令和元年度人間科学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
 ご父母やご家族の皆さま、お子様がたの卒業、誠におめでとうございます。

 今年度は卒業式典と学位記授与式が新型コロナウィルスによる肺炎発生の影響で中止となりました。皆さんにとっては大変残念なことかと思います。学部の教員一同としても残念ですが、皆さんの卒業を祝福したい気持ちには変わりありません。学位記授与式での挨拶に代えて、卒業生の皆さんへのお祝いの言葉を贈りたいと思います。読んでいただければ幸いです。

 さて、最近サステイナビリティ(持続可能性)という言葉をよく聞きます。国連が主導し、日本でも多くの企業や団体で取り組んでいるSDGs(エスディージーズ)も、持続可能な開発計画ということで、2030年までに地球レベルでの貧困や飢餓の解消、健康な生活の確保など、17の目標を掲げています。そのほかにもサステイナビリティは、頻発する自然災害への対応、国際環境の急激な変化への対処など、さまざまな場面で使われています。目の前のことに全力投球していれば、自然に未来は開けるといった漠然とした期待はもはや過去のものとなり、将来に対する想像力(イマジネーション)がとても大事になっている時代、それがサステイナビリティの時代なのだと思います。

 今回の新型コロナウィルスに対応した様々な動きも、個人の生命の維持を第一優先にした、世界レベルでのサステイナビリティ確保の動きと考えることができるでしょう。しかし、残念ながら人類はまだこの新型ウィルスに効果のある薬のことを知らず、発生を抑えるための手立ても十分にわかっていません。

 つまり、サステイナビリティを確保するためには、目標を作って頑張ろうと思うだけではだめで、様々な具体策、知識と情報、そして何よりも豊かな想像力が必要なのだと思います。

 多くの皆さんは、6・3・3・4と16年の学びの時間を終えて卒業の時を迎えました。この学びの時間は何のためにあったのかと問われたら皆さんはなんと答えるでしょうか。もちろん、一通りの答えがあるような問いかけではありませんから、一人ひとりの中に別々の答えがあっていいのですが、私はその答えの1つは、皆さん自身のサステイナビリティを高めるためだと、昨今の状況から答えたいと思います。

 ここでいうサステイナビリティには様々な意味が含まれます。まずは健康を維持して元気に生活できること、これは外せないでしょう。それぞれの新しい環境の中で、周囲の期待に応えながら成果を挙げていくこと、あるいは稼げること。社会関係を維持して仲間やパートナーを作ること、あるいは、近い将来ないし少し先の将来に向けて生き方やキャリアの可能性を広げていくこと、これら全てがサステイナビリティの要素です。

 「サステイナビリティを高めるため」そのように考えると、学びの時間は卒業で終わりというわけにはいかなくなります。もちろん学びのスタイルは学生時代に比べて多様になるでしょう。授業を聞いて、レポートを出して、試験を受けてという学びのスタイルはこれからは少なくなるはずです。新しい経験を楽しむための学び、仕事を通じて仕事の力をつけるための学び、人との出会いを通じての学び、失敗や不幸な出来事を通じての学び、新しい仕事に就くための学び、社会人になってから資格に挑戦することも人によっては増えるかもしれません。

 こうした多様な学びが皆さん個人のサステイナビリティにつながると思います。4年前に「ライフシフト」という本が出ました。その本の副題は「百年時代の人生戦略」というもので、これをきっかけにして「人生百年時代」ということばが日本で広く使われるようになりました。今の日本の若者の二人に一人は100歳以上まで生きる。こういう時代は今までのように「教育を受ける→仕事をする→老後」という3段階の人生計画ではもたない、というのです。

 それではどう変化していくかというと、今までなかった3つの人生のステップが付け加わるといいます。それは「自分探し」のエクスプローラーの時代、「個人事業者」としてのインディペンデント・プロデューサーの時代、そして「企業で勤めながら他の能力をみがく」ポートフォリオ・ワーカーの時代の3つです。今までの3つの時代が6つの時代に増えるというわけです。当然転職という機会も多くなることでしょう。

 この合計6つの時代は、実は6つの学びと言い換えてもいいくらい学びの要素にあふれています。人生百年時代とは、結局6つの異なるスタイルの学びを通じてサステイナビリティを高め続ける時代と言えるのかもしれません。折角卒業だというのに、これから勉強が始まるってことか、だから学校の先生はいやだな・・・という声がどこからか聞こえてきたような気がします。それは学校の勉強があまり面白くなかった人の声かもしれません。でも安心してください。そのような人にとっても、これからの勉強はきっと面白いから。

ご卒業おめでとうございます。

令和2年3月16日
人間科学部長 益田勉
Copyrightc Bunkyo University Faculty of Human Sciences. Allrights Reserved.