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2.調査の概要



  調査は、多チャンネル・ケーブルテレビの加入世帯と非加入世帯を対象とし、設問は部分的に共通化した。主な調査項目は、家族の構成、世帯主のテレビ視聴傾向、電波障害、加入/非加入決定プロセス、ケーブルテレビ加入動機/ケーブルテレビへの関心、テレビの視聴状況、テレビの評価などである。米国の先行研究とは異なり、調査項目には世帯の決定プロセスを含めたため、世帯主を回答者とする世帯調査となっている。

 調査対象地域としては、報告(八ッ橋(1996A、1996B)、八ッ橋ら(1996)、八ッ橋(1998))と比較可能で、かつ前提条件の純化を狙い、地形難視や都市難視が極力少ない茅ヶ崎市のケーブルテレビ局ジェイコム湘南の第T期営業エリアを選んだ。このエリアは海岸の平坦地で、古くは別荘地であったが、それを起点として住宅地が発展した地域である。放送電波は近隣のUHF再送信がほとんどで、電波状況は良好である。

 サンプルは第T期のエリアから5町丁を無作為に選んで作成した。作成は98年12月の時点で、対象エリアの世帯数は3720、加入数は469、非加入数は3251、加入率は12.6%であった。サンプル数は、加入者は400、非加入者は490である。非加入者は住民基本台帳から無作為抽出を行い、加入者との重複サンプルは除外した。調査は99年1月下旬から2月半ばにかけて留置回収法で実施した。加入世帯の有効回収数は286(有効回収率は71.5%)、非加入世帯のそれは295(同60.2%)であった。

 なおサービス面での特徴としては、加入の初期費用が他地域に比べて低く押さえられていることが注目される。初期費用は基本的には接続工事費のみで、戸建て住宅では2万円、集合住宅では3千円となっている。基本利用料は3千円/月である。また放送は、4つのペイチャンネルを含めて、42チャンネルのテレビ放送が行われている。
 
 

3.ケーブルテレビへの移行の姿



 一般世帯がケーブルテレビの加入世帯か非加入世帯へ分岐していく移行の姿を図1に示す。最初が地域のケーブルテレビの認知の有無であり、次がケーブルテレビの加入検討の有無で加入検討世帯と未検討世帯に分かれ、次に検討した結果としての加入世帯と検討非加入世帯への分化である。

図1 加入世帯と非加入世帯の区分



 調査は加入世帯と非加入世帯を別々に行っているので、ウエイトバックして地域の加入に関わる世帯の全体像を求めたのが図2である。


 図2 ケーブルテレビへの各世帯の対応



 この図から次のことが明らかになる。

@地域では約9割の世帯がケーブルテレビの存在を知っているが、57%はあまり関心を示さず、加入を検討した層は34.0%(加入、検討中、検討非加入の合計)である。
Aそのうちの12.6%が加入に至り、2.1%は現在加入を検討中であり、19.3%は検討したが加入を止めている。

 十分に認知はされているが、関心を示さない層は過半で大きいこと、関心を示して一時期に加入を検討する層は全体の1/3とかなり多いが、そのうちの1/3しか加入に至らないことが分かる。

 次にテレビ放送メディア間の移行がどの様になっているかを見ていく。加入者がケーブルテレビに加入する前のテレビ放送メディアと、非加入者の現在のテレビ放送メディアを聞いているので、これもウエイトバックを利用して、ケーブルテレビの前後で地域のメディア利用がどの様に変化したのかを比較してみる。図3がその結果であるが、主な傾向は次の点である。


図3 従来と現在のテレビ放送メディア採用の分布



@従来はVHF、UHF、衛星がそれぞれ約1/3程度であるが、ケーブルテレビ後の現在では各メディアともに比率を低下させている。
A従来と現在の比率からケーブルテレビへの移行比率を求めると、VHFは約9%、UHFとBS・NHKは約12%であるのに対して、WOWOWとCSは約27%〜31%である。
B高度なサービスのメディアの加入者ほどにケーブルテレビへの移行の比率が高い。ケーブルテレビはどの従来メディアでも満たされない魅力を持っていると理解される。

 もう一つ、ケーブルテレビへの移行に際して特徴的な点に触れておく。それは図1における加入検討世帯が加入世帯と検討非加入世帯に分かれる際の両者の差である。これは以前の八ッ橋(1996A)の報告でも触れているが、両者の最も顕著な相違点は、加入に対する家族の賛否である。調査では非加入295サンプルのうち、検討非加入は72サンプルであった。この検討非加入グループと加入グループ(286サンプル)については、検討の経緯を調査しており、その中に家族の前向き者と消極者についての設問がある。そのグループ別の平均値を示したのが、表1である。同表によると加入世帯では平均前向き者は家族の2/3であるのに対して、平均消極者数は8.7%に過ぎない。それに対して検討非加入世帯では、半分強が前向きなのに対して、約1/3は消極的である。この前向き者の少なさと消極者の多さが、決定過程での非加入を結論づけている可能性が高い。 

 表1 加入に関する家族の賛否と決定  単位:人 ( )は%

  世帯区分 平均家族数 平均前向き数 平均消極数
加入世帯 N=286
 
  3.21
 (100.0)
   2.15
  (67.0)
  0.28
  ( 8.7)
検討
非加入世帯 N=72
  3.31
 (100.0)
   1.68
  (50.8)
  1.22
  (36.9)
 (注)加入が10世帯、検討非加入が3世帯の単身世帯を含む。 

 さらに調査では誰が検討過程で前向き性と消極性を発揮しているかを調べているが、最も前向き性を発揮しているのは世帯主であり、また最も消極性を発揮しているのは配偶者であることも分かった。この表1を含めて、これらの傾向は八ッ橋(1996A)、八ッ橋(1998)の別地域の調査でもほぼ同じ傾向であり、検討から決定に至る段階での世帯主の主導性と家族合意の加入への効果を示している。
 


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