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Graduate student

永井秀樹さん「2008年日本国際連合学会第10回研究大会に参加して」

大学院生になると、学内での講義以外にも様々な活動に参加する機会が増えるが、学会への参加はその中でも特に意義があり刺激的な経験になるであろう。今回、私は2008年5月31日と6月1日に開かれた日本国際連合学会第10回研究大会に指導教授の中村恭一先生とご一緒させていただき、初めての学会参加となった。また、本学会は広島修道大学で開催されたため、前日までに広島に到着している必要があったが、交通費・宿泊費は研究科からのご支援を頂いたので、経済負担はほとんどなく有意義な経験となった。

本研究大会は統一テーマを「地球共同体の実現に向けて:ミレニアム目標(MDGs)の到達点と課題」とし、これまでのMDGsの到達点を振り返り、実現への障壁を分析することにより今後の課題を検討し、国連が今後持続可能な発展に向け、MDGsの達成のため、今後いかなる方向に進むべきかを議論するものであった。

セッションは4つに分かれており、第1セッション「ミレニアム目標の到達点」の「サハラ以南アフリカのMDGsの現状と課題」では、東京大学教授の遠藤貢先生のご報告と質疑応答の際に、近年アフリカにおいて大々的な支援を進める中国のアフリカ開発、及び資源外交にまで言及され、「中国の国際協力」を研究の基軸とする私にとっては非常に参考になり、示唆に富む内容であった。

例えば、私は経済的互恵関係を打ち出している中国の対アフリカ援助について「中国が資源外交を展開することにより、被援助国が資源輸出により経済的利益を上げる事ができ、さらに開発事業のために現地の人々を雇用するため、被援助国の経済的波及効果もある」と一元的に考えてきたが、実際は中国国内の就業問題解決の一環として労働者を連れてきていたりする現状や、資源への過剰な依存による、いわゆる「オランダ病」などの構造的問題が被援助国の産業にどのような影響を与えるかなどを考慮する必要がある。

参加者の質疑応答はつまり多角的な考察であり、アプローチの方法及び角度により如何に考えが展開していくかを理解する絶好の機会であった。

「ジェンダー平等」では大きな問題の一つとして、ジェンダー主流化のために必要な男女別のデータが整備されていない現状を指摘されていたことが印象深かった。これはジェンダー平等をMDGsの一項目内のみで達成されるべき目標と掲げられており、本質的なジェンダーの視点を欠いていることを表している。MDGsの一項目としてジェンダー平等を取り込むのではなく、ジェンダー視点から他の目標にも取り組む必要性がある。

第2セッション「国連の経済社会協力のあたらしいかたち」の「グローバル・コンパクトが開く官・民シナジーの可能性」では、そのグローバル・コンパクトという言葉自体、初耳であった。グローバル・コンパクトとはMDGsや気候変動問題など世界が直面している問題に対し、企業やNGOなどが、国家や国際機関と協調することにより解決していこうとする事を指す。

近年特にソーシャル・ガバナンスやコーポレート・ガバナンスなど、新しくガバナンスを担うアクターの必要性を問われているが、それは一つの国家や地域の枠組みだけにとどまっており、あくまで国内のガバナンスにおけるアクターであったと感じる。グローバル・コンパクトにより新しいアクターが国際問題に対応していくことによりこの先どうなるのか注目していきたいと思う。

また、貧困削減においても企業の役割は大きいものであるが、治安の関係により踏み込めなかった発展途上国にも、国連が治安面をサポートすることにより促進することもできるであろう。特にグローバル・コンパクトでは官民協調とありながらも、国連のとるべきイニシアチブは大きいと感じた。

第3セッションは若手独立報告となっていた。「アフリカにおける国連平和維持活動(PKO)の変質に関する一考察」では、2008年1月1日より展開している国連・AUによるハイブリッドPKO「UNAMID(ダルフール国連AU合同ミッション)」についても言及されていて、非常に印象深い内容であった。更に、報告者である津田塾大学国際関係研究所研究員の井上実佳先生には直接お話を伺えた。また、先日国連大学で開かれた「国連PKO60周年セミナー」に参加した際にもお会いし、今後の研究について様々なアドバイスを頂いた。

セッションのなかでも「国連システムにおける調達行政の意義と企業・NGOの役割」は特にユニークな視点からの考察だと感じた。調達行政というのも私自身は聞きなれない言葉であった。調達とは、機関のあらゆる活動の基礎の部分となる「物」や「サービス」を確保することであり、またその「輸送」自体も指す。

質疑応答において、調達内容の品質の検査・管理について言及されていたが、基準を高く、検査を厳しくすることにより品質の向上は考えられるが、それにより一定の量を調達するのが難しくなるという。このような問題は実際のプロジェクトでは如何に折り合いをつけるのであろうか。その他、治安の不安定な場所でのコンボイに、現地運送業者に委託することへの問題や、物資調達元との癒着を防ぐことなど、多くの課題がある分野と感じた。

第4セッション「国連による平和と安全の維持のゆくえ」は安全保障を中心的な議題とし、「国連と人間の安全保障―規範的展開と実践における課題」では題名に表れているとおり「人間の安全保障」に焦点を置き、その規範が具体的な政策の指針になりえているのかを考察された。また、人間の安全保障の規範形成の流れとしてMDGsに加え、ICISS報告書の「保護する責任」(Responsibility to Protect)や人間の安全保障委員会報告書などから集団安全保障を再定義しようとする試みがうかがい知れるとしている。「保護する責任」などは、「人間の安全保障」と最も深く関連する理念であるだろうが、国際法の枠組みを越える必要があるという課題に直面している。

いずれにせよ、素晴らしい理念が「言葉」と言う形のみで広まっても、その理念が達成されることはないだろう。「人間の安全保障」の規範が政策に明確な基準をあたえうるのであろうか、非常に興味深い内容であった。

以上4セッションが2日間に渡って行われた。学会での国連問題を専門にする研究者のプレゼンテーションの内容やデータのまとめかたは、私が修士論文を作成するにあたって非常に参考になった。更に、質疑応答により問題点が浮き彫りにされていく過程は、正に弁証的に真理を追究していく過程であり、論文に限らず、多角的な考察やアプローチが物事を深く掘り下げて考えていくのに必要だと強く認識させられた。

今回の学会参加は単に論文を作成するのに必要な知識・方法を得ることができただけではなく、学会という論議の非常に活発な場に参加することにより触発され、勉学に対する私自身の態度を見直す機会にもなり、とても刺激的な経験となった。学会で得られる知識や経験は、今後学習や研究を進めていく上でも現実的、かつ明確な方向性を示してくれるだろう。もちろん、それらを活かすためには自発的な努力が必要となるのは言うまでもないだろうが。(2008年6月10日)