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4.加入決定要因の分析



  これまでケーブルテレビへの移行の姿の一部を見てきたが、ここではこの様な移行過程を支配する要因の抽出を試みる。図4に要因抽出を試みる局面を、判別1と判別2で示している。すなわち、判別1では何が検討と未検討を分けたのか、判別2では何が加入と検討非加入を分けたのかを明らかにしようとしている。なお同図では、図1における非認知世帯を便宜上、未検討世帯に含めて扱っている。


図4 判別分析の局面


4・1.分析で採用する変数



 調査では様々なデータをとっているが、その中で加入ー非加入に関与しうる変数を整理したのが、表2である。世帯主レベルでの変数である個人傾向、世帯レベルでの変数である世帯傾向、世帯の立地に関する環境条件の3つに区分している。これらの変数は加入ー非加入間で相応の差(有意差より緩い条件である)のある変数の採用を中心としているが、それ以外には加入・検討ー未検討間で差のある変数、加入ー検討間で差のある変数も含めた。

 なお表2に示している変数のうち、「2-1 家族の賛否」は全サンプルに共通したデータではない。これらは加入を検討したことのある世帯のみのデータで、未検討世帯にはないものである。したがって判別1の分析の際にはこれらのデータを利用することは出来ない。判別2の分析で利用される。以降の分析ではまず、判別1を説明し、次いで判別2を説明する。(注1)

  表2 分析候補とした変数
変数区分          変数と内容  変数名
1.個人 
 傾向
 
 

   
 

1-1.ケーブルテレビへの加入動機/関心
 17個の加入動機/関心が様々なかたちでケーブルテレビの加入と有意に関係しうる。
N13A〜N13Y
の17個
 
1-2.ケーブルテレビの費用感
 加入料と利用料に対する費用感が加入と有意に関係している
Q14ab〜Q14c
の2個
1-3.日常的なテレビの視聴傾向
 世帯主のテレビの見方が加入と有意に関係している。
Q3a〜Q3l
の12個
2.世帯
 傾向

   
 
 

 

2-1.家族の賛否
 加入に前向きの家族数と消極的な家族者数は加入ー検討層間
 で顕著な有意差あり
Q12_2,
Q12_3mの2個
 
2-2.家族数
 加入世帯の家族数は非加入世帯の家族数より少ない。
Q1_1 1個
 
2-3.世帯収入
 加入世帯の世帯収入は、非加入世帯より有意に多い。
f10 1個
 
2-4.世帯の利用TV台数 Q2  1個
3.環境
 条件
3-1.電波障害
 電波障害が強い世帯ほど加入しやすくなる。
Q7  1個
 
 
 

4・2.因子分析



  判別1に先だって、個別的な変数の議論から因子の議論にするために因子分析を行った。その際の具体的な変数リストを表3に示す。この表は表2の中から、「2-1.家族の賛否」を除いたものである。これらの変数を用いて因子分析を行った結果、表4に示す因子を得た。第1因子の映画娯楽指向から第10因子の計画視聴までの10因子で、全分散の63.9%をカバーしている。なお同表では因子の概要と因子スコアの変数を示している。
 

    表3 変数とその内容
 変数    内容(変数の選択肢)  平均

 N13A
加入動機/関心(1.重視・関心〜3.無し)
a.電波障害でのTV映りの悪さを解消する

 2.14706
 N13B b.普通には見えるが、よりきれいな画面でみる  2.01838
 N13C c.衛星放送(BS)を見る  2.02206
 N13D d.多くのチャンネルの色々な番組を選べる  1.59191
 N13E e.ケーブルのチャンネルで映画を見る  1.76103
 N13F f.ケーブルのチャンネルでニュース(国内)を見る  2.23897
 N13G g.ケーブルのチャンネルでニュース(海外)を見る  2.15074
 N13H h.ケーブルのチャンネルで経済ニュースをを見る  2.35662
 N13I i.ケーブルのチャンネルで地域の天気予報を見る  2.01103
 N13J j.ケーブルのチャンネルで地域番組を見る  2.21324
 N13K k.ケーブルのチャンネルで音楽番組を見る  2.07353
 N13L l.ケーブルのチャンネルでスポーツ番組を見る  1.94118
 N13M m.ケーブルのチャンネルでゴルフ番組を見る  2.38603
 N13P p.ケーブルの有料チャンネルで映画を見る  2.27206
 N13Q q.ケーブルの有料チャンネルでWOWOWを見る  2.18382
 N13U u.アンテナの更新・維持管理が不要になる  2.20221
 N13V v.家の美観上で邪魔なアンテナが不要になる  2.28676

 Q3A
聴傾向(1.よくする〜3.しない)
a.見たい番組があるときだけテレビをつける

 1.65441
 Q3B b.仕事や勉強のときに、何となくつけておく  2.45588
 Q3C c.見る番組を事前に調べて決めている  1.66912
 Q3D d.テレビを見る直前に見たい番組を調べる  1.83088
 Q3E e.テレビをつけて見たい番組を捜す  2.00000
 Q3F f.CMの間は別のチャンネルに切りかえる  2.02574
 Q3G g.面白い番組が無くてチャンネルをいろいろ回す  1.83456
 Q3H h.深夜0時過ぎまでテレビを見る  2.25368
 Q3I i.他の人の見ている番組をおつきあいで見る  2.24632
 Q3J j.つまらないと思ってもつい見てしまう  2.44118
 Q3K k.見たい番組が無い場合はテレビをこまめに消す  1.92647
 Q3L l.家族と一緒にテレビを見る  1.57353
 F10 年収 (1.500万円未満〜5.2000万円以上)  2.16176
 Q14AB 加入初期費用 (1.安い〜5.高い)  3.40809
 Q14C 毎月の基本料 3.5千円 (1.安い〜5.高い)  3.86397
 Q7 電波障害の有無  (1.見えない〜4.影響無し)  3.45956
 Q1_1 家族人数 (1.1人〜8.8人以上)  3.30147
 Q2 テレビ台数  (1.1台〜5.5台以上)  2.01838
(注)サンプル数:272(全変数のデータが揃っているサンプルのみが利用されるた
  め、サンプル数は減少している。 
 

  表4 因子分析による因子
因子(平方和、寄与率)    因子に関与する変数と因子の内容 因子スコア
第1因子(4.2, 11.9%)
社会教養指向
N13H,N13F,N13G,N13M,N13L,N13J,N13I
経済ニュースや内外のニュース、ゴルフ、地域番組等を望む傾向
 
FG6A1
−(注3)
 
第2因子(3.2, 9.1%)
映画娯楽指向
N13P, N13Q, N13E, N13K,N13D,N13C
ペイチャンネルでの映画やWOWOW,映画,音楽等を望む傾向
FG6A2
第3因子(2.5, 7.2%)
反アンテナ指向
N13U,N13V,N13B
メンテナンスや家の美観上でアンテナを嫌う傾向
FG6A3
第4因子(2.4, 6.9%)
環境テレビ視聴
Q3B, Q3K(-)(注2), Q3A(-), Q3H
とにかくテレビを点け、見たい番組がなくても見る傾向
FG6A4
第5因子(2.0, 5.8%)
走査視聴
Q3g,Q3e,Q3f
チャンネルを頻繁に回して番組を探して見る傾向
FG6A5
第6因子(1.8, 5.2%)
割安感
Q14C,Q14AB
ケーブルテレビの加入費用や毎月の基本料に対するコスト感
FG6A6
第7因子(1.7, 4.9%)
家族規模
Q2,Q1_1, F10
家族数やテレビの台数、世帯収入など、家族の規模を表す
FG6A7
第8因子(1.7, 4.8%)
画質向上指向
Q7,N13A
電波障害も含めテレビをきれいな画面で見ようとする傾向
FG6A8
第9因子(1.7, 4.7%)
協調視聴
Q3I, Q3L,Q3J
他者の番組をつき合いで見たり、家族と一緒に見る傾向
FG6A9
第10因子(1.2, 3.4%)
計画視聴
Q3D,Q3C
事前に番組を調べ、確認して計画的に見る傾向
FG6AA
(注1) 平方和と寄与率はバリマックス回転後の値である。寄与率の合計は63.9%である。
(注2) 因子スコアに寄与する変数の符号が逆転する(係数が負の場合)場合、(-)でそれを示した。
(注3) 多チャンネル娯楽動機が強まると、その因子スコア FG6A1 は負で絶対値が大きくなる。こ
   の様な場合には − で示した。傾向が強まると正で絶対値が大きくなる場合には +で示している。
 

4・3.判別1の判別分析



  次に今度はこの10個の因子の因子スコアを変数として用いて、検討グループか未検討グループかの判別分析を行った結果を表5に示す。
 

  表5 判別1の判別係数と分析結果
       対象
因子スコア
加入・検討
    VS 未検討
1.社会教養指向(−)     0.609
2.映画娯楽指向(−)     0.648
4.環境テレビ視聴(−)     0.423
6.割安感(−)     0.565

 

  グループ    加入・検討 未検討
  分析サンプル数   176  96
  判別関数重心値   -0.463 0.849
判 Wirks'λ    0.716
別 判別式のSig.    0.0000
関 正準相関係数    0.533
数 正判別率    75.4%

 分析の方法としてはステップワイズ方式(変数の投入はF値の確率を用い、0.05以下では投入し、0.1以上では除去している)を用いている。このため影響の小さい変数は排除されている。また同表には、判別関数の係数、分析対象のサンプル数、正準相関係数、正判別率等をつけた。全体としては、正準相関係数や正判別率はかなり高いものである。判別係数は標準化データを対象としているため、これらの係数の絶対値は判別に効く強さを表していると考えられる。また主な傾向を以下のようにまとめることが出来る。

@10個の因子のうちで4個の因子のみが判別に寄与する変数として、係数を持つに至っている。他の係数は寄与が小さいと判断され、排除されている。
Aこの2つのグループを分けるのに最も強く効いているのは、加入動機・関心のうちの番組指向性の「社会教養」と「映画娯楽」である。
B次いでケーブルテレビの加入料や基本料の費用負担感の「割安感」で、安く感じるほど検討が促進され、高く感じるほど未検討が促進されている。これは当然期待される結果と考えることが出来る。
Cそして最後に世帯主の先有傾向としての「環境テレビ視聴」性が挙げられる。これらが強いほどに検討グループへの帰属が促進される。環境テレビ視聴とは、いつもテレビを点けておき、ながら的にテレビを利用する程度を意味しており、テレビを点けておくことが習慣的になっている程度を示している指標である。

 まとめて言えば、環境テレビ視聴の傾向が強く、かつコスト感が弱い世帯主が「社会教養」的な番組や「映画娯楽」的な番組を求めて、ケーブルテレビの加入を検討する、と言うことが出来る。これらの条件を満たさない世帯主は、加入検討段階に至ることはないというわけである。


 図5 検討グループと未検討グループの因子スコア平均値

(注)グラフの軸は外側ほど絶対値が大きく符号は負である。したがって、
外側ほど軸の傾向が強いことを表している。            
分散分析による平均値分離の有意性は、**:0.001<Sig.=<0.01、
****:0.00001<Sig.=<0.0001 である。                


 


 次に判別1の分析の裏付けとなるデータとして、検討グループと未検討グループの因子スコアの平均値を図5に示す。この図では10個の因子軸全部を示しており、各軸の外側ほど軸の傾向が強くなるように表している。この図によると検討グループはほとんどの軸で未検討グループよりかなり傾向が強いことが分かる。また判別係数を持つ4個の因子軸では、グループの平均値は大きく有意に分離している。さらに各グループ内の因子スコアの分散は大体1前後であるので、それぞれの軸上の平均値の差が、表5の判別関数の係数の大小を反映している。なお軸の名称の横に*印が添付されているが、これは平均値の分離の有意性を示している。分散分析による平均値の分離の有意性は、**は、0.001<Sig.=<0.01、****は、0.00001<Sig.=<0.0001 である。*印のついている4つの軸が、すべて判別に寄与する変数として採用されている。この様な平均値の分布を見ると、判別分析の結果はよく理解できる。

  なお家族規模の軸は正で家族規模が大きくなる方向であるため、因子スコアの符号を逆転させ、便宜上図上では外側ほど家族規模が大きくなる様に見せている。
 

4・4.判別2の判別分析



  次に検討グループを加入グループと検討非加入グループに分ける分析を試みた。この場合、表3の変数群にさらにケーブルテレビへの加入検討時の「q12_2.前向き家族人数」、「q12_3m.消極家族人数」を加えて、判別1と同様に因子分析と判別分析を行った。その結果現れた因子は、第10因子を除いては表4と同じものであった(因子が様々なケースで安定していることは注目される)が、大部分の変数が加入ー検討非加入のグループ間で有意差がないものであったため、分析の結果は意味を認めにくいものであった。

 そこで次に直接に幾つかの変数を利用して、因子分析を使わずに判別分析を行った。表2にある変数群のうちで、加入ー検討非加入のグループ間で有意差がある変数は、「q2.テレビ台数」、「q12_2.前向き家族数」、「q12_3m.消極家族数」、「q14ab.加入初期費用感」、「q14c.基本料費用感」である。そこでこれらの変数を用いて判別分析を行った。その結果が表6である。同表によると、正準相関係数は0.471で、正判別率は78.4%であり、妥当な結果と考えられる。
 
 

 そこで同表の結果をまとめると以下のようになる。

@5変数のうちで賛否と費用感の3変数が、判別に寄与する変数として係数を持っている。
A最も大きいのは「q12_3m.消極家族数」であり、次いで「q14ab.加入初期費用」、最後が「q12_2.前向き家族数」の順である。

 解釈としては、ケーブルテレビの加入を検討した世帯のうちで、消極家族数が少ないことが最も重要であり、次に加入の初期費用に関するコスト感が弱く、さらに前向き家族数が多い世帯が加入に至る、と言うことになる。したがってコスト感以外は合意形成が非常に強い効果を持っていることが分かる。なおこの3変数の間の相関係数はいずれも0.1以下の水準にあり、結果としては変数間の相関が問題となることはなかった。世帯主の費用感が消極家族数には影響していない、と言うことである。

 前節の結果も踏まえて分析結果を理解すると、ケーブルテレビへの加入は、概して先有傾向としての環境テレビ視聴が強く、かつコスト感が弱い世帯主が、番組に魅力を感じて加入検討を主導し、家族の反対がなければ加入に至るが、消極者が多いと非加入になる。最後はコンセンサス型の加入で、この点で加入は世帯加入である。これはテレビという家族がみんなで楽しむ機器で、かつ一定程度の費用が伴う機器の導入と言う点を考えれば、極めて妥当な理解である。
 

4・5.加入決定要因についての補足



 ここで報告した加入決定要因のうち、特に4・3の結果について補足をする。

 まず第一は、因子分析の汎用性である。今回の結果は茅ヶ崎の調査地域に限定したものであるが、横浜市南区の横浜テレビ局(八ッ橋(1998))の場合、武蔵野三鷹ケーブルテレビ局の場合(1999.3の調査)も、同様なデータを用いて因子分析を行うと、ほとんど同じ因子を生じる。したがって、この様な構造が汎用的に存在する可能性が高い。唯一何故か第9因子のみが異なって現れてくる。原因は不明である。

 次にそれぞれの場合、加入決定に関与する因子は、地域によって異なった現れ方をするものがある。例えば画質向上指向は今回の分析では係数を持たず、決定に影響をしていないが、より難視が強い横浜テレビ局の場合は最も大きい係数となっている。この様に見てくると、因子は汎用的で、係数の現れ方が地域差を反映すると言う結果が得られる可能性がある。この様な予想は大変興味を惹かれるが、これ以上は今後の課題である。

 以上を前提として4・3の結果をさらに補足すると、10個の因子のうち常に係数を持っているのが、環境テレビ視聴と割安感であり、常に係数を持たないのが反アンテナ指向、走査視聴、家族規模、計画視聴であった。したがって環境テレビ視聴は、現在のケーブルテレビの加入者に不可欠の先有傾向と見ることが出来る。これは電話がながら的利用で環境メディア化しつつある状況に倣って、これまでの研究の中で命名した概念である。

 テレビに関する先有傾向としては、ここで取り上げた視聴傾向以外に、より一般的な番組の選好性や利用と満足研究に見られるテレビの効用があるが、結果としては番組の映画が有意に関与する以外には、加入に有効に作用するものは見つからなかった。

 次は家族規模で、これは世帯収入と密接に関係している。しかしケーブルテレビの加入に効く要因とはなっていない。ケーブルテレビの加入者は高所得者層というのが従来の通説であったが、現在では必ずしもそのようにはなっていない。この背景には、従来は集合住宅での加入が物理的に困難であったため、世帯収入の低い層が加入から排除され、見かけ上で通説を作っていたことが考えられる。最近は集合住宅での加入が大幅に進み、見かけ上の通説が成立しなくなってきていると考えられる。横浜テレビ局の場合(八ッ橋 1998)も同様な傾向である。


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