Topics

【区割画定 と 議員定数配分 に関連した話題】


国政選挙(衆参両院)における一票の格差 2020 開く・たたむ

衆議院で1994年に小選挙区制が導入されて以降,国勢調査(西暦下1桁が0年度/5年度)の確定人口が出る毎に,衆議院選挙区画定審議会が区割りの見直し議論を行っている. その結果,見直し直後は2倍未満を達成する区割りが答申されることが多くなった. ただし,人口は変動する(特に近年,日本では一部大都市のみ人口増で他は人口減/人口大幅減である)ので,選挙区間の較差はすぐに2倍を超えることになる.

一票の最大較差(人口最大選挙区の人口÷人口最小選挙区の人口)が2倍未満を達成するのは評価されるべきことではあるが,毎度2倍をギリギリ切る程度が提示されるのは,良い状態であるとは思えない.

2000年,2005年,2010年,2015年と過去4回に渡り,最適化手法を用いて一票の格差の限界値を求めてきた. 今回も2020年国勢調査確定人口に基づき計算してみた.それらの結果から言えることは,過去から現在までのその時々微修正される作成方針に基づいて作成する場合,無理なく 1.7倍程度の区割案を提示できる,ということである. 出来ることは分かってきたので,あとはやるかどうかだけである.

1.7倍よりもっと較差を縮小させたい,という場合は,作成方針をいじることになる. これまで,選挙区を構成する要素として用いてきた市区町村(昔は市区郡)について,その境界(行政区)を尊重してなるべく分割しない,とされてきた(分割を許容するための例外事項・条件が提示されてきた). これを,人口が大きな市区については,目標較差を達成するまで分割してよい,に変更する. ただし,目標較差を先に決めておくことが必須である. 目標較差(1.5倍,1.4倍,1.3倍,1.2倍など)を指定しなければ,分割に歯止めがかからないか,どこまで分割していいか分からずに分割を躊躇するかのどちらかに陥るだろう.

なお,もう1つ較差を改善する方策として,総定数を大幅に増やす,ということもある. 欧州の各議会と比較して,日本の国会議員数(人口あたり議員数)は少ないのだが,日本では昨今,総定数を減らす方向で進んでいるので,受け入れられないのだろう. 議員報酬や諸経費の総額を一定にし,一人あたりは定数で割る制度にすれば,定数を何人にしても総費用はさほど変わらない気もする(ホント? 部屋・椅子などの空間の確保や付き人などの人の割り当て等が大変?)が,難しいのかもしれない. 総定数はそのままで,小選挙区比例代表並立制をやめて小選挙区制のみにしてもよいが,国会議員はどう選ぶべきかと,較差縮小とどちらを優先するかという話になると思うので,これ以上は立ち入らない. 政策論議や画定作業支援のためのデータの提示や,計算結果から言えることの提示をしているので,それらを参考に改善が進むことを期待したい.


関連論文・発表資料

  • 堀田敬介,川原純: 最適化と解列挙による2022選挙区勧告案の検証評価, 日本OR学会 秋季研究発表会 (2022/9/14). Abstract: [PDF], pptx: [PDF]
  • 堀田敬介: 国政選挙の議席配分と最適区割2020, 研究集会 「最適化:モデリングとアルゴリズム」 (2022/3/23). [PDF]
2020.5.2 たたむ

定数配分はどの手法で実施するのが望ましいのか? 開く・たたむ

定数配分において,一票の最大較差(および一票の較差)を最小化するためには,最適化手法を用いるのがよいが,専門家でなければ利用は難しいかもしれない. 一般に知られている方法で実施する場合,定性的・定量的見地を総合的に判断し,理論ではなく実際の事例に適用した場合の数値結果などをより重視した場合, 剰余法(LMD)と除数法(SD, HMD, GMD, AMD, 修正AMD, log, LD)の8つの中から選ぶなら

  • 結論1: 選挙区制では,GMDかHMDのどちらかを採用するのがよい
  • 結論2: 比例代表制では,修正AMDを採用するのがよい
と思われる.詳細は参考文献を参照されたい

※注)何故,制度によって推薦手法が異なるのか?
選挙区制では平均的かつ最適に近い解を出しやすいGMD/HMDがよいが,比例代表制では「極端に獲得票の少ない政党を排除したい」場合,必ず全ての政党に1議席は配分してしまうGMD/HMDを用いるのはそぐわない. よって,ドイツ連邦議会などのように足きり条項(○%以上の得票数がないと当選不可)を設けてGMD/HMDを用いるか,必ず1議席以上とはならない修正AMDを用いるのがよい.(AMDは獲得票が少ない政党にも配分しがちであるため,足きり条項を設けないのであれば,修正AMDの方が望ましい)


参考文献

  • 堀田敬介: 選挙区画定問題の解法, 経営論集 Vol.5, No.6 (2019) 1-24. [PDF]
  • 堀田敬介: 指定都市議会議員選挙における投票価値の平等, 経営論集 Vol.5, No.3 (2019) 1-20. [PDF]
  • 堀田敬介:「データ処理U(2017春)」-「選挙の数理」-「議席配分法の比較」 参議院 通常選挙/比例代表
    第24回[2016(H28)/7/10] [png]
  • 堀田敬介:「データ処理U(2019春)」-「選挙の数理」-「議席配分法の比較」 参議院 通常選挙/比例代表
    第23回[2013(H25)/7/21] [png]
    第22回[2010(H22)/7/11] [png]
    第21回[2007(H19)/7/29] [png]
    第20回[2004(H16)/7/11] [png]
    第19回[2001(H13)/7/29] [png]
2019.2.4 たたむ

地方選挙(都道府県議会)の格差是正 開く・たたむ

国政選挙(衆議院・小選挙区制【定数289[←295←300]】)は,1人選出選挙制度(小選挙区制, single-member constituency system)ですが,地方選挙(都道府県議会選挙)は,複数議員選出選挙制度(大[or 中]選挙区制, multi-member constituency system)です.

小選挙区制は1選挙区から1人の議員を選ぶ制度なので,選挙区割をどうするかのみを考慮すれば良いですが,大選挙区制は1選挙区から2人以上選ぶ(モデル上では1人のみ選ぶ場合も含む.実際の都道府県議会選挙では「小+大選挙区制」や「小+中選挙区制」などとよばれる)ので,選挙区と共にその選挙区から何人の議員を選ぶかも同時に決定するよう最適化モデルを考えることになります.

複数議員選出選挙制度の最適化をし,一票の最大較差の限界を求めます. これにより,現行区割がどれほど較差に関して手を抜いているか(較差以外のことを重視しているか)がわかると共に,どれ程(一票の較差を)改善する余地があるかが明らかになります.


関連論文・発表資料

  • 堀田敬介: 複数人選出選挙制度の格差是正のための最適化と限界値分析 (Optimization for the multi-member constituency system), Transactions of the Operations Research Society of Japan, 60 (2017) 74-99. [PDF]
  • 堀田敬介: 都道府県議会の選挙区画定 日本OR学会 秋季研究発表会 (2019/9/12). Abstract: [PDF], pptx: [PDF]
2017.5.17 たたむ

一票の価値: 区割画定 (2016行政界・2015人口) 開く・たたむ

2015年国勢調査(速報値:2016年2月26日公表)と2016年3月時点の行政界をもとに,総定数289を47都道府県へ議席配分後(最適化OptRによる)の,都道府県毎の最適区割を求め,一票の限界較差を計算します.

議席配分後の(全国)一票の限界較差は,以前示したとおり 1.653倍 です(「一票の価値:議席配分(2015人口)」).

最適区割による(全国)一票の限界較差は,1.962倍です. ただし,今回のデータでは,あと1つ市区郡分割(具体的には石川県金沢市を分割)すれば,1.763倍の区割を構成できますので,これが結果です.

総定数を都道府県へ定数配分し確定後,都道府県毎の区割を求めるという決定過程をやめて,定数配分と区割画定を同時に行う格差最小配分法を用いた場合は,1.763倍です.

いずれも,詳細は以下の論文「衆議院議員小選挙区制最適区割2016」を参照のこと.


参考

  • 堀田敬介, ``衆議院議員小選挙区制最適区割2016'' 経営論集 Vol.3(2017) 1-114 [PDF]
  • 総務省統計局:平成27年国勢調査: 調査の結果
2016.5.10 たたむ

一票の価値: 議席配分(2015人口) 開く・たたむ

Adams法。。。 なにそれ? 美味しいの?

国会で衆議院の選挙制度(小選挙区制)を論じる際に,「Adams法」という用語が飛び交っています. 一票の価値を論じたり,(議席配分の際に)一票の格差を縮小することを議論するときに,人口比例であることにはこだわっても,手法にこだわらないことが大事だと思うのですが,「衆議院選挙制度に関する調査会」の答申(H28.1.14)にはっきり「アダムズ法」と書かれていることを尊重されているのでしょうか. それとも,専門用語を目にすると,内容を吟味することなく

「専門用語を颯爽と使ってる,オレ,格好いい!」
などという気分になるのでしょうか?

答申では,「3.一票の較差是正」(1)小選挙区選挙のBにあるとおり,「都道府県への議席配分方式について満たすべき条件」として

  • (ア)比例性のある配分方式にもとづいて都道府県に配分すること
  • (イ)選挙区間の一票の較差を小さくするために、都道府県間の一票の較差をできるだけ小さくすること
  • (ウ)都道府県の配分議席の増減変動が小さいこと
  • (エ)一定程度将来にわたっても有効に機能しうる方式であること
をあげ,真面目に議論されており,非常に画期的で好感が持てます. 唯一の難点は「方式」という言葉をここに入れてしまったことだと思います. 早速「Adams法」という「方式」が一人歩きし始めてしまいました.

これまでの議席配分による研究から,定性的には算術平均法(Webster法,Saint-Lague法)がよい性質を多く持つ,などの結果が知られていますが,定量的には(その時点で)最も格差を下げる方法は,それぞれの行政界と人口で計算してみないとわからないからです. よって,「方針」文中では「人口に比例して配分」と述べるに留め(上記では3箇所の「方式」を消せば良い),10年ごとの見直し時に具体的にどの方式を採用するかを議論する方がよいと思います.
 そうでないと,一度決めて使ったので,10年後(人口・行政界の状況が想定に反して)現行方式では,格段に格差があがってしまう! ということになってしまったとき,「一度決めて使ったのだから,しばらくそのまま現行方式を使って実行しよう」という必ず言及されるであろう案を検討対象に含めなければならず煩雑です.

さて,答申では,2010年国勢調査[確定値]をもとに計算しておりますが,2015年国勢調査[速報値]が公開されたので,こちらで少し計算してみましょう. 現行の衆議院小選挙区定数は295ですが,答申にあわせ289人で計算します.

2010年/2015年,2種類の国勢調査人口があります. 図中の白背景が,計算に使った人口で,灰色は参考として,その同じ配分で,計算に使わなかった方の人口にあてはめた時の較差を示しています. 答申案は2010年で計算したときの配分ですが,それをそのまま2015年にあてはめると1.683倍となってしまいます. Adams法で2015年人口で計算し直すと,1.668倍(SD)です. 一票の較差の限界(最適限界較差)は割当分特性のあるなしどちらも1.653倍です.

<最適化について補足>

剰余法・除数法ともに,47都道府県の全ての配分値を与えますが,最適化は ratio = max / min の最小値を求めるので,maxとminの都道府県のみを定め,間の45都道府県には自由度があります. 割当分特性を条件とした最適解の個数の明らかな上界値は2^45=35,184,372,088,832個ですが,人口の大小と配分値の大小等の制約で実際には大分少なくなります. 現在まで計算してみたところでは,OptR(割当分特性あり)で800以上の解個数を見つけています. また,800以上ある最適解のなかで,議席配分値が唯一(全て同じ)に定まる都道府県が17あるので,最適解個数の上界値は2^30=1,073,741,824まで下がります.

一票の較差という点で最適化を考えるなら,

  • step1. 一票の較差最小最適化問題を解く→一選挙区平均人口最大・最小が求まる
  • step2. 1/47番目固定し,2番目に大きな平均人口を最小化する最適化問題を解く→2番目が求まる
  • step3. 1/2/47番目固定し,3番目に大きな平均人口を最小化する最適化問題を解く→3番目が定まる
  • step4. 以下同
とすると唯一に定まり,都道府県較差について「答申」の「3. (1) B-(イ)」の条件を満たす答えを得られます. 2015人口では5番目の都道府県を求めたところで解がユニークになります.

割当分特性を条件にしない最適化モデルの方(OptD)も同様にして計算してあります. OptDは,その年度での格差縮小の限界まで議席のやりとりをするので,2010年人口の方では悪い結果となりました. 人口の変化に対して頑健性を持たせるには,割当分特性を条件にしておいた方がよいように思えます.

最後に余計なことを述べます. 「答申案は,何故Adams法を提案したのか?」です.

「衆議院選挙制度に関する調査会」委員の一人に鳥取県知事がいます. 47都道府県の知事として唯一加わっています. 上図で示したように,Adams法以外では,鳥取県への議席は「1」になるのです(表中に表れる人口573,648が2015年鳥取県人口です). Adams法だけが,上記代表的な方法では唯一鳥取県へ「2」議席与えるのです. 鳥取県は参議院で「合区」の対象ともされ,議席が減る傾向にあります. おそらく,そういうことなのでしょう. ですが,同県の人口減少に歯止めがかからなければ,近い将来,「1」にするか,配分対象を都道府県から合区・道州などより大きな単位へ変更するかせざるをえなくなるでしょう.


参考

  • 総務省統計局:平成27年国勢調査: 調査の結果
  • 衆議院:「衆議院選挙制度に関する調査会」:HP(答申・議事録)
  • 堀田敬介: 区割画定作業支援のための選挙区割の特徴化, Transactions of the Operations Research Society of Japan, 59 (2016) 60-85.[PDF]
  • 堀田敬介: 合区および総定数変化に対する議席配分最適化, Japanese Journal of Electoral Studies , 31-2 (2015) 123-141.
  • 堀田敬介, ``衆議院議員小選挙区制最適区割2011'', 情報研究 47 (2012) 43-83. [PDF]
2016.3.10 たたむ

区割画定作業支援のための区割の特徴化 開く・たたむ


論文

  • 堀田敬介: 区割画定作業支援のための選挙区割の特徴化, Transactions of the Operations Research Society of Japan, 59 (2016) 60-85.[PDF]
2015. たたむ

合区の評価 開く・たたむ


論文

  • 堀田敬介: 合区および総定数変化に対する議席配分最適化, Japanese Journal of Electoral Studies , 31-2 (2015) 123-141.
  • 堀田敬介: 合県モデルと区割人口頑健性による選挙制度の評価と提言, RIMS 研究集会報告集 No.1879 (2014) 79-90.[PDF]
2015. たたむ

区割画定作業支援のための区割列挙 開く・たたむ

区割画定作業を支援することを考えましょう.

最適解(最適区割)は,限界値を提供します.つまり,「同じ問題設定のもとでは,一票の格差をこれ以上縮小することはできない限界はここですよ」という値を示しているのです.

都道府県毎に現行の区割と最適区割を比較することで,現行の区割が格差縮小を目的として「頑張って」作られた結果なのか,それとも,「格差を犠牲にして何か別の目的をもって」作られたのかがはっきりとします.

「一票の格差」が大きすぎると問題視される中で,格差以外の目的が優先されることはいかがなものかと思います. しかし,区割を作った人にすれば,

『「一票の格差」より優先される大事なものが他にあるんだよ!
最適区割から現行区割まで,そんなにたいした差は無いのだから(?)いいじゃないか!』
という言い分があるかもしれません(実際には「0増5減(2013現行区割)」の多くの都道府県ではたいした差なのですが….ちなみに,「現行区割」=「最適区割」である都道府県も若干あります.素晴らしい!).

そこで列挙の出番です. 解の列挙とは,選挙区割の候補をたくさん提示する,ということです.

最適解(「一票の格差」の縮小限界値)から現行区割まで,その間にどれだけの数の選挙区割候補が存在するか,格差が小さい順に全て列挙してあげることで,

『あれっ? これほどたくさん他に候補があるなかで,なんでこんなにも(一票の格差が)悪い区割を使ってるの?
という当然の疑問に対する説明責任がある,ということを明確に分かって頂きましょう. 区割候補がたくさん提示されることで,画定作業の支援にもなります. なお,これまで
『色々な答え(区割候補)がありそうだが,問題が難しくて求めるのが大変なため,よくわからなかった.だから(ベストでないのは分かっているけど)今の区割を採用しているのだ』
ということもあるでしょう. 最適化と列挙の手法が確立されたことで,市区郡境界と人口が与えられれば,これまでの(おそらくほぼ手作業の)検討法に比較して,圧倒的に短時間で答えを出すことができるわけです. 例えば,47都道府県の最適解をすべて求めることは,現在のところ,ほぼ1日で出来ます(きちんとプログラムし自動化すれば,十数分でできるでしょう). ちなみに,研究を始めた当初2002〜3年頃(はじめて日本全国すべての最適解を求めることに成功した時)は,47都道府県そろえるのに約1ヶ月掛かりました. 新しく区割を検討・画定する際には,支援ツールとして大いに利用して貰いたいものです.

最適化・列挙の結果は以下のリンクからどうぞ.

  • 総議席数が 300の場合, 295の場合

注)リンク先の地図表示に Java Applet を使っていますが,Java の仕様変更により,Appletはデフォルトでは実行されないようになりました. そのため,お使いのブラウザのセキュリティ設定を変更しない限り,現在地図は全て表示されない(実行されない)状態になっています. 設定を変更すればご覧になれます. 順次,画像への差し替えをする予定です.


参考文献

  • 堀田敬介, ``選挙区割の最適化と列挙索引化'', オペレーションズ・リサーチ Vol.57 no.11 (2012) 623-628
  • 堀田敬介, ``衆議院議員小選挙区制最適区割2011'', 情報研究 47 (2012) 43-83. [PDF]
2013.2.20 たたむ

なぜ「○増○減」という言い方を好きな人が多いのか? 開く・たたむ

一票の格差を縮小させたい,という議論の時,何故か決まって出る言葉に「○増○減」というものがあります. 「○増○減」とは,定数配分の結果であって,手法ではありません. これまでと比較してどう変化したかの結果を示しているに過ぎません.

議席配分問題は,(衆議院小選挙区の場合)議員総数と人口が与えられたときに,47都道府県にどう割り振るか? という問題なので,結果を示す言葉「○増○減」で,さも議席配分を見直した,という言い方には違和感を覚えます.

さらに,定数配分のあと,区割をしなければならないのですが,「○増○減」という言葉には(意図的なのか無意識なのか)定数配分のことしか含ませていません.

この言葉を好む方は,『 一票の格差を減少させるのに議席配分をどうしようか.その後区割をどう変えようか 』 を誠実に議論するより,定数配分結果が 『 これまでとどう変わったか 』 のみに多大な関心があるということなのでしょう.

さて,小選挙区の議席数を300から295にしたらどうなるのか,計算してみましょう. 『都道府県に議席配分して,都道府県毎に区割をする』 という手順を踏襲する場合,一票の格差を出来るだけ下げるには,都道府県への議席配分に対する最適化モデルの最適解を用いるのが素直です(と,私などは思います).

最適化問題の最適解という言葉を,理解せずに使っている方がいるように思います. その最適化問題設定のもとでは,それ以上良い解はないということが保証されている,ということです(ちゃんとした定義は最適化の書籍をどうぞ)

2010年国勢調査速報値(3.11震災前)の人口を使い,295議席で,「最適化」「剰余法(1種類)」「除数法(5種類)」を「一人別枠方式」のある・なしで計算したのが以下です. ついでに,平成25年3月28日の勧告案 「0増5減」 も比較としてだしておきます. 都道府県毎の区割をする前の,議席配分時の格差です.

  • optR=最適解(割当分特性満たす),optD=最適解(割当分特性満たさず)
  • LRM=最大剰余法
  • LD=最大除数法,AMD=算術平均法,GMD=幾何平均法,HMD=調和平均法,SD=最小除数法
  • [1+] = 一人別枠方式を使う

  • AMDは,定性的には優れているよね?と論文などで言及されることが多い方法
  • GMDは,米国下院の435議席を50州へ配分するのに使われている方法
  • LDは,参議院比例代表の当落に使われている方法
  • LRMは,なんだかんだ言って結構使われている気がする方法.各種パラドクスは起こりうるが,割当分特性を満たすのはこれだけ

  • 表中の数値は,各手法で都道府県に議席配分し,各都道府県の一選挙区平均人口(47個)の最大値と最小値,およびその比(この比がこのあと区割画定する際の一票の格差の下限)
  • 名称の背景黄色は 「割当分特性を満たす」 の意味で,該当するのは最適解(optR)と最大剰余法(LRM,1+LRM)の3つだけ
  • 「割当分特性を満たす」 とは,例えば,ある県で [総議席]*[県人口]/[全国人口]=3.4192... なら,その県の配分議席は 3か4 のどちらかになること. 「割当分特性を満たさない」 手法は,配分結果がこの条件を満たす保証がない,ということ(先の例では,配分議席が2とか5とかそれ以外になりうる,ということ)

  • 注1:ここでは「2010国勢調査人口【速報値】」で計算してますが,衆議院議員選挙区画定審議会は「同【確定値】」を用いています.なので人口の下3桁の値が多少違います
  • 注2:optR, optDはMIP solverなどで最適化モデルを解く必要がありますが,それ以外はExcelで計算できます
  • 注3:表中の人口で294,209と588,418が散見されますが,これは鳥取県に2議席(294,209)か1議席(588,418)かです.「鳥取に何議席」を気にする人が多い気がしますが,この例で分かるとおり,どちらにしても1.6倍程度に出来ます(optRとLRM,AMD参照)のでどちらにするかはさほど重要ではありません
  • 注4:除数法は,割当分特性を満たす保証がありませんが,両極端なLD,SDを除いて,この例(295議席,47都道府県)ではAMD,GMD,HMDでは満たさない都道府県はありません

「一票の格差」を縮小させたいなら,少なくともこの時点で,(最適とは言わずとも)なるべく小さな値となっていて欲しいはず(ですよね?)

これまで,議席配分では「一人別枠方式+最大剰余法(上表の [1+LRM] )」が使われてきたのですが,勧告案「0増5減」はそれとは異なるし,実は上記のどの配分方法の議席配分値とも違います.

「方針(=一人別枠方式+人口比例で配分)を変えてでも今までと異なる議席配分をしよう!」 という英断だったと思うのに,審議会が 295議席の議席配分問題に真面目に取り組まずに,「0増5減」なんぞに引っ張られて 1.789倍の議席配分を区割画定のスタートとして使ってしまったのは残念ですね.


さいごに,「0増5減」の 「定数配分」部分の酷い点についておさらいしておきましょう.

定数配分を変えた理由は,「最高裁」にダメ出しされたからです. そして,ダメ出しの理由は 「人口比例になっていないから」 です. それなのに,「0増5減」 は 「人口比例をあからさまに無視している」 のです.

神奈川県民は気づいているのでしょうか?

大阪府(8,862,896)より神奈川県(9,049,500)の方が人口(2010国勢調査速報値)が多いのに,配分議席数が少ないのですよ.大阪府(19) > (18)神奈川県.

「人口比例になっていない(このままじゃ憲法違反だよ)」 から 「人口比例を無視した 『0増5減』 案を作りました (オイオイ…)」 ということなのですよ.

ただし,悪いことばかりではありません. 今回 「区割画定」部分で 「見直しが実施された県」 の中には,平成の大合併にあわせた市区町村境界と選挙区境界とのずれの解消(即ち市区郡分割の見直し)や,県内の人口格差が改善されています.

非常に評価できる点です. 当サイトの最適区割/第k最適解列挙と現行区割の格差を見比べてみると良いでしょう. 「0増5減」勧告は,緊急避難的に一部都道府県だけの見直しとなりましたが,時間はあったはずなので,全都道府県を見直せば良かったのにと思います.


参考



【補足】

  • 議席配分→区割画定の順番を守る
  • 都道府県をまたぐ選挙区をつくらない
ことを前提で述べています.

2013.4.4 たたむ

中選挙区制は一票の格差を縮小し死票が減るという幻想 開く・たたむ

現在(たまたま)小選挙区制なので,それを対象に数理的な研究をしているわけですが,この手の発表をすると,

「なるほど,やっぱり 小選挙区制はダメな制度 で 中選挙区制に戻すべき だよね」
という,不思議な発言をされる方が少なからずいらっしゃいます. 私の発表内容から,どうしてそういう流れになるのか理解不能ですが,きっと私の話し方がまずいのでしょう.おそらく
「内容はよくわからんが,きっとコヤツは小選挙区制はダメだと言ってるに違いない.我が意を得たり! やはり(自分の好きな)中選挙区制がいいって事だな!」
ということかと推察いたします.

小選挙区制がダメだなんて言ってませんし,まして中選挙区制については言及すらしておりません. 例えば,一票の格差が縮小できないのは,小選挙区制度だからではなく,現在の「選挙制度・区割決定規則と実際の決め方」及び「選挙運用の仕方」がダメなせいだと思います. 小選挙区制だろうが,中選挙区制だろうが,これらが変わらなければ格差が縮小される見込みはありません

さて,あらためて,まず 「中選挙区制」 とは何でしょうか?

私自身は,学生時代からずっとその意味が分からない言葉でした. 中学高校時代,誰かから 「1選挙区から1人選ぶのが小選挙区,3〜5人ぐらい選ぶのが中選挙区,それ以上が大選挙区だ」 という,まことしやかな嘘を聞いた記憶がありますが,この定義で納得できる方が居るでしょうか?

実は,「中」選挙区 とはかなりミスリードな用語なのです.

数学的に定義するなら, 「1選挙区から1人選ぶのが小選挙区」 で 「1選挙区から2人以上選ぶのが大選挙区」 です. 「中」の入る余地はありません.

では 「中」選挙区とは何か?

実は,「有権者が何票投票できるか」 まで明らかにしないと理解できません (小・大選挙区だけならこれは必要ありません)

  • 小選挙区制 = 1選挙区から1人選ぶ.有権者は1票を投じる(1人選ぶ)
  • 大選挙区制 = 1選挙区から2人以上選ぶ.有権者は,選出数分の票を投じる

  • 中選挙区制 = 1選挙区から3〜5人ぐらい選ぶ(不思議な定義ですよね).有権者は1票を投じる(1人選ぶ)
(厳密には「単記式」とか「非移譲式」とか,細かな差異まで含めて制度に名称をつけたりするようですが,まず1選挙区からの選出議員数で定義して大小2制度に分け,あとはそのバリエーションと考えるのが合理的でわかりやすいと思います.「中」なんてラベリングをしたのがそもそもの間違いです. 1つの選挙区から1票を投じて複数人を選ぶ,という点で実は「比例代表」に近い,というより全国1選挙区の比例代表を細かく切っていったものと見ることもできます. そう考えると,大小選挙区制と比例代表制のいいとこ取りをしたか,決められなくてどっちつかずを考えたか,のいずれかってことでしょうかね)

おわかりでしょうか? 「中」選挙区制度が,「中」庸を好む日本人が考え出した,「中」途半端で意味不明な制度だということが. 聞くところによると,世界200弱の国の中で,「中選挙区制」という概念が存在するのは極東の島国だけだそうです(なので「中選挙区制」に該当する英語はありません.無理矢理な直訳はあります)

例えば,大選挙区制で1選挙区から3人選ぶ場合,有権者は3人の名前を書いて投票するわけです(これで1人1票の原則が守られます)が,中選挙区制だと3人選ぶのに1人の名前しか書けません.

これは自分の1票の価値が1/3だってこと?

いえいえ,他の選挙区の人口・選出数など勘案する必要があるので,中選挙区制は,有権者の1票の価値がどれだけかを見積もることも困難(なので意図的にうやむやに出来る)制度なのです. 自分の1票が「1票の価値がない」のは確実,「もしかしたら1/3〜1/5ぐらいかも」 としか言えません.

従って,「(数学的に証明されていないのに)中選挙区制は(小選挙区制と比べて)一票の格差が縮小できる」 なんて軽々しく言ってはいけません. (現在の曖昧な定義ではなく,中選挙区制の厳密な定義が与えられないと,そもそも「制度に対する数学的な評価」は不可能です.具体例に対する評価は可能なので5倍なんぞの計算は出来るのです)

次に,「(根拠は示されてないのに)中選挙区制は(小選挙区制と比べて)死票が減る」 ということが事実かどうか検証しましょう.

ある選挙区で6人の候補者がおり,有効投票30,000票で各候補者の得票は下図(円グラフ)だったとしましょう.

もし,これが(日本で現在行われている衆議院の)小選挙区制なら,過半数でなくても第1位の候補者A(10,000票)が当選で,20,000票が死票となります(「死票」の定義も幾つかあるようですが,ここでは最も一般的になじみのあるものを用います)

中選挙区制を押す人は,もし同様の状況で3人を選ぶ中選挙区なら,第1位〜第3位の3人が当選(合計24,000票)し,死票は6,000票で済む. よって,小選挙区制より中選挙区制の方が死票は少なくなる,と計算しているのでしょう.

本当にそれでいいですか?

思い出して下さい. 「中」選挙区制は,3人選ぶのに,有権者は1票しか投じられないのですよ.

これが「比例代表制」だというなら,きっとこの計算でよいでしょう. でも,「大」や「小」に比して「中」なんてラベリングをしている制度なので,選挙制度設計の意図を察するに,上記の死票計算は許されないでしょう.

「死票」を「その人を1位に押すのに反対する人の数」とすると,候補者Aの反対者20,000,Bの反対者22,000,Cの反対者24,000です. 3人選ぶのに1票しか投じないので,「1位に押しはしないが,2/3位目としてなら指示する」潜在者の人数は分かりません. 仮に,3人まで投票させていたなら有効数30,000×3=約90,000票なので,各候補の得票比率が図の円グラフから大幅に変わるのか変わらないのかも分からないことに注意.

結局,潜在数を考えなければ,前記数値が死票(その人が当選することには反対)なので,当選に過半数を要求しない点からも現行の小選挙区制と大差ありません.

当選に過半数を要求することにすれば,(小・中選挙区制のままで)死票を減らすことはできます. たとえば,第1位の得票が過半数でない場合は,(フランスのように)有権者は順位を投票することにし,得票最下位の候補から消去してその票を次点に再分配,ということを第1位得票が過半数となるまで繰り返すようにします. または,日本でもよくやるように第1位の得票が過半数でない場合は,上位2名の決戦再投票とする,などがあります.
(仮に上記のように当選に過半数を要求しても,理論上半数近くが死票になりうるという点で,小選挙区制は死票が多くなりうるというのは事実ですが,中・大選挙区制でも同様なのです.死票を減らすのが日本の選挙制度で本質的な要求なら「(区割りをしない全国一選挙区)比例代表」にすべきとか,(ドイツのように)比例代表かつ得票5%に満たない候補者は認めない,などにするという議論の流れの方が理屈に合います)

要するに,小選挙区制だから死票が増えるとか中選挙区制だから減る,という言い方がナンセンスなのです. 小・大選挙区とは,1選挙区から何人選ぶかという枠組みを指定しているだけであり,投票方法をどうするかなどの設計・運用までひっくるめて格差や死票の議論をすべきです.



【補足】

中選挙区制がダメだと言っているわけではありません. 小選挙区制か中選挙区制か大選挙区制か比例代表か…,の「制度」の比較ではなく,本来の目的に対してベターかどうかの視点での比較が重要なのに,それがおろそかになっている気がするということです.

朝食は,パンとご飯とどちらにしようか,という話が,いつの間にか 『「パン」と「ご飯」で優れているのはどちらか?』 の議論になってしまっている. それはそれで重要な問題なのですが,ここで大事なのは,「今日の自分にとってベターなのはパンかご飯か」(今と将来の日本にとって大事なのはどんな選挙制度にすることか)だったはずだよ,ということです.



参考

  • 加藤秀治郎 「日本の選挙 〜何を変えれば政治が変わるのか〜」 中公新書1687 (2003).
  • 梅津ほか 「新版 比較・選挙政治 〜21世紀初頭における先進6カ国の選挙〜」 ミネルヴァ書房 (2004)
  • 西平重喜 「各国の選挙 〜変遷と実情〜」 木鐸社 (2003)
  • 森脇俊雅 「小選挙区制と区割り 〜制度と実態の国際比較〜」 芦書房 (1998)
2013.2.20 たたむ

衆議院議員選挙 小選挙区制 300議席の最適区割 [2011年版] 開く・たたむ

衆議院小選挙区制の定数300議席における,「現行区割作成方針に則った」一票の格差の限界値は 1.939倍(ルールに沿って愛媛県を分割すれば1.931倍)である. ただし,議席配分法にも最適化を用い,議席配分限界値を用いている. その倍率となる都道府県毎最適区割を示す.

最適区割導出に関する注意点

  • 人口:2010年国勢調査人口(速報値):東日本大震災(2011.3.11)前の値
  • 隣接グラフ:2011年3月末時点:ただし,東日本大震災(2011.3.11)前の市区郡合併状況にもとづくグラフ
  • 300議席を47都道府県に議席配分(最適化による限界値配分(1人別枠方式不採用,quota満たさず版):全国格差[最適化議席配分による一票の格差] 1.583倍
  • 47都道府県毎に,現行の区割り作成方針(衆議院議員選挙区画定審議会の区割作成方針)に則り区割画定(最適化による限界値:一票の格差 1.939倍 [1.931倍]

    • 日本全国の選挙区構成要素とした市区郡数:1,371(もともと飛び地となる市区郡は別の構成要素としている)
    • 北海道は振興局(旧:支庁)が単位となるが,人口10万人以上の市は振興局とは別にしてある

    • 市区郡分割1:過大人口市区は事前分割し,平均人口で1選挙区形成
    • 市区郡分割2:過小人口選挙区が存在する場合は適宜市区郡分割
    • 市区郡分割3:実行不可能な都道府県(条件内で区割が実現不可能な都道府県)は適宜市区郡分割
    • 1〜3による市区郡分割数は,日本全国で14のみ(現行区割[2001]の分割数は23

    • 選挙区に飛び地なし.ただし,市区郡にもともと存在する飛び地の内,通常の都道府県市区町村地図で判別できない程細かい飛び地は除く(現行区割[2001]には細かくない飛び地をもつ選挙区がなぜか存在する)

  • 現行の区割作成方針に則った区割画定を行っているので,限界格差が1.939倍となる.区割作成方針を一部修正変更すると,一票の格差を最適議席配分の格差 1.583倍に近づけていくことが可能
  • 都道府県毎の最適区割は,最大人口選挙区と最小人口選挙区の人口比最小を見ているので,配分議席数4以上の都道府県に於ける人口がその間の選挙区や,配分議席数2以上の都道府県に於ける全ての選挙区について,同じ格差で異なる区割が存在しうる(最適区割はユニークとは限らない
地区 都道府県(選挙区数)
北海道 01北海道(12)
東北 02青森県(3) 03岩手県(3) 04宮城県(6) 05秋田県(3) 06山形県(3) 07福島県(5)
関東 08茨城県(7) 09栃木県(5) 10群馬県(5) 11埼玉県(16) 12千葉県(14) 13東京都(29) 14神奈川県(20)
中部 15新潟県(6) 16富山県(3) 17石川県(3) 18福井県(2) 19山梨県(2) 20長野県(5) 21岐阜県(5) 22静岡県(9) 23愛知県(16)
近畿 24三重県(4) 25滋賀県(4) 26京都府(6) 27大阪府(20) 28兵庫県(12) 29奈良県(4) 30和歌山県(3)
中国 31鳥取県(2) 32島根県(2) 33岡山県(5) 34広島県(7) 35山口県(4)
四国 36徳島県(2) 37香川県(3) 38愛媛県(4) 39高知県(2)
九州 40福岡県(11) 41佐賀県(2) 42長崎県(4) 43熊本県(4) 44大分県(3) 45宮崎県(3) 46鹿児島県(4)
沖縄 47沖縄県(3)

最適区割の図に関する注意点

  • 同色が同一選挙区を意味する(第1選挙区=赤,第2選挙区=青,第3選挙区=緑,…以下同)
  • 選挙区番号は任意(選挙区番号に意味はない)
  • 枝(線)は市区郡の隣接関係を示す
  • 市区郡を表す円の直径(面積ではない)は,その市区郡の人口を県内最大・最小人口をもとに相対的に示したもの
  • 異色の同心円は市区郡が分割されていることを意味する
  • 市区郡番号は市区郡隣接グラフ作成時,単なる区別の通し番号(行政番号の順番に準ずるが同じではない.飛び地を持つ市区郡は別要素で別番号が付くことにも注意)
  • 市区の位置は,市役所・区役所の経度・緯度情報に基づく.経度緯度は Knecht の提供するウェブサービス:「ジオコーディング」の「世界測地系」による
  • 郡の位置は町役場・村役場の経度・緯度の平均位置
  • 東京都,鹿児島県,沖縄県の,本島から極端に離れている離島[小笠原諸島,トカラ列島,石垣島,宮古島など]は位置を修正してある
  • 市役所・区役所,町役場・村役場の位置が市区町村のはずれにある場合が多いためと,上記設定により,隣接グラフの枝が交差する場合がある

論文

  • ☆:``衆議院議員小選挙区制最適区割2011'', 情報研究 47 (2012) 43-83. [PDF]
2011.12.17 たたむ

悪名高き「1人別枠方式」を廃止しさえすれば世界はハッピーか? 開く・たたむ

衆議院小選挙区制度において,300個の小選挙区は「定数配分」→「区割画定」の順番で画定されます. その「定数配分」の際,実施上は300議席を47都道府県に「1+人口比例」で配分することと定められています.一票の格差を縮小させるためには,なるべく人口に比例した形で議席を配分する方がよいので,人口に関係なく「1+」を47都道府県に配るというこの方法が批判の矛先(というより,ほぼここだけに集中砲火)になっています.

しかしながら,一票の格差を縮小させるために 『 「1人別枠方式」 を廃止する』 と言うことは,他の対策とセットにすることではじめて活きる改善策であって, 『「1人別枠方式」を廃止する』 ということ単独では格差は必ずしも下がらない.場合によっては格差を拡大させてしまいます. このことを認識できない,早とちりする,勘違いする人々がどれほど多いかが分かりました. その最たるものは,なんと最高裁判所です.

2011年3月23日に,衆議院小選挙区の選挙無効請求に対する最高裁判所の判決が出ました. その判決文の中で,

「(前略)1人別枠方式が前記2(5)に述べたような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたことは明らかである (後略)」(『平成22(行ツ)129 選挙無効請求事件 判決全文』p.9, l.6〜8など)
と述べています. 誰がどのように判断して 「明らかである」 という結論を得たのかわかりませんが,ともかく 「1人別枠方式」 が格差の主要因であるならば,
『この制度さえやめてしまえば,格差は間違いなくある程度縮小する』
と最高裁が考えていることになります. 残念ながら,それはです. このことが事実ではないというのが,我々が一連の研究で得た結論の一つです. 論文や研究発表の場でそれを何度も主張しているのですが,どうにも理解されにくいようですので,ここで 「1人別枠方式さえ廃止すれば格差は下がる」 ということが間違いであることを,簡単な例を使って説明します.

今,下図のように日本が2つの県A,Bからなるとしましょう.それぞれの人口は1000人,300人で,図中の県内各ブロックと数値は市区郡とその人口をあらわしています. 総議席数10人を小選挙区制で選ぶこととします. 現行の衆議院小選挙区制選挙区画定の決め方と同様に,まずは10議席を2県に定数配分します. 次に県毎に,配分された議席数について小選挙区を画定します.

 定数配分には,現行と同様の 「1+最大剰余法」 と,「1人別枠方式」 を廃止した 「最大剰余法」 の2つを用い,それぞれについて最適区割を求め,これ以上格差を下げられない限界格差としての一票の格差がどうなるか比較します(例として最大剰余法を使いましたが,他のどの定数配分法を用いても以下と同じ議論ができます).

 「1+最大剰余法」 の場合をまずは見ましょう.議席は県Aに7,県Bに3となります. すると,県Aの1選挙区当たり平均人口は1000 / 7 = 142.86人,県Bは300 / 3 = 100.00人となります. 従って,定数配分の段階で 142.86 / 100.00 = 1.429倍の格差がうまれます(これが一票の格差の明白な下限です).

次に,区割画定において最適区割を求めると,

県A 【7つの選挙区】:@140(=70+70),A140,B140,C140,D140,E150,F150
県B 【3つの選挙区】:@100,A100,B100
となり,最大人口選挙区 150 / 最小人口選挙区 100 = 1.500倍一票の格差となります.

さて,同様のことを 「1人別枠方式」 を廃止した 「最大剰余法」 のみで定数配分した場合でも行います.定数配分結果は,県Aに8議席,県Bに2議席となります. すると,県Aの一選挙区当たり平均人口は1000 / 8 = 125.00人,県Bは300 / 2 = 150.00人となります. 従って,定数配分の段階で 150.00 / 125.00 = 1.200倍の格差がうまれます(これが一票の格差の明白な下限です). 「1人別枠方式」 を廃止したことによって,定数配分による格差が1.429倍から1.200倍に下がりました. 良かったですね.

次に,区割画定において最適区割を求めると,

県A 【8つの選挙区】:@70,A70,B140,C140,D140,E140,F150,G150
県B 【2つの選挙区】:@200,A100
となり,最大人口選挙区 200 / 最小人口選挙区 70 = 2.857倍一票の格差となります.

あらら!? 「1+最大剰余法」の場合は,一票の格差が1.500倍だったのに,「1人別枠方式」 を廃止して同様に選挙区画定を行った場合は,一票の格差が2.857倍になってしまいました. これでおわかりのように,「1人別枠方式」 をやめたからといって,それだけでは世界はハッピーになどならないのです. まだわからない方は,下の図を見てもう一度よく読み直してください.

2011.6.3 たたむ


別の勘違いを誘いそうなので,補足をします.上記のように書くと,

「なるほどわかった.『1人別枠方式』 を廃止したからといって,『一票の格差』 は必ずしも下がらないんだな.

だが,

『1人別枠方式』 を廃止すれば,『定数配分』 においては,必ず『格差』が下がるのだろう」
と考える人が出そうですが,残念ながらそれも嘘,間違いです.

『1人別枠方式』 に関連して,定数配分方法の結果は以下の3パターンが存在します.

  • 『1人別枠方式』 がある方が格差が下がる
  • 『1人別枠方式』 がない方が格差が下がる
  • 『1人別枠方式』 があろうがなかろうが,それとは無関係に人口分布により格差の拡大・縮小が決まる
詳しくは,発表資料『堀田「国政選挙における一票の格差の現状と対策」日本選挙学会研究会』 13ページ等をご覧ください(例:『1人別枠方式』 がある方が格差が下がるのはGDの結果など: GD と 1+GD を比較してください.ちなみに,GDは現在「参議院議員選挙比例区の当選方法」に使われているドント法のことです)

2011.8.24 たたむ

「一票の格差」とその是正 〜衆議院小選挙区制区割画定問題〜 開く・たたむ

まず,ここでとりあげるのは,『民主主義国家だし,日本国憲法に明記されているのだから「一票の格差」を是正すべきだ.』とか『いや,政党・官僚の思惑や地方vs都市部の構図などから,格差はそれ程気にしなくてよいのだ.』等と主張することではなく,「一票の格差」を改善しようとしたときに,現行の制度で 『是正が数理的に可能なのか』 ということです.

日本の国会は2010年5月現在,衆議院480人,参議院242人で構成されています. 衆議院議員は300人を小選挙区制で,180人を比例代表制で選出(重複立候補可)し,参議院議員は146人を選挙区制で,96人を比例代表制[非拘束名簿式]で選出します(ただし,参議院は各制度で半数を3年毎に改選).

例えば,「日本の衆議院小選挙区制」の「一票の重みの格差」とは,300小選挙区のうち,最大人口選挙区の人口を最小人口選挙区の人口で割った値(比)のことです. 2010年5月現在の区割は,2002年に決定されたものですが,その当時のデータで

最大558,947人[兵庫6区] / 最小270,743人[高知1区] = 2.064倍 (2002年区割,2000年国勢調査人口)
でした. 国勢調査が10年ごとに行われますが(簡易調査は5年),その人口をデータとして,衆議院議員選挙区画定審議会が300小選挙区を決定しています(選挙区を決定する際のデータは,「国勢調査」の「人口」で,「有権者」ではないことに注意). 2005年の簡易調査人口では,前述の格差が
最大569,829人[千葉4区] / 最小258,687人[高知3区] = 2.303倍 (2002年区割,2005年国勢調査人口)
と拡大しています.

現行の小選挙区の画定方法は,まず300議席を47都道府県に配り(議員定数配分問題),配られた議席数をもとに,都道府県毎に選挙区を画定(区割画定問題)するという,2段階で行われています. 300議席の47都道府県への配り方は,俗に言う「1+最大剰余法」という方法で行われています. 区割画定は,各都道府県の状況を「見」「聞」しながら委員会がどのようにかして決めているようです. 「1+最大剰余法」とは,各都道府県に無条件に1議席を配分し,残りの253議席を最大剰余法という定数配分方法で配るというものです.

これまで,一票の格差に対するメディアや識者の批判の矛先は「1+」の箇所に集中していました.『議席配分の「1+」の部分が格差を生む要因だ!だから「1+」をやめよ』という論調です. 都道府県の人口とは無関係に1議席配るので,「1+」が人口比例配分を歪めているというのは確かにその通りです. しかしながら,小選挙区の格差は「議員定数配分」と「区割画定」を行い決定された結果ですから,「1+」だけをやり玉に挙げて格差の要因だという主張は根拠が薄弱です. 実際,「1+」が格差を生むと言う点は必ずしも正しくないということが,我々の研究により明らかになっています(「1+」が良いと言っているわけではないことに注意). (例えば,これ→``衆議院小選挙区における一票の重みの格差の限界とその考察''

一票の格差を縮小させるには,

  • 「1+」を廃止する
  • 「定数配分法」をかえる
  • 「議席数」をかえる
  • 「区割画定」を頑張る
  • 「市区郡分割」の条件を緩和する
  • 「都道府県境」を緩和する
  • 「定数配分」→「区割画定」という順序をやめる
  • 「区割の作成方針」をかえる
  • 「選挙制度」をかえる
  • 「格差」は「比」でなく「差」で考えることにする
  • 「整数に丸める」ことをやめる
などが考えられます. それらを実施した場合,格差がどれだけ改善されるのか(改善されないのか)を検証するため,区割画定問題を最適化モデルとして定式化し,前述の要素を変化させるという定量分析で検証してきました.
(数理モデル化については,例えばこれ→``数理的に最適な小選挙区区割の導出'' とか,これ→``選挙区最適区割問題のモデリングと厳密解導出''. 結果の大体の概要については,例えばこれ → ``公正な選挙制度を実現するための定量分析の歩み'' など)
その他の結果などは後記の論文・発表資料参照.

区割の作成法をかえることにすると,実のところ格差を1倍にする(即ち格差無しにする)のは難しくありません. 日本の人口は約1億2千万人で,300議席ですから,1選挙区あたり約42万人の選挙区を北海道から沖縄まで順番に区切って300作ればよいのです(アメリカの下院選挙区のようにあちこちのストリートで区切って選挙区をつくるということです). しかしながら,選挙区を作成する構成単位として,日本は歴史的に「市区郡」にこだわっているように思います. また,自由に区切って選挙区をつくることになると,現在のアメリカのように「あからさまなゲリマンダー(と思える選挙区)」が増える可能性もあります (→ こんなの). 行政単位である市区郡を構成要素とすることで,選挙の実施・管理が容易になるという利点もあるでしょう.

まず「各都道府県に定数配分」をし,その後「なるべく市区郡の分割はせず」「市区郡を構成単位として」区割画定を行うとなると格差が増大するという訳です. (個人的には,「郡」という単位は有名無実化していると思うので,構成単位は「市区郡」ではなく「市区町村」にした方がよいと思いますが,この修正はおそらく格差とは余り関係なさそうです)

構成単位としての市区郡境の緩和と一票の格差の拡大縮小とのバランスを考えた区割設計を「上手く」行えるといいのですが,市区郡境にこだわる限り,著しい格差の改善は無理ということです. (ただし,「定数配分」→「区割画定」の順番を崩さない場合,「定数配分」でもたらされた「一票の格差」は,「区割画定」でどんなに頑張って「市区郡」境を分断しても全く縮小できないことに注意.順番を崩さずに「区割画定」でこの格差を縮小させるには「都道府県」境の緩和が必要になります)

さて結論ですが,衆議院小選挙区制についての一票の格差は1.6〜7倍程度ならばよしとしましょう,ということであれば可能です. ただし,現行制度のままでは不可能(2倍を超える)です. 制度を以下のように変えます(変えてないところもあります).

  • 「都道府県」境界はおかさない (変更なし)
  • 「都道府県への定数配分」→「都道府県毎の区割画定」の順序は残す (変更なし)
  • 「+1」をやめる (変更する)
  • 「議員定数配分法」を変える (変更する)
  • 「議員定数配分法」でおこりうる「パラドクス」には目をつぶる (変更なし)
  • 「市区郡」はなるべく分割しない (例外規定の基準を変える)
こととし,
  • 「都道府県への定数配分」 を 「格差(比)最小」 を目的関数とした最適化で定数配分(パラドクスの可能性には目をつぶる)→ この時点で1.56倍の格差(現行制度では1.86倍)
  • 「都道府県毎に区割画定」 ただし,全国平均からの偏差内におさめるよう上下限を設定し,都道府県毎の上下限制約は設定しない.全国上限を超える・下限を下回る場合について対象都道府県内で市区郡分割
とすれば可能です. (Cf.→``一票の限界格差にもとづいた選挙制度の分析'',評価のOR:2010/6/19)  なお,「パラドクスの可能性には目をつぶる」 の点ですが,現行制度(最大剰余法)でも同様の状況ですので,改悪になるわけではないことに注意してください.

2010/6/2 たたむ

この問題をより深く知るために,各種参考文献

  • 議員定数配分方法の歴史や各方法の性質については
    • M.L.Balinski & H.P.Young, ``Fair Representation(2nd ed.)'', Brookings Institution Press(2001)
      (邦訳:越山康 監訳,一森哲男 訳 「公正な代表制」 千倉書房(1987) ←初版(1982)の訳本で,何故か重要なAppendix Aが省かれている.よって原典第2版を読むのがよい)
    • S.M.Pollock, M.H.Rothkopf & A.Barnett, ``Operations Research and the Public Sector'', Elsevier Science B.V(1994) Chapter 15
      (邦訳:大山達夫 監訳 「公共政策ORハンドブック」 朝倉書店(1998)「第15章 議員定数配分」)
      Chapter 15 が議員定数配分(Apportionment)で,書いているのはBalinski & Youngである.

  • 代表的な定数配分方法についてのコンパクトな解説は
  • Excel を使って自分で衆参両議院の定数配分を計算してみたい! と言う方は
  • 衆議院議員小選挙区制の区割画定に対する最適化モデルとそのコンパクトな解説は
  • 関連する法律
  • 行政組織

論文

  • :``平成大合併を経た衆議院小選挙区制区割環境の変化と一票の重みの格差'', TORSJ 53 (2010) 90-113
  • ☆:``市区郡分割を考慮した選挙区画定問題の最適化モデル'', 情報研究 43 (2010) 41-60
  • ☆:``一票の重みの格差から観た小選挙区数'', 選挙研究 21 (2006) 169-181
  • ☆:``衆議院小選挙区制における一票の重みの格差の限界とその考察'', 選挙研究 20 (2005) 136-147
  • ☆:``公平な小選挙区制のための数理モデル'', システム/制御/情報 49(3) (2005) 78-83
  • :``区割画定問題のモデル化と最適区割の導出'', オペレーションズ・リサーチ 48(4) (2003) 50-56
  • :``選挙区最適区割問題のモデリングと厳密解導出'', RAMP (2003)

発表資料

  • :``一票の限界格差にもとづいた選挙制度の分析'', 日本OR学会 評価のOR (2010)
  • ☆:``選挙区画定問題の最適化モデルに対する市区郡分割の方策と考察'', 日本OR学会 (2009)
  • ☆:``県境緩和による一票の重みの格差への影響について'', 日本選挙学会 (2009)
  • ☆:``Political Redistricting: A Case Study in Japanese Election System'', INFORMS Annual Meeting (2008)
  • :``公正な選挙制度を実現するための定量分析の歩み'', 日本OR学会 SSOR2007 (2007)
  • ☆:``A Mathematical Analysis of the Division Rules of Cities for Political Redistricting'', INFORMS International (2007)
  • :``小選挙区割における市区郡分割方式と一票の重みの格差の関係'', 日本選挙学会 (2007)
  • ☆:``オペレーションズ・リサーチから観た小選挙区制'', 日本OR学会 中部支部シンポジウム (2006)
  • ☆:``小選挙区制度デザインを支援する定量分析方法'', 日本応用数理学会 (2006)
  • ☆:``小選挙区区割画定問題に対する行政区域変化の影響分析'', 日本OR学会 (2006)
  • ☆:``A Mathematical Analysis of the Political Redistricting Problem in Japan'', 19th ISMP (2006)
  • :``平成の大合併が及ぼした一票の重みの格差への影響とその考察'', 日本選挙学会 (2006)
  • ☆:``Mathematical analysis of the limits of reduction in population disparity between single-member election districts in Japan'', 2nd Pacific Workshop on Discrete Mathematics (2005)
  • ☆:``Districting Problem in Japan: An IP Approach for Graph Partitioning Problem'', SJOM2005 (2005)
  • ☆:``On the limits of reduction in population disparity of the single-seat constituency in Japan'', IFORS2005 (2005)
  • :``一票の重みの格差から観た最適小選挙区数'', 日本選挙学会 (2005)
  • ☆:``小選挙区制における一票の重みの格差の限界'', 日本OR学会 「都市のOR」 (2004)
  • ☆:``グラフ分割問題のモデル化と区割画定問題への応用'', 半順序集合とアルゴリズム (2004)
  • :``衆議院小選挙区における一票の重みの格差の限界とその考察'', 日本選挙学会 (2004)
  • ☆:``選挙区最適区割問題のモデリングと厳密解導出'', 第15回RAMPシンポジウム (2003)
  • ☆:``小選挙区制における一票の重みの格差の限界'', 日本OR学会 (2003)
  • ☆:``Political Redistricting: A Case Study in Japan'', 18th ISMP (2003)
  • :``数理的に最適な小選挙区区割の導出'', 日本選挙学会 (2003)
  • ☆:``小選挙区割画定問題に対する数理的アプローチ'', 日本OR学会 アルゴリズム研究部会 (2003)
  • ☆:``小選挙区区割り画定問題のモデル化とその周辺'', 日本OR学会 東北支部講演会 (2003)
  • ☆:``区割画定問題に対する数理的アプローチ'', 日本OR学会 (2002)
  • ☆:``区割画定問題のモデル化'', 最適化:モデリングとアルゴリズム (2002)

参議院の議席数 開く・たたむ

141人が妥当でしょう. さらに,任期を4〜5年程度とし全数改選としましょう.

まず,一票の格差について,参議院の 「選挙区制」 の格差が現在5倍に近づいており,訴訟中です(2009年度から2010年度にかけて各地高裁判決は全て出そろい,合憲【東京( 4月),札幌(4月)】,違憲状態【東京(3月) ,福岡那覇支部(3月),高松(4月)】,違憲【大阪(12月),広島(1月),福岡(3月),名古屋(3月)】です).

この参議院の一票の格差について,『数理的に格差を下げられるか』の答えは 「現行制度では難しい」 です. 衆議院と比較しても格差が相当に大きい理由は 「3年ごとに半数改選とするため,各選挙区の議員定数を 『偶数』 にしなければならない」 からであり,これにつきます. なぜなら,現在と同じ制度・議員数で全数改選に変更すると 『偶数』 にしなければならないという制約がなくなり,最適化による限界格差が1.9倍程度になります(→``一票の限界格差にもとづいた選挙制度の分析'',評価のOR:2010/7/19). つまり,半数改選を全数改選にするだけで5倍近い格差を2倍程度まで縮小できます.

ただし,半数改選をやめるのは結構タフです. なぜなら,国政選挙全般について,日本国憲法では 「法律をつくって決めよ」 というスタンスなのですが,衆参両院の任期と参院半数改選については 『憲法で規定されている』 からです(→日本国憲法 第46条). したがって,『憲法改正が必要』 なのです. なお,任期については個人的に6年は長すぎると思います (6年前に選んだ議員・政党を覚えていますか? 6年前に選んだ政党はまだ残っていますか?) が,根拠があるわけではないです.

参議院を半数改選にしている理由としてよく言及されるのは 「参議院の緊急集会」 です.『衆議院と参議院の同時選挙』 を行った場合,参議院に議員が半分残っていることで,選挙・国会閉会中に何かあったときに内閣が 「緊急集会」 を求めることができるように,ということですが,このたまにしか起きない特別な場合のために,議員数の根幹を定めているのは本末転倒です. 「衆参同時選挙」 は政治家の都合であって,運用で十分避けられ,かつ,これを避けたことで国民にとって弊害は何もありません. 強いて言えば,選挙に行く回数が1回から2回に増えることですが,しょっちゅう衆議院解散をされている側からすればたいした違いはないですし,選挙権は権利ですから,回数増えたら行くのがめんどくさいという人は権利放棄すれば良いだけです.

最後に議員数141人ですが,47都道府県から各3人ずつということです. 「一人一票の原則(One man, One vote)」 から 「一票の格差」 をよく気にしますが,

  • 日本国憲法 第14条 「法の下の平等」 では 「平等であれ」 ということで 「一人一票にしろ」 と言ってはいないという屁理屈,
    逆に言うと,都会と地方で人口格差が激しく,住みやすさ・公共サービスその他の受益状況が非常に異なる現代の日本に於いて,「一人一票」 という数値上の原則さえ守れば,日本国憲法の言う 「法の下の平等」 を保証していることになると言えるのか? ということ
  • 地方分権の推奨による都道府県の力の向上,
  • 日本人は都道府県単位での動きに慣れており,かつ,何かにつけそれを望んでいそうなこと,
  • 人口比例制度による議員数の都市部偏重からの脱却
という点で,全都道府県を対等に扱い3人ずつです. アメリカの上院では議員定数が 「50州から2名ずつ」 で100人となっていますが,幸い,日本では都道府県の数が 「奇数」 です. 民主主義の観点から,各都道府県の代表も 「奇数」 にしておくのが望ましいでしょう. すると,都道府県代表が1人では少なすぎ,5人では多すぎるので3人です. 結果的に議員総数も 「奇数」 に出来ます.

衆議院は 「一票の格差」 を人口比例で縮小し,人口あたりの代表によって国会運営,参議院は,各都道府県の代表として,それが著しく都市偏重になっていないかなどの点からもチェックできるようにしようというのが趣旨です. 『都市偏重にならないように衆議院小選挙区で 「+1」 してます』 という,意味のない中途半端な政策もなくせます.


2010/8/24 たたむ


さて,このようなことを書くと,『アメリカの自治独立の州と日本の都道府県はその成り立ちや運営法が違うのだから,一票の格差と関係なく都道府県に議席を割り振るなんてとんでもない』 と宣うアメリカナイズな思考法しかできない方がいます.

いっけん正しそうですが,この主張は 「自治独立であるかないかと,一票をどう考えるかを同一視してよい」 ことに立脚しており,思考を停止しているだけです (純粋にアメリカの真似になってないから,やっちゃ駄目と言ってるだけのアメリカ信奉者,アメリカ至上主義といってもよいと思います).

本質は,二院制という枠組みをいかに上手く機能させるか,そのためにどうしたらよいかを考えねばならない点にあります.

また,日本の特殊な事情として,世界でも希な都市部偏重の人口分布があります. 2010年の国勢調査より,47都道府県は人口によって,9つの大都道府県(人口500万以上)と38の小府県(人口400万未満,ただし静岡県以外は人口300万未満)の2つに分類できます. 2000〜2010年の10年で,この二極化は顕著に進んでいます(大都道府県は殆ど増加傾向,小府県はほぼ全て減少傾向).

そして9大都道府県の人口合計は,日本人の過半数です.

このことは何を意味するのか? 一人一票を真面目に達成すると,9大都道府県が結集すれば衆議院をのっとれるということです. さてさて,万が一そうなってしまったら,残り38府県はどうしたらいいでしょうね?

2012.6.19 たたむ

【ピアノの指使い に関する話題】

ピアノの指使いを計算するには何をすべきか 開く・たたむ

ピアノを弾く上で指使いは重要です. 何故でしょう.

「変な癖をつけないように?」(←よく言われますが 「変な癖」 ってなんでしょうね)
「腱鞘炎にならないように?」
「(練習者が)指を均等に鍛えるため?」
いえいえ,それも多少はあるでしょうが,もっと重要なことがあります. 「弾ければ鼻で弾いてもかまわない」 とのたもうた高名ピアニストもいらっしゃるようですが,曲中の音符をどんな音で響かせたいかは,どの指で弾くかに依存するので,指使いは重要なのです. 「弾ければ…」 を 「単に音を出せる」ではなく 「自分の音楽解釈に沿った望む音を出せるのであれば…」 と翻訳すれば,先の高名ピアニストも,逆説的に指使いの重要性を指摘している発言である,ととることもできます.

「どの指で弾くかで音が変わる?」 そんなことあろうか…,とピアノをある程度以上弾いた経験がない方は思うかもしれません. 『ピアノの音色はタッチで変わるか?』 という本もあります. 『同じ速度』 『同じ力』 で鍵盤をたたけば,それが 「指」 だろうが 「猫の手」 だろうが 「棒きれ」 だろうが同じ音が出るはずだ! という主張もあります. ただし,単音1つを出す場合限定ですし, 「指」 自体の柔軟性が違うので, 「猫の手」 「棒きれ」 で人間の指と 『同じ速度』 『同じ力』 は達成不可能だと思いますが. また,タッチとは鍵盤を叩いた後どうするかも含み,楽器の音はそれにも依存しますので, 『同じ速度』 『同じ力』 で叩き, 『同じタイミング』 『同じ力』 『同じ速度』 『同じ滑らかさ』 で離せば,を全てあわせてはじめて単一音の同じ音を出すことになると思います.

指使いの場合は,最初の 『同じ速度』 『同じ力』 の前提がすでに崩れますので音が変わります.

 余談ですが,ピアノは全身で弾くものです(楽器全般そうでしょう). 手や肩に力を入れてはいけない,とは初学者がよく言われることです. お腹の下(臍下丹田?)あたりから音を出す感覚で,武道などと同様なところがあるのでしょう. 数十年弾いた経験からすると,ひたすら練習を繰り返す必要があるのは,その境地に多少なりとも到達せんがためではないか,と個人的には思います.

なお,「運指」という言葉がありますが,幼い頃からピアノに慣れ親しんだピアニストには「指使い」という言葉の方がしっくりきますので,ここでは「指使い」を使います.

さて,指使いとは,入力として音符列が与えられたときに,どの音をどの指で弾くかを1(親指)〜5(小指)の数値に割り当てて出力することです. 物理的には,人間の手の構造からもっとも滑らかに自然に弾けるように割り当てればよいように思いますが,ピアニスト達の指は老若男女それぞれ個性がありますので,同じ曲に対してすら万人共通の最適な指使いというものはありません. 高名なピアニストや音大の先生が書かれる著書では,多少のニュアンスの違いはあっても,指使いは音楽にあわせて自分で模索してください,となります.

高々数音の基本的なフレーズに対してなら,標準的と呼んでも差し支えないかもしれない指使いというものはあるでしょう. しかしながら,高度な音楽解釈を除くにしても,基本フレーズでも曲中での使われ方で指使いは変化します. それを象徴するように,楽譜出版社・指使い指示者により,指使いの提示は異なります. 同じ出版社でも,版によって指示が違います.

人間の手の構造から,『この指で弾くしかない』 という場合も(多少は)ありますが,大概の場合は,人間の手の構造にあわせてただ自然に弾ければいいというものではなく, 『どの音をどんな風に響かせたいのか』 という音楽解釈が実際には必要になります. 楽譜に書かれた指使いは,指示者が音楽を解釈し, 『この音はこの指で弾かれるべきだ!』 という熱い思いのもとで,提示されているわけです(と,信じましょう.きっとそうです.そうに違いない.そうであったらいいな…).

ここでは,なるべく汎用的なルールを模索して,そこから音符列に対して自動的に数値を割り当てることが可能なのであれば,一つの指使いの提示として,ピアニストが自分の指使いを模索・確定する一助として有効利用できますので,それをやってみたいわけです.

underconstruction...

論文

  • 堀田敬介, ``最適化を利用したピアノの実用的な指使いに関する考察'', 統計数理研究所 共同研究レポート「最適化:モデリングとアルゴリズム24」 267 (2011) 120-127

発表資料

  • K.Hotta, ``A mathematical approach for the piano fingering'', OR2011 (2011)
  • K.Hotta, ``A study of an automatic fingering for the piano score.'', IFORS 2011 (2011)
  • 堀田敬介, ``身体的個性と音楽解釈を考慮した指使いの提示に関する考察'', 日本OR学会 秋季研究発表会 (2010)
  • K.Hotta, ``A mathematical approach to seek the natural and practical piano fingering'', EURO XXIV (2010)
  • 堀田敬介, ``最適化を利用したピアノの実用的な指使いに関する考察'', 最適化:モデリングとアルゴリズム (2010)
  • K.Hotta, ``A Study of a Practical Piano Fingering'', INFORMS Annual Meeting (2009)
たたむ

【大学内の改善 に関する話題】

大学生の学習環境の改善

1.ゼミ配属方法の改善
2.予備登録制度の実態調査と改善
3.授業時間割の作成手間の削減と内容改善 開く・たたむ


オペレーションズ・リサーチ(OR)の目的の一つは,世の中の問題を発見し解決に導くことです. 世の中には解決を待っている様々な問題がありますが,大学教員にとってもっとも身近な話題は,大学内の問題点の洗い出しと改善です. 教学組織内,特に学生の学習環境に関して問題がみられるのであれば,それに対する改善案を提示・提言することが,同学問に携わるものの責務かと思います.

大上段に構えましたが,できるところから改善案の提示をすすめていきましょう.

2011.1.1

1.ゼミ配属方法の改善

ゼミナール(研究室)への配属問題は,最適化やORの教科書では定番の事例で,「クラス編成問題」として紹介されます. 幾つかのクラスがあって,全学生がどこかの1クラスに必ず所属するようにしたい,ただし各クラスには定員があるという場合,学生の希望など何らかの指標のもとでクラス編成を考えたい,という問題です. 修士論文審査など,大学教員へのノルマと希望を均等に課す問題も同様のものとして考えられます.

教科書では,解決法として,学生の希望を目的とした最適化問題にして解いたり,学生の希望と成績を選好として安定結婚問題として解いたり,ネットワークフローとして解いたり,成績順や希望順などの順位により割当を行っていったりする方法が述べられています.

最近では,各大学で最適化により配属決定をすることが見られるようになりました. しかし,理論的には同じ問題でも,事例毎の事情を考慮しないと悪い効果をもたらしかねません. 事例毎の事情とは,学生の状況(入学したてか,3・4年次か)やクラスの状況(6クラスで各定員60人なのか,45クラスで各定員12人なのか),必修(学部・学科として重要な科目)か選択か,および他の授業との兼ね合い,などです.

クラス数や定員数により,学生の希望をどこまで(第何志望まで)考慮するかが変わりますし,人間の感覚として,全学生が区別できるのはせいぜい第3志望程度までで,第4志望以降の区別はあいまいでしょう. 従って,実際に運用するには事例毎に考慮し,運用中も試行錯誤が必要です([1]).

『成績上位の学生は,下位の学生よりも同じかより高い志望のクラスに配属される』 ことをしたい場合,これをなるべく守り最適化問題として解きたいのであれば, 「目的関数」 への重みとしてペナルティをかけ,他の目的との兼ね合いを考慮しつつ解けば,ある程度達成できるでしょう([2]). これを絶対の条件としたいなら, 「制約条件」 として追加するしかありません. その場合,志望の組合せによっては,実行不能の可能性やさらに下の志望まで考慮する必要がでてきます. あとは,実際に運用してみて対処していくことになるでしょう.


論文

  • [1] 堀田敬介, ``学生満足度の観点によるゼミ配属法の定量的比較'', 情報研究 35 (2006) 367-378 [PDF]
  • [2] 堀田敬介, ``成績を考慮したゼミ配属法の比較と提案'', 情報研究 44 (2011) 59-73 [PDF]
  • [3] 堀田敬介, ``最適化技術のクラス編成問題への適用'', 経営論集 Vol.2(1) (2016) 1-18 [PDF]

参考文献

  • 今野浩 『数理決定法入門』 朝倉書店 (1992)
  • 今野浩 『実践 数理決定法』 日科技連 (1997)
  • 久保幹雄・松井知己 『組合せ最適化 [短編集]』 (1999)
たたむ

2.予備登録制度の実態調査と改善

文教大学には,授業の履修申請・登録の準備段階として 「予備登録」 という制度があります. 科目の性格や設備の制約から 「定員」 を設けている科目に対し,履修申請の前にどの程度の履修希望があるかを調査し,定員を超えるようであれば抽選で履修者を決定するというものです.

時間割の重複を除けば,自由に履修できることを謳っているはずの授業に 「定員」 を設けることは許されることではありません. 本来,制度をなくす方向に動くべきところです. しかしながら,人的資源と設備状況(PC教室1教室辺りのPC数など)や教育効果の観点から,やむなく 「定員」 を設けざるを得ない場合があります(と,信じます.教員の自己都合で定員を設けることは許されざることですので,きっとないです.ないに違いない.ないよね).

予備登録制度の抽選で落選してしまい,履修したい授業を自分の都合の良い時期に履修できない学生が少なからず出ています. 大学としても手をこまねいているわけではなく,過去の経験から人気の授業はクラス数を増やすなどの対策を行っているのですが,学生の希望(他の科目との兼ね合いで受けたい時限,同一科目でもこの先生に習いたい,など)はえてして偏ることが多いため,対策が追いつかないというのが実情です.

一つの方法としては,同一科目は同一曜日同一時限にそろえて希望予想数に対し十分なクラスを用意し,かつ学生の「この科目はこの先生に習いたい」は受け付けない(もしくは,「この科目はこの先生に習いたい」は受け付けるけど,希望数が多ければ同一時限の別クラスに「移る」か「履修しない」かを選択できる)ことにすれば,希望の科目を受けられないということはなくなります. しかしながら,授業の時間割は組合せ的に決まるので,一部の科目だけ時間変更することは不可能で,全授業を一度シャッフルしなければなりません. 大変ですが,技術的に困難というわけではないので,偉い方が一声だせば済む気もしますが,非常勤講師の出講日の問題や,一教員の担当科目数が旧国立大学に比較して相対的にかなり多い,学生数に対する教員数が相対的に少ないなどの制約もあるので難しいのでしょう.

不公平を生む主要因は,現在の抽選方法にあります. 過去の当落状況や現在の申請数等の状況を全く考慮せず(データの蓄積・共有もせず)に,学期毎・科目毎に独立に抽選を行っている事にあり,これに尽きます. 論文では,予備登録の申請状況や当落結果の実態調査をはじめて行い,落選の学生間不公平さや落選数の減少を目指すモデルを提案しています.

また,最適化モデルを提示していますが,このモデルを解かずに簡易に同時抽選出来る(解を求められる)ことを示しています.


論文

  • 堀田敬介, ``予備登録制度の実態調査と制度改善に向けて'', 湘南フォーラム Vol.17 (2013) 153-172 [PDF]

    注: 論文では『定員を超えていてボーダー前後で同コストの学生達』をどうするのかについて言及されていないが,その該当者のみ『1セメに限り抽選,2セメ以降はGPA順』とすればよい
たたむ

3.授業時間割の作成手間の削減と内容改善

大学の授業の時間割って,誰が組むのか知ってますか? これは大学によって異なります.大学教員が作成しているところもあれば,職員が作成しているところもあります. 文教大学では,毎年職員の方の多大なご尽力により作成されています.

大学の内情をご存じない方は,「時間割? 小中高校でクラス毎に教室の前に張ってあったあれだろ? 何曜日何限に何を勉強するかってやつ.組むのはそんなに大変なのか?」 と疑問に思われることでしょう. 実は,大学の時間割作成は恐ろしく大変なのです!

小中高校と大学では,学生の授業の受け方に大きな差異があります. 小中高校では,

  • 基本的に,学生はクラス単位で授業を受ける.よって人数も同じ
  • 科目の種類が少ない(国数英理社に情報・体育・音楽・美術・技術など…のみ)
  • 同じ科目を週に複数回繰り返し実施
  • 同学年の学生全員が,(多少のずれはあっても)同じタイミングで同じ講義内容を受ける
  • 教員は(一般的仕事時間帯に対して)従順であり,(基本的に)平日は毎日(朝そろって)学校に来る
それに対し大学では,上記に比較して書くと,
  • 基本的に,学生は個人毎に授業を受ける.よって科目毎に受講者数が異なる
  • 科目の種類がもの凄く多い(複数クラスの重複を除き,全て異なる科目)
  • 同じ科目は週に1回(多くても2,3回)
  • 同学年の学生であっても受講科目が異なり,かつ同じ科目でも授業を受ける年度・時期が異なる.よって,1年〜4年まで混ざって受講する(ので知識レベルもばらばら)
  • 教員はわがま…もとい自己主張が強く,1週間毎日来る人(実験等大学に体がないと研究にならない人に多い)も殆ど来ない人(脳みそさえあればどこででも可な研究対象の人に多い)もいて,居る時間帯もバラバラ.大学以外の仕事や研究で長期不在・学会出張,学外の各種委員会メンバーだったり…
となります.理論的には(制約が異なるだけで)同じ形でモデル化できますが,全く異なる問題として捉えるべき(なので異なるモデルで解くべき)なのです.

ORの分野では,現在,この(大学の)時間割作成をどうにかしようという研究がなされています. どうにかしようというのは,大きく 『作成の手間の削減』 と 『時間割当の改善』 です. 『時間割当の改善』 とは,時間割を上手く調整して組むことで,学生がより履修しやすくする(自分の希望の科目を取りやすくする)ことを意味します.

文教大学湘南校舎の場合には,キャンパス規模により,さらにこれに 『教室への割当』 も絡みますので,情報学部だけの時間割を考えるのではなく,キャンパス全体を考えねばなりません. また,結果は専任・非常勤全教員に影響を及ぼすので,調査・検討は一人の手には余ります. 現在までの研究成果をもとに,大学でプロジェクトを組み計画・検討する方向に入れればよいですね. 南山大学での取り組みに関する研究を一例として以下に挙げておきます.

ただし,これまでの研究で取り上げられているのは,比較的キャンパス規模が大きい,理工・情報系の大学の時間割です. 例えば,(旧)国立大と私立大では1教員がもつコマ数がかなり違います(一般的に私立大の方がかなり多い)し,キャンパスの規模によっても違います. ここでのキャンパス規模が大きいとは,1学部あたりの使える教室数が多いという意味です. よって,規模が大きい場合(学部毎に建物を持っていたりする場合)は,学部毎に独立に時間割を構成しても差し支えない(規模の小さい問題を解けばよい)ですが,そうでない(文教大学のような)場合には,キャンパス全部の時間割を(規模の大きい問題を教室割当まで考慮して)同時に一度に解く必要があるのです.

OR分野では,この問題のように,お金をそんなにかけられないし,どうしたらいいかわからない,現状を続けるしかないという,現場ではコストをかけられないけど解決できるならして欲しい問題を積極的に解いていこう,との動きがあります. 「小規模ビジネスOR」と銘打って,出勤スケジュール計画,時間割策定などの問題解決に取り組んでいます. いくつか成果があがっていますので,興味のある方は以下のリンクをどうぞ.


小規模ビジネスOR の例

  • 大学の時間割自動編成システムの研究 南山大学 鈴木敦夫研究室 修士論文要旨(先行研究の論文参照もあり)
  • 訪問介護勤務スケジュール作成 成蹊大学 池上敦子先生,国立情報学研究所 宇野毅明先生

  • 小河 智哉『文教大学時間割編成の作成支援』[PDF] 2014年度 文教大学卒業論文

  • 小河智哉, 堀田敬介 ``文教大学湘南校舎における科目時間割配置の支援'', 湘南フォーラム Vol.20 (2016) 21-46 [PDF]
たたむ

戻るback