第2章 マンガ読者に関する動向

2.1 マンガ雑誌・単行本の概要

 マンガは年間約16億冊が発行され、その売上は約6000億円と言われている。マンガを除いた雑誌、書籍の年間売上高が2兆5000億円であることから、マンガは総売上の約5分の1を占めていることになる。マンガの売上のうち、マンガ雑誌は3500億円、単行本は2500億円となっている。マンガ雑誌に掲載されたものが、のちにまとめられて単行本として発行される。単行本への書き下ろしはあまりない。マンガ雑誌は、週刊誌、隔週誌、月刊誌などがあり、年間約270種類が発行されていると言われているが、正確な数はわかっていない。発行部数が100万部を超えるものが10誌以上あると言われている。読者の年齢に合わせて、少年マンガや少女マンガ、また大人向けのマンガがある。また、内容を見ると、スポーツや恋愛をテーマにしたストーリー中心のものやギャグ、風刺から歴史や政治、経済をテーマにしたものまで、実にさまざまなジャンルのマンガがある。


2.2 マンガ読者の二分化

 しかし、ここで問題にしたいのは、第1章でも述べたようにマンガジャンルや雑誌編成によるマンガ読者の類型ではなく、読書行為に注視することによって見えてくるマンガ読者の類型についてである。マンガ評論家村上智彦氏は、マンガ読者を2タイプに分けている。
@プロの読者
 マンガを読み続けている人は次第にマンガに対する自分なりの世界観を持ち始め、自分の世界感に合うマンガを自ら求めて発見する。そうすることによってある特定のマンガ分野に対して詳しくなる。ゆえに特定のアニメにファンであったり、特定の作家のファンであったり、特定の雑誌しか読まないということになる。しかし、書店には数え切れないほどのマンガが並んでいるがそのすべての作品について批評できるわけではなく、当然読んだことのない作品の方が多くなることにもつながる。
Aアマチュアの読者
 マンガを情報として受け止める。特定の好きな分野があるわけではなく、ただ他の情報源から得た情報によって作品の面白いか否かなどの判断を行う。有名な作品なら名前、内容について相槌を打てる程度には知っている。
 アマチュアの読者は、自分で作品を発見することを放棄していて、マンガは世間の話題の一つとして知っている程度。


2.3 読みの能動性

 マンガ作者でかつてマンガ読者でなかった者はいないという。マンガ読者の中からマンガを「描く」という能動性へと移行する比率は高い。マンガ読者であるならマンガを書き写したり、自分なりに描いてみたりした経験はほとんど誰にでもあるのではないだろうか。マンガ読者が能動的な読みを行う場合、「マンガについて語る」事よりも、「マンガ表現へと向かう(マンガを描く)」ことの方が、より優位なものと一般的にとらえられているようだ。ということは、マンガを描いた経験の多いものほど、より多くのマンガを読んでいると考えることができるのではないだろうか。


2.4 消費行動とは

マンガ読者を2つに分けた上で、さらに細分化する指標として消費行動を用いたのが、社会学者石田佐恵子氏である。消費行動とは購入・読書・所有の3つを指している。
・購入(購買形態)  ・雑誌・単行本ともに購入する
             ・単行本のみを購入する
             ・雑誌のみを購入する
・読書  ・繰り返し読む(細部にわたって記憶する)
      ・一度きりで繰り返し読まない(読んだきり忘却する)
・所有(あらかじめ購入・入手している読者が対象となる)
     ・すべての購入したマンガを捨てずに(売らずに)保存しておく
     ・選択的に保存するものとそうでないものとを決める
     ・保存・蓄積しない=廃棄する、売却する
これを元に以下の4つの類型に分けることができる。
図1-1は各類型の特徴を分かりやすく図にしたものである。


 

[類型1]
 マンガ論やマンガ批評作家・読者となるような、コアなマンガ読者。マニアックでマイナーなマンガ雑誌なども読む。マンガ作品自体をひとつの完結した世界として読む読者。
[類型2]
経 済的、保有スペース的に問題があり、マンガを購入することなくマンガ喫茶などで読む読者。
[類型3]
 マンガ情報誌が紹介する「おもしろい」「お勧めの」マンガを情報として受け止めたり、飲食店や通勤電車などで読む。あれば読むという 傾向が強い読者。
[類型4]
 まったくマンガの読み方を知らないが、マンガについての情報を持っている。自らの目で作品を発見することを放棄して情報だけを追い求めるような、マンガ読者。マンガを情報としてのみ扱い、ひたすらコレクターズ・アイテムとして追求したり、よりレアなマンガを求めて古本屋をハンティングしたりすることに興味や関心がある。   


2.5 マンガの利用と満足

 マンガは私の中で欠かすことのできない生活の一部となっている。しかし、マンガの利用の仕方によって、どのような効用を得るかは異なってくるであろう。
そこで、本調査では内面的な効用と外的な効用の側面から、読者のタイプによってどのように効用が異なるのか調査を行った。


2.6 マンガに対するイメージ

 人々はマンガに対して多様なイメージを抱いている。富山大学人文学部の加藤氏は、卒業論文の中でこんなたとえをしていた。『「天気のいい休みの日に一日中小説を読んでいた」という発言と「天気のいい休みの日に一日中マンガを読んでいた」という発言が同列に扱われるとは限らない。』つまり、マンガを「格が低い」と考える人もいれば、「おもしろく、役に立つ」と考える人もいるということである。そういったイメージも読者のタイプによって傾向が現れてくるのではないだろうか。
 そこで、本調査ではマンガの親しみやすさ、学習の向上への貢献、所有価値の側面から13のイメージを聞いた。


戻る 次へ