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第17回 インドネシアの教科書

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開催にあたって

今年度の「世界の教科書展」のテーマは、「インドネシアの教科書」です。
伝統音楽のガムランや、影絵芝居のワヤン・クリ、ろうけつ染めのバティックなどが有名なインドネシア共和国は、赤道をまたいで東西に長く、5,110kmにわたって連なる1万8千以上もの大小の島々に、世界第4位の2億2千万の人口を有する、「太平洋に浮かぶエメラルドの首飾り」とも讃えられる多民族国家です。その人種・言語・宗教・文化などは多様性に満ちています。そうした状況を示しているのが、「多様性の中の統一 」というスローガンです。
「パンチャシラ」(サンスクリット語で「5つの徳の実践」という意味です)は、インドネシアの建国5原則とされていて、(1) 唯一神への信仰(イスラーム以外でもよいが無宗教は認容されません)、(2) 人道主義、(3) インドネシアの統一、(4) 民主主義、(5) インドネシア全国民への社会正義から成っています。パンチャシラの教育は、学校教育においても重視されてきました。
その一方で、教育体系は、教育・文化省が管轄する一般の“世俗的な”学校「スコラ」と、宗教省が管轄する“伝統的な”イスラーム系学校の「マドラサ」の二本立てとなっています。こうした世俗的・近代的な教育と伝統的・宗教的な教育の並存とともに、グローバリゼーションへの対応にも挑んでいるインドネシアの現在の姿を、教科書や各資料を通して感じ取っていただきたいと思います。
なお、パネル解説及び教科書の翻訳は、東洋大学法学部の中田有紀先生にお願いしました。また、インドネシアの教科書収集には、千葉県白子町立南白亀小学校の土橋和三先生、スラバヤ日本人学校の塚本真諭子先生にご協力いただきました。

2010年10月

以下に、特集「インドネシアの教科書」の展示パネルを再録します。

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1.インドネシアの概要

(1)地理・歴史
インドネシアは、赤道上の東西5000kmに大小1万7000以上の島々からなる世界最大の島嶼国です。
気候は、大部分が熱帯雨林気候ですが、赤道から離れた地域は、熱帯モンスーン気候(サバンナ気候)となります。年間雨量は、熱帯雨林気候では4000mmを超えることもありますが、サバンナ気候では、短い雨季の間に1000mmほど降る程度です。
国土面積は、日本の約5倍の186万km2であり、人口は、日本の約2倍の2億2000万人程度です。世界第4位の人口を有しており、面積でも人口でも東南アジアの4割以上を占める大国です。
多様な民族から構成されるインドネシアは、約350年間、オランダの植民地支配を受けていました。もともとインドネシアというまとまりがあったわけではなく、オランダがつくりあげた蘭領東インドが、1945年の独立後、インドネシアの領土となりました。独立後は、多様な民族と宗教から成る国民を統合することが重要な課題とされてきました。大統領の権限の強い国家体制を維持してきましたが、1998年に、30年以上政権を維持してきたスハルト政権が崩壊すると、従来の中央集権体制から、地方分権化が進められるようになりました。スハルト政権期には、27州のみでしたが、現在では、33州から成っています。

(2)民族・言語
数百といわれる民族に分かれており、互いに言語、社会構造、生活様式は異なります。インドネシア政府は、これまで民族別の人口統計を作成していませんでした。
中国やベトナムのような民族同定作業もしていないため、民族の数は200や350などの目安で語られてきました。しかし、2000年のセンサスで初めて民族(スク・バンサ)が調査項目となりました。自己申告に任せたため、民族の数は1000以上を数える結果となりましたが、表1のように、15の民族が100万人以上の規模を持つ民族です。ジャワ島に多いジャワ、スンダ、マドゥラ、ブタウィ、バンテン、チルボンの6民族がインドネシアの人口の66%を占めています。

表1

(3)宗教
インドネシアは、一国におけるイスラーム教徒人口が世界で最も多い国です。インドネシア国民の約88.8%である1億9200万人がイスラーム教徒です。
その他の宗教人口の割合(2008年)は、プロテスタントが5.7%、カトリックが3.0%、ヒンドゥー教が1.7%、仏教が0.6%、儒教が0.1%という割合です。
建国5原則(パンチャシラ)の第一原則に、「唯一神の信仰」と掲げ、イスラームをはじめ、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー教、仏教、さらに、2006年以降は、儒教も公認宗教として認められることになりました。
インドネシアの学校教育においては、宗教教育は必修科目とされています。個々の児童・生徒が信仰する宗教についての教育が行われます。
無信教者というカテゴリーは存在しません。これは、反共産主義の立場を徹底し、政治的な理由から、宗教教育を重視したスハルト時代から継続されていることです。

2.インドネシアの教育の概要

(1)教育制度について
インドネシアの学校教育は幼児教育(4~6歳)、基礎教育(7~15歳)、中等教育(16歳~18歳)があり、その後、高等教育へと続きます。
学校系統図(図1参照)で示したように、インドネシアの学校制度は、二つの省庁が管轄しています。国家教育省がスコラ(一般学校)系統の学校を、宗教省がマドラサ(宗教学校)系統の学校の管理・監督を行います。宗教省は、マドラサ系統およびスコラ系統の学校における宗教教育の内容や担当教員の採用に関する管理・監督の権限を有しています。
各教育段階の就学率(2007/2008)は表2の通りです。基礎教育に位置づけられている小学校6年間と中学校3年間の9年間は義務教育とされています。
国家教育省は、学齢期の子どもに限定せず、幅広い層の人々のためにも、ノンフォーマル教育としてパケットA、B、Cのプログラムを提供しています。修了すると、それぞれ、小学校、中学校、高校卒業と同等とされます。

表2

(2)教育法および行政システム
2003年に、「国民教育制度に関する法律(2003年法律第20号)」が定められました。この法律によって、それまでの「国民教育制度に関する法律」(1989年法律第2号)が置き換えられました。新法においては、「アクレディテーション」、「教育委員会」、「学校委員会」などの用語が新たに付け加えられています。教育の地方分権化・グローバル化の流れが、国民教育法における用語説明の部分にも端的に表れるようになりました。
旧法は、独立後、初めての包括的な教育法として制定されたものでした。しかし、マドラサ(イスラーム学校)やプサントレン(イスラーム寄宿塾)などの宗教省管轄の学校などの、教育省(教育文化省)以外の省庁が管轄する学校は、法律に含まれませんでした。しかし、新法においては、マドラサやプサントレン、その他モスクで行われてきたクルアーン学習施設などの民間の宗教教育組織を、フォーマル教育を補うノンフォーマル教育と位置づけるようになりました。
2000年以降の地方分権化に伴い、教育権限については、中央政府から各州・県への権限移譲が進められました。国全体の基幹となる教育法や教育制度・教育課程(カリキュラム)の基準・資格要件・義務教育年限などの決定は中央の国家教育省が行いますが、国が定めた法的基盤を、その地域の実情に合わせる形で、有効に教育行政を執行する権限は、各州の教育庁が有しています。
グローバル化による影響は教育分野においても例外ではなく、特に、高等教育改革においては、市場化、法人化、大学評価の整備などの世界共通とも言える動きが鮮明になりつつあります。

(3)学校制度とカリキュラム
従来は、スコラ系統とマドラサ系統の学校では、カリキュラムにおける宗教科目と一般科目(非宗教科目)の割合は異なっていました。しかし、2004年のカリキュラム改革以降、スコラ系統とマドラサ系統の学校教育の標準カリキュラムは同一のものとなり(表3参照)、スコラとマドラサの明確な境界は、曖昧なものとなっています。
学校は週5日制で、毎年7月第3週目の月曜日から新学年が始まり、6月後半に学年が終わります。

①幼児教育
「すべての人に教育を」(FEA:EducationForAll)運動の世界的潮流に伴い、9年制義務教育完全実施のための準備段階として、幼児教育の重要性が高まっています。2008年の時点で、就学率は20%程度に達しています。
幼稚園教育においては、①道徳および宗教的価値、②社会性および感受性・自立性、③言語能力、④認識能力、⑤身体能力、⑥芸術性を成長させることを通して、基礎教育の準備段階としての教育を行うことが目的とされています。
一般幼稚園とイスラーム幼稚園があり、ともに、4歳から6歳を対象としています。国家教育省および宗教省によって定められたカリキュラムに従って教育を展開します。また、プレイグループやチャイルド・デイケアセンター(託児所)では、3歳児から受け入れる施設が大半です。幼児教育施設の90%以上が私立であり、草の根的な教育組織が、幼児教育を支えているといえるでしょう。

②基礎教育(PendidikanDasar)
6年間の小学校教育と3年間の中学校教育が、基礎教育に位置づけられています。
小学校(SD/MI)は、7歳から12歳までの6年間です。また、中学校(SMP/MTs)は、13歳から15歳までの3年間となります。
従来、一般学校(スコラ)系統と宗教学校(マドラサ)系統のカリキュラムは異なっていましたが、2004年カリキュラムにおいては、同一の標準カリキュラムを用いることになりました。(表3参照)
基礎教育段階において学ぶ科目は、A)教科、B)地域科、C)自己形成に分けられます。
A)教科には、①宗教教育、②公民教育、③インドネシア語、④英語、⑤数学、⑥理科、⑦社会科、⑧工芸・文化芸術、⑨健康体育、⑩技術・情報通信が含まれます。しかし小学校1年生から3年生までは、教科別ではなく、テーマ・アプロ―チを取ることになっています。

表3

③中等教育(PendidikanMenengah)
中等教育は、日本の高校と同様に、小学校6年間と中学校3年間の計9年間の義務教育の後、16~18歳を対象とします。
この中等学校(高校)には、一般高校/イスラーム高校と、職業高校があります。
一般高校/イスラーム高校では、様々なコースが開設されています。高校1年生は、共通コースで学びますが、2年生および3年生は、「理科系」、「社会科系」、「言語系」、「宗教科系」(イスラーム高校のみ)の4コースに分けられています。一般高校/イスラーム高校のカリキュラムは、表4のとおりです。

表4
④高等教育(PendidikanTinggi)
総合大学、専門大学、単科大学、ポリテクニック、アカデミーの5種類の教育機関が設置されています。
高等教育のプログラムは、学問的教育と専門的教育に分けられており、総合大学、専門大学、単科大学が学問的教育と専門的教育の双方を提供するのに対し、ポリテクニックとアカデミーは専門的教育のみを提供する機関とされています。
学問的教育プログラムは、サルジャナ(学士)、マギステル(修士)、ドクトル(博士)と続く3段階のシステムです。サルジャナ課程をS1、マギステル課程をS2、ドクトル課程をS3と呼びます。
専門的教育のプログラムは、ディプロマ課程と呼ばれ、期間は1年から4年まで(D1~D4)で、さまざまな内容のものがあります。また、4年間のディプロマ(D4)の後に、大学院課程に相当する専門課程SP1、SP2が置かれています。実践的で短期間の専門教育を行うディプロマ課程は、理論的・学問的な教育が中心の高等教育のあり方を是正するために、拡大されてきました。
カリキュラムは、人格形成科目群、学問技能教科群、職業専門科目群、職業行動科目群、社会生活科目群の5つの科目群に分けられます。2003年の新国家教育制度法第37条(2)では、高等教育のカリキュラムに(a)宗教教育、(b)公民教育、(c)国家語が含まれなければならないことが規定されています。
インドネシアの学校では、宗教教育は必修科目であり、それぞれの生徒・学生が信仰する宗教の教育を受けます。高等教育においても例外ではなく、人格形成科目群では、公民教育とともに、宗教教育も含まれています。

3.各教科の主な内容と教科書

インドネシアの小・中学校における各教科の主な内容について概説します。

①宗教教育
宗教教育においては、公認宗教であるイスラーム、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー教、仏教、儒教の6つのうち、自らが信仰する宗教教育を学びます。個々の宗教の教義や信仰実践について、詳しく学びます。(→教科書訳『イスラーム教育』)
しかし、学校教育に限らず、人口の約90%を占めるイスラーム教徒のための宗教教育は、学校外教育の活動も盛んにおこなわれています。(→解説1「モスクでの教育について」)
教科書訳『イスラーム教育』小学校2年

第2課アッラーを表す美名p.11、p.14
小学校2年生の教科書では、唯一神アッラーを意味する美名とその意味について学びます。

p.11
教師のために
アル・アスル:Al-Asr第103章(時間章)、アン・ナスル:An-Nasr第110章(援助章)、アン・ナース:An-Nas第114章(人々章)、などのクルアーンの短い章句を読む。これらの短い章句の読誦は、クルアーンの他の章句の読誦へと発展させるものとする。教室において生徒たちとともにクルアーンを正しく読誦する。この活動は、イスラーム教育の時間の最初の5~10分間に行う。

自然およびそれを構成するもの(山や川、木々、動物など)は、アッラーによって創られたものである。

p.14
アル・アハド
アル・アハドとは、偉大であるという意味である。つまり、アッラーは、唯一の存在であり、偉大な存在であるということである。アッラーのほかに、神は存在しない。私たちは、アッラーだけを崇拝することができる。アッラー以外の存在を崇拝してはいけない。アッラーにのみ、私たちは、救いを求めるのである。私たちは、呪術師などに救いを求めてはいけない。アッラー以外の神々に対しても救いを求めてはならない。アッラーによって命じられたことである。
慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。
言え、「かれはアッラー、唯一なる御方であられる。」
アッラーは、自存され、お産みなさらないし、お産まれになられたのではない、かれに比べ得る、何ものもない。
(『クルアーン』第112章アル・イフラース(純正)章)
アッラーは、唯一の神のことです。もしも、神が2人、3人、もしくは多く存在すれば、この自然界を営むことは困難です。もしも、1台の2人の運転手がいて、一人の運転手が右へ、もう一人が左に向かおうとしたら、どうなるか考えてみてください。当然、その車は走ることはできなくなってしまいます。アッラー以外の存在を崇拝する者は、罪深い者とみなされます。

教科書訳『イスラーム教育』小学校2年
第4課ウドゥー(清め)pp.29-32
ウドゥーは、イスラーム教徒が1日5回の礼拝の前に必ず行うことです。小学校2年生の教科書では、礼拝前の体の清め方、その順番、唱える祈りについて学びます。

ウドゥー(清め)とは、礼拝の前に必ず行わなくてはならないことです。罪の行為による汚れを落とすために行います。正しくウドゥーを行うことができますか?

この学習を通して、生徒は、以下のことができるようになる。
○規律正しくウドゥー(清め)を行う習慣を身につけること。
○ウドゥー(清め)の後の祈を読むこと。

ウドゥー(清め)の方法
正しく礼拝を行うため、私たちは、礼拝の前にウドゥー(清め)をしなければなりません。ウドゥー(清め)とは、水を用いて汚れを落とす行為です。ウドゥー(清め)には、清潔で神聖な水を用いなければなりません。汚い水を用いてはなりません。次に、ウドゥー(清め)の方法について学びます。正しいウドゥー(清め)を行う順番を見てみましょう。
以下の句を読みます。
「慈悲あまねく慈悲深きアッラーの御名において」
その後、ウドゥー(清め)を行う意志を唱えます。
「私は、アッラーのために、汚れを落とすためのウドゥー(清め)を行います。」

1.両手を洗う。
2.うがいを3回行う。
3.鼻の穴を洗う。
4.顔を洗う。
5.両うでをひじまで洗う。
6.頭部の一部をぬらし、(汚れを)ぬぐう。
7.左右の耳を3回洗う。
8.くるぶしまで両足を3回洗う。

解説1:モスクでの教育について
近代的な学校教育が普及する以前から、インドネシアのイスラーム・コミュニティには、モスクにおいて、聖典クルアーン(コーラン)の学習が行われてきました。主として、クルアーンをアラビア語で読誦する学習です。学校での宗教教育の時間にも、イスラーム教徒の子どもたちはイスラームの教義やクルアーンについて学びます。しかし、伝統的なクルアーン学習は衰退することなく、発展しています。
1990年代以降、民間のダッワ(イスラームの伝道)組織によって組織的な教育システムが整えられると、幼稚園・小学校・中学校レベルのクルアーン学校(クルアーン幼稚園、クルアーン児童教室、継続クルアーン学習会)が各地で開設されるようになりました。従来は、教育施設として捉えられませんでしたが、2003年以降、クルアーン学校は、ノンフォーマル教育の一形態として、宗教省の監督の下、民間組織が主体となって営んでいます。
2007年政令第55号では、政府が認めるノンフォーマルな宗教専門教育のひとつとして、その詳細が規定されました。

②公民教育
パンチャシラ(建国5原則)の理念(→解説2「パンチャシラ」)に基づき、公民教育においては、インドネシア国民が、民族的にも宗教的にも多様であることを認めるとともに、国民として認識すべき義務や権利、憲法をはじめとする法規定や政治や行政のしくみについて学びます。さらに、東南アジア諸国をはじめとする諸外国との協力関係について学ぶとともに、グローバリゼーションの影響に関する様々な問題についても検討します。(→教科書訳『公民教育』)
教科書訳『公民教育』小学校2年

宗教実践のための規律pp.83-84
異なる宗教(6つの公認宗教)の実践や儀礼について学びます。
ムティアは、イスラーム教徒です。
毎日ムティアは礼拝を行います。
1日5回行います。
何かを行うときに、ムティアは、いつも祈りをささげます。ムティアは、バスマラを唱えながら祈ります。

アリンは、儒教を信仰しています。
毎朝、アリンは、祈りをささげます。
彼女は、その日一日が良い日であるよう祈ります。
彼女はまた、先祖に敬意を表し、祈りをささげます。

エボは、プロテスタントの信仰者です。
何か行動するときにはいつも、エボは祈りをささげます。
食べるとき、飲むとき、寝るとき、勉強するとき、また、学校へ行くときに、エボは、常に祈ります。彼は、神様に平和を願います。

ドニは、カトリック教徒です。
ドニは、信仰実践を怠ったことはありません。
毎週日曜日、ドニは、教会へ行きます。
ドニは、神に対する信仰実践を行うために教会へ行きます。

バユは、ヒンドゥー教徒です。
祈をささげるために、よく寺院に行きます。
一年に一回、バユは、ニュピ祭を祝います。ニュピのときは、バユは、飲食をしてはいけません。出かけたり、楽しんだりすることも許されません。

アユは、仏教徒です。
アユは、毎日祈り、崇拝します。友人たちにたいする善行を忘れたことはありません。
善い行いはダルマ(義務)です。ダルマは、ゴータマ・シッダールタの教えです。

教科書訳『公民教育』小学校5年
国民統合についてp.2
多民族国家であるインドネシアにおける国民統合の在り方について学びます。

インドネシア共和国は、大国です。
その領域は、西のサバンから東のムラウケまで広がっており、多くの島々から成ります。大きな島もあれば、小さな島もあります。この広大な地域では、分裂が起こらないように、統合することが重要であることは言うまでもありません。では、インドネシア共和国を統合するのは、誰でしょうか。どのように統合された状態を維持すればいいのでしょうか。みんなで一緒に考えてみましょう。

教科書訳『公民教育』中学校3年
グローバリゼーションについて学びます。pp.91-92
この世界には、グローバリゼーションの影響を受けていない国はひとつもありません。インドネシアのグローバリゼーションとは、どのようなものでしょうか?インドネシアは、以前から外来文化の影響を受けてきました。
昨今のインドネシアにおけるグローバリゼーションの実態は、過去の時代におけるグローバリゼーションよりも複雑なものです。そのため、インドネシアにとって、グローバリゼーションとは、インドネシアが、世界的なグローバリゼーションの下で役割を果たすとともに、その一部を構成していることを世界に主張するための挑戦および機会となるものです。
インドネシアは、法のグローバリゼーションにも対応しなくてはなりません。インドネシアにおいて生じる出来事は、国際社会に影響を与えうるものであり、また、国際社会で起きる出来事も、インドネシアに影響を与え得るものです。
インドネシア民族が、グローバル化する国際社会において、役割を果たすためには、十分に自己を確立させることと、開かれた態度・姿勢を保つことが重要となります。
急速に展開されるグローバリゼーションのなかで、優れた人材は不可欠です。人材の質は、グローバルな競争において、インドネシアが役割を果たし得るかどうか、その成果を決定する要因となります。
質の優れた人材を確保するためには、グローバル化社会の中での競争を克服する人材育成へとつながるトレーニングや教育が必要となります。国家教育制度に関する2003年法律第20号の一般解説文においては、すべてのインドネシア国民が質の高い人間へと成長し、変化の著しい時代の課題に応じられるように、強靭さと影響力のある社会基盤としての役割を果たす教育システムを実現させるビジョンがうかがえます。

課題ライフスキル:社会的能力
あなたのグループで議論してみましょう。グローバリゼーションによって、さまざまな民族が、ひとつの世界のなかで関わりを持つ方向に向かいます。なぜ、インドネシア民族は、グローバリゼーションの流れに乗る必要があるのでしょうか。ますます影響力を増し、迅速に展開されるグローバリゼーションに対し、インドネシア民族はどのようなことを準備する必要があるでしょうか。議論の成果を、前に出て発表しましょう。

課題興味を深めること:学習を深めること
新聞や雑誌から情報分野におけるグローバリゼーションについて論じた記事をさがしましょう。そして、その記事を紙に貼って、その内容を分析しましょう!その成果を教師が集めます!

解説1:パンチヤシラ
パンチャシラとは、インドネシアの1945年憲法前文に記される建国五原則のことです。サンスクリット語を語源としています。
五つの原則とは、1.唯一至高なる神、2.公平で文化的な人道主義、3.インドネシアの統一、4.協議と代議制において叡智によって導かれる民主主義、5.インドネシア全国民に対する社会的公正です。
第1の原則においては、イスラーム、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、仏教、さらに儒教を公認宗教としています。
スハルト政権の全盛期においては、国民統合・国家開発をめざすなかで、パンチャシラを国民に理解させることが重視され、思想統制の手段としても利用されてきました。1975年のカリキュラム改訂により、「パンチャシラ道徳教育」が正式に学校教育における教科と位置づけられました。その後、「パンチャシラ教育」と名称は変更されましたが、スハルト体制崩壊後は、「パンチャシラ」は、科目名には用いられなくなりました。
しかし、「公民教育」のなかで、その理念は継続して教えられています。

③インドネシア語
インドネシアの憲法(1945年憲法)の第36条では、「国語はインドネシア語とする」と規定されています。多民族国家であるインドネシアには、民族ごとに異なる言語を有しており、上記の憲法第36条の注釈には、「その民衆によって適切に保持されている独自の言語を持つ多様な地方においては(例えばジャワ語、スンダ語、マドゥラ語など)、その多様な言語は国家によってもまた尊重され、保持される。その多様な言語もまた生き続けるインドネシア文化の一部をなすものである。」とあります。
地方の言語を尊重しつつも、小学校1年生から国語として、インドネシア語を学びます。小学校4年生から6年生までは週5時間、中学校においては週4時間学びます。
この科目では、インドネシア語を通して話したり書いたりするコミュニケーション能力や読解力、知識・理解の基礎となる学力を形成する重要な基盤とされています。

④数学
日本の小学校における算数・数学教育とほぼ同様の内容を学んでいます。小学校においては、1.数、2.幾何と測定、3.表データの作成について学びます。小学1年生から5年生までは、数や計算、図形・測定などが中心ですが、小学校6年生から、データ収集および表作成などを学習します。中学校においては、1.数と計算、2.代数、3.幾何と測定、4.統計について学びます。
国家教育省による標準カリキュラムによると、基本的な数学の概念を理解するとともに、関連する概念を応用し、正確に、且つ適切に、問題解決を図ることを主たる目的としています。

⑤英語
グローバル化時代に対応するため、英語教育は、小学校4年生から導入されています。英語に慣れ親しむことに重点が置かれており、聴解力やコミュニケーション力を向上するための教育に力が入れられています(→教科書訳『英語』・省略)。小学校(4年生~6年生)の英語は、「地域科」で学ばれます。教科として英語を学ぶのは、中学校からです。
中学校においては、読解力、作文力を身につけるとともに、簡単な会話だけでなく、身近な話題について、口頭で説明できるようになることも、達成目標とされています。

⑥理科
生物や物質、エネルギー、地球や自然環境についてのさまざまな事実や現象について学びます。これらを学ぶことを通して、知識を深め、探求心を向上させるとともに、万物の創造主である神の偉大さを確信することも本科目の目的とされています。
(※インドネシアの理数科教育の向上については、日本の政府開発援助も深く関わっており、さまざまな支援プロジェクトが実施されてきました。)

⑦社会科
地理、歴史、社会、経済に関する知識を身につける科目です。
初等教育レベルにおいては、日常社会に関連するさまざまな概念を理解するするとともに、批判的思考力を養い、探求心を高め、問題解決を行うための基本能力を身につけることが主たる目的とされています。社会や人類のさまざまな価値観を尊重し、共有することが重視されるとともに、地方レベル、国家レベル、グローバルなレベルにおいて、交流を図り、協力する能力を高めることも重視しています。
歴史については、小・中学校ともに、インドネシア史が中心となり、国内の異なる宗教や民族についての歴史やその影響を理解するための学習も行われます。また、経済に関する知識について、中学校では、国内の企業やその仕組みに限らず、国際的な経済活動の展開とインドネシアへの影響について学ぶ機会も設けています。

⑧保健・体育
自分の身体について知り、基本的な運動能力を獲得するとともに、精神面の向上も本科目の目的とされています。運動能力を高めるための活動には、アスレティック競技やサッカー、バスケットボール、卓球、テニスなどの球技、バドミントンなどの他、体操やリトミック運動などが含まれています。

⑨芸術文化
「美術(素描・絵画・造形)」「音楽(歌唱・器楽)」「舞踊」「演劇」の分野に分けられています。芸術表現を通して芸術的感性や創造性を涵養することを目指しています。
さまざまな芸術文化に親しみを持つとともに、インドネシア国内のさまざまな地域の民族芸能や工芸の特徴を理解することも重視しています。(→教科書訳『芸術文化・工芸』)

教科書訳『芸術文化・工芸』小学校4年
ここでは伝統芸能について学びます。pp.4-5

伝統的な武器
地方の武器もまた芸術品です。地方の武器は、舞踊における地方の民族衣装を身につけるときに用いられます。次の例は、インドネシアの地方における武器の例です。それぞれの形や装飾を注意深く観察してみましょう。
(図)
バリの短剣
中部カリマンタンの剣・刀類
アスマット族の像およびその槍と盾

伝統楽器
いくつかの伝統楽器から、その特徴がわかります。次の複数の楽器をよく見てみましょう。これらの楽器には、さまざまな装飾がなされていることがわかるでしょう。さまざまな装飾には、それぞれの地方の特色が現れています。ジャワのガンバン(打楽器)の装飾は、植物と動物を表すものからつくられています。パプアのティファ(打楽器)は、植物、動物そして人の要素を取り入れた装飾がほどこされています。
(図)
パプアのティファ(打楽器)
ジャワのガムラン(民族楽器)のガンバン(打楽器)
バリのガムラン(民族楽器)のグンダル(竹製楽器)
ジャワのグンダン(小太鼓)

主要参考文献・資料:
○服部美奈「道徳的価値と知識習得の調和をめざして」池田充裕・山田千明『アジアの就学前教育幼児教育の制度・カリキュラム・実践』明石書店.2006年.184-205頁
○桃木至朗他編集『新版東南アジアを知る事典』めこん.2008年
○森山幹弘・塩原朝子『多言語社会インドネシア変わりゆく国語、地方語、外国語の諸相』めこん.2009年3月
○中田有紀「インドネシアにおけるイスラーム教育およびイスラーム宗教専門教育の法的位置付け-2007年政令第55号の翻訳およびその解説を通して-」『学術フロンティア報告書2008年度』東洋大学アジア文化研究所.2009年3月.185-200頁
○中矢礼美「インドネシアにおける<地域科>に関する研究―国民文化と民族文化の調整を中心に―」『比較教育学研究』第21号.1995年.73-82頁
○西野節男「インドネシアの公教育と宗教」江原武一編著『世界の公教育と宗教』東信堂.2003年.295-315頁
○西野節男「第5章インドネシア-市場化と国家統一維持の政治的課題-」馬越徹編『アジア・オセアニアの高等教育』玉川大学出版部.2004年.101-123頁
○西野節男・服部美奈編著の『変貌するインドネシア・イスラーム教育』東洋大学アジア文化研究所・アジア地域研究センター.2007年
○TaudikTardianto.KerangkaDasar,StrukturKurikulumStandarKompetensidanKompetensiDasar.TingkatSD/
SM.SMP/MTs.CV.BP.PANCANHAKTI2006.
○インドネシア共和国国家教育省ホームページ(http://www.kemdiknas.go.id/)

文責および教科書翻訳:
中田有紀(東洋大学法学部助教)2010年10月

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