であるのに対して、ナローバンドでは29%にとどまっている。χ2乗検定でも両者には有意な差がある。両者の平均値を推定すると、高知Bは2.7時間/週、高知Nは1.7時間/週で、後者は前者よりかなり大きい。電子メールの利用時間でもブロードバンド環境の人は時間がかなり長い。
![]()
図5 高知市調査における週あたりの電子メール利用時間(χ2乗:p=0.015)次に地域別・インターネット環境別の電子メール利用時間/週の平均値を推定した結果を表4に示す。同表によるといずれの地域もブロードバンド環境下の方が利用時間が長い。ブロードバンドでは4地域平均で3.0時間/週であるのに対して、ナローバンド環境下では5地域平均で2.2時間/週である。1日に換算すると、ブロードバンド環境下では26分に対して、ナローバンド環境下では19分である。したがってブロードバンド環境下ではナローバンド環境下よりも利用時間は長いが、倍程度までの差は生じていないことが分かる。
なおブロードバンドとナローバンドの電子メールの利用時間分布は、高知市の場合には有意差があったが、他の地域では有意差はなかった。これは電子メールの利用時間では、本来的に見て、大きい利用時間差が発生しにくいためと考えられる。その理由としては、電子メールは読み書き時間と受発信時間の合計だが、受発信時間はインターネット環境に依存するのに対して、読み書き時間は依存させずに済ませることが出来るためである。その分だけインターネット環境差は生まれにくいと考えられる。
表4 インターネット環境別の電子メール利用時間(時間/週) 環境\地域 広島市 札幌市 諏訪地域 高知市 日野市 平均 ブロードバンド 3.7 − 2.8 2.7 2.8 3.0ナローバンド 2.8 2.5 2.3 1.2 2.1 2.2
次に電子メールの利用回数についての集計例を図6に示す。電子メール利用時間と同様に、利用回数も明らかにブロードバンド・グループの方が長い。毎日1回以上電子メールを使っている人は、ブロードバンドでは70%強であるのに対して、ナローバンドでは50%にとどまっている。両者の平均値を推定すると、高知Bは1.8回/日、高知Nは1.4回/日で、前者は後者より多い。電子メールの利用回数でも常時接続であることが効果を発揮して、ブロードバンド環境の人は回数が多いと考えられる。
![]()
図6 高知市調査における電子メールの利用回数次に地域別・インターネット環境別の電子メール利用回数/日の平均値を推定した結果を表5に示す。同表によるといずれの地域もブロードバンド環境下の方が利用回数が多い。ブロードバンドでは2地域平均で1.8回/日であるのに対して、ナローバンド環境下では3地域平均で1.4回/日である。ブロードバンド環境下ではナローバンド環境下よりも利用回数は多いが、倍程度までの差は生じていないことが分かる。また図6に見るように、両者には差はあるものの、有意差があるまでにはいかなかった。
表5 インターネット環境別の電子メール利用回数(回/日) 環境\地域 広島市 札幌市 諏訪地域 高知市 日野市 平均 ブロードバンド − − 1.7 1.8 − 1.8ナローバンド − 1.4 1.3 1.4 − 1.4(注)広島市、日野市は設問を置いていない。
次にインターネットの利用目的について、見てみる。図7では利用目的を、ビジネス・学習用なのか、それともプライベート・趣味用なのかについて調査した一例を示す。高知市の調査例である。同図によると、インターネット環境にはあまり左右されることなく、「仕事・勉強の方が多い」人は全体の10%前後、「プライベート・趣味」が多い人が84%前後である。断然プライベート・趣味での利用が多いことが分かる。
![]()
図7 高知市調査におけるインターネットの利用目的それでは調査地域全体ではどの様になっているのだろうか。その結果を表6に示す。ここでは選択肢の「4.プライベート・趣味が多い」と「5.ほとんどプライベート・趣味」の比率の合計値を、「プライベート・趣味」が多い人として取り上げている。各地域ともに70%〜80%台中央辺りに分布しており、ブロードバンドかナローバンドかに関係なく、平均では70%台の中間値である。この様に見てくると、インターネット利用の大部分は仕事・勉強よりもプライベートな目的で利用されていることは明白である。
表6 インターネット環境別の利用目的「プライベート・趣味」の比率 環境\地域 広島市 札幌市 諏訪地域 高知市 日野市 平均 ブロードバンド 76.2 − 69.3 84.0 71.7 75.3ナローバンド 78.7 68.3 70.8 84.4 78.8 76.2なお全般的傾向では、「仕事・勉強」系が多い人は1〜2割、「同程度」の人も1〜2割、「プライベート・趣味」系が多い人は6〜7割辺りにある。
インターネットの主な利用は、平均的に見れば、ホームページ閲覧と電子メールの利用の2つが主流である。これまでの利用状況の説明によると、この2つの時間合計は、ブロードバンド環境では8.3時間/週、ナローバンド環境では4.7時間/週である。しかも利用目的は、プライベートな事柄が中心である。
ところでわれわれの自由時間は限られており、最近の調査によると、平日では5時間前後となっている(5)。この様な生活時間の中でインターネットが前述した時間を占めるようになると、必然的に様々な影響が生まれる。例えばわれわれの自由時間の利用ではテレビ視聴が最も多くの時間を占めているが、インターネットへの時間配分が増せば、テレビの視聴時間が減ることが予想される。この様な観点から様々なメディア利用の時間配分がどの様に変わるかを調べた。その調査結果のうち、テレビ視聴の結果を図8に示す。
同図によると、ブロードバンド環境にある人では、約半数の49%の人がテレビの視聴時間が減少したと答えており、「やや減少した」と感じている人が33%、明確に「減少した」と感じている人が16%である。高知市の場合、ホームページ閲読と電子メール利用の時間の合計は平均では、ブロードバンド環境では8.6時間、ナローバンド環境でも4.0時間である。このかなりの時間と思われる程度の新たな自由時間の消費が、テレビ視聴時間の減少をもたらすことは、当然期待されるものである。
![]()
図8 インターネット利用に伴うテレビ視聴時間の変化(高知市)(χ2乗p=0.003)次に同じく高知市の新聞閲読時間に関する集計結果を図9に示す。ブロードバンド環境下では、何らかの理由でごく一部(2%余り)に閲読時間が増えている人もいるが、大部分に当たる8割の人は「不変」である。そして「やや減少」は約10%、「減少」は6%である。減少と答えた人は約17%いるが、テレビに比べるとその値はかなり小さい。新聞の閲読時間は元々長くはないために、影響を受けにくい面もある。
またナローバンド環境下では、その影響の効果はさらに減少する。「不変」は9割に増え、「やや減少」、「減少」は合わせて10%弱となる。
![]()
図9 インターネット利用に伴う新聞閲読時間の変化(高知市)調査した項目はテレビ視聴時間、新聞閲読時間以外には、本・雑誌読書時間、家族との会話時間、電話利用時間がある。そこでこれらの時間の増減に関する全体的状況を、順序尺度である選択肢番号の平均値で表し、図10に示す。なお同図には高知市調査のデータ以外に日野市調査のデータも加え、より一般的な傾向を示している。(他地域のデータは計測法が異なるため、ここでは高知市と日野市だけについて説明する)
同図によると、高知市の場合も日野市の場合もいずれも共通して、次の傾向を見て取ることが出来る。
- テレビ、電話、本・雑誌、新聞、家族との会話のいずれも、利用時間はインターネットの影 響を受けて減少する。
- 最も影響を受けるのはテレビの視聴時間であり、影響が小さいのは家族との会話である。
- ブロードバンド化は、明らかにナローバンドよりも強く、日常的なメディア利用に影響する。ただし家族との会話時間には環境差は見えない。
テレビ視聴時間の減少は、現在の自由時間に占めるテレビ視聴の大きさを勘案すれは容易に納得が行くものである。また電話利用時間の減少は、電話から電子メールへの移行に伴って発生するものである。本・雑誌読書時間の減少は、部分的にでも情報源が本・雑誌からインターネットへ移行するために起こるものである。家族との会話時間の減少も同様である。
これらのデータから、半定量的であるが、インターネットの影響を垣間見ることが出来る。なお目下日本ではブロードバンド化が急速に進展しているが、本研究におけるブロードバンド化の影響の研究は、今後のインターネットの本格的な普及がもたらす影響・効果を予見させるという意味では、極めて興味あることである。
![]()
図10 インターネットの利用に伴うメディア利用時間変化(高知市、日野市の場合)