資料請求
お問い合わせ

Graduate student

岩井 祐一さん「変化するアフリカとTICAD Ⅳ」

文教大学大学院国際協力学研究科では今年度から、大学院の学生の学問への関心を高め、また大学教員同士の知的交流とコラボレーションを目指して、大学院勉強会を始めました。 国際協力学研究科は学際的な学問領域を学ぶ場ですので、 このような大学院の試みはたいへん意義があることだと思います、以下、6月11日に開催された第1回の勉強会の内容を報告します。

1.概要 日時:2008年6月11日(水)4時限(15:00~16:30) 場所:国際学部 会議室 発表者:林 薫(国際学部教授)

2.発表内容 アフリカの現状と課題   80年代前半より、資源価格の下落や累積債務の顕在化を契機に、長期的停滞の続いていたアフリカであるが、近年その様相が変わりつつある。サブサハラ・アフリカの経済成長率は約6%(2006)と順調に成長しているように見える。その大きな要因は、近年の資源価格高騰により資源輸出国の経済が急成長し、その波及効果が資源輸出国以外の経済を牽引していることがあげられる。アフリカ諸国への直接投資が増大しているが、資源開発ビジネスが直接 投資を誘引する大きな要因になっているからである。表向きには順調に見えるアフリカ諸国の成長であるが、その影にはいまだ多くの問題を抱えている。

①ガバナンス

 まず、成長とガバナンスの問題があげられる。世銀CPIA指標(国別政策制度評価指標)と成長率の関係を見る。サブサハラ・アフリカのCPIAと成長率の間には強い相関は見られないが、CPIAが低いにも関わらず高い成長率をあげている4カ国を除くと、CPIAと成長率の間には強い相関関係(r=0.77)がある。ガバナンスと成長の間には相関があると考えられるが、資源輸出があればガバナンスの如何に関わらず成長が可能であるとも考えられる。「ガバナンスよりも資源輸出」との考えが広まり、資源のそのものが持つ紛争誘発要因とあわせ、今後、地域の大きな不安定要因となることが懸念されている。

社会開発の遅れ

 次に、社会開発の遅れがあげられる。順調な経済成長を続けているにもかかわらず、 保健衛生・教育などの社会指標はいまだ低い水準のままである。特にエイズはなお深刻な影響を与えている。資源輸出で得た所得を社会開発へ投入することや、貧困層に向けた再分配などが今後の大きな課題である。

食料問題と環境変化

 近年の食糧価格の高騰もアフリカ諸国には大きな打撃となっている。一見すると広大な土地から多くの食糧を生産しているかと思われがちなアフリカ諸国であるが、多くの国々は食糧を輸入の依存している状態である。農業部門の近代化が遅れており、特に、土地生産性の低さはアジア比べると際立っているが、これは1970年代から80年代にかけてアジアでは高収量品種導入が進められたがことにより大きな差が生じたことによる。アフリカの農業は土地および労働力の投入で生産を増加させてきているが、生産性の上昇を伴わず粗放化が進んでいる。これは環境面でも問題がある。また低い土地の生産性は農業信用の未発達と関係がある。グローバルな食料需給や価格の動向は現在ネットの食料輸入地域になっているアフリカでも特に貧困層に深刻な影響を与える。アフリカの農業生産性の向上は急務であり、「ネリカ米」の導入が急がれている。普及サービスなどの充実をはかるとともに、インフラなども含め総合的な開発を進めていく必要がある。

TICAD Ⅳ(アフリカ開発会議)

4回目を迎えた今回のアフリカ開発会議では、成長の加速化、ミレニアム開発目標の達成、環境・気候変動への対応、平和の定着が主要なテーマとして議論された。

成長の加速化

90年代に主流であった貧困層への直接支援という考え方から、経済成長が重要であり、社会開発などの直接支援とバランスよく進めていくべく井であるという認識がアフリカ諸国と先進諸国・国際機関双方に共有されるようになってきていることが大きな特徴である。

TICAD Ⅳの宣言文書や行動計画では、アフリカ諸国の成長を加速させるために、人材育成、産業開発の加速化、農業開発、貿易・投資・観光の促進、民間部門の役割などが重視されている。道路や港湾などのインフラ整備、灌漑を含む水関連インフラ整備、貿易の促進・拡大(Aid for Trade 一村一品の活用)、外国投資の奨励、民間セクターの開発支援、観光振興、食糧増産及び農業生産性向上への支援、市場へのアクセスなどが具体的な支援策である。

ミレニアム開発目標の達成

折り返し地点を越えたMDGsであるが、世界全体で見るとインドと中国の経済発展によって多くのターゲットで改善が見られる。しかし、サブサハラ・アフリカでは全てのターゲットにおいて達成されておらず、逆にゴールから遠ざかっているターゲットも存在する。これを背景に、TICAD Ⅳでは今後の行動計画として、基礎教育へのアクセスと質の改善、技術教 育や職業訓練などの多様な教育段階の支援、学校給食、安全な水、トイレ、HIV/エイズ教育などの分野横断的な取り組み、保健分野では保健システムの強化、母子保健の改善、感染症対策などが盛り込んだ。資源ブームによる所得をいかにMDGsに諸目標の実現にふり向けていくかが課題である。

環境、気候変動への対応

環境、気候変動への対応については、開発の分野では緩和(mitigation)と適応(adaptation)の二方向からの議論がなされているが、最近は適応の方に重点がシフトしてきたのではないか。特に作物転換やなどがこれから重視されていくもいのと考えられる。

平和の定着

平和の定着については、首尾一貫した継ぎ目のない支援、紛争予防、人道・復興支援、治安の回復と維持、グッドガバナンスの促進などが宣言や行動計画に含まれているが、前述のように資源が大きなリスク要因となってきている。

TICAD IVと日本の具体的なアフリカ支援

日本政府からは、円借款の積極的かつ柔軟な供与に加え、無償援助・技術協力も今後5年で倍増するなど、アフリカ向けODAを漸次増加し、2012年までに2倍とすることが約束された。具体的な支援としては、交通インフラの整備、「ワン・ストップ・ボーダー・ポスト1」の整備、大型経済ミッションの派遣、「アフリカ投資倍増支援基金」(国際協力銀行)の設置などであり、成長重視の姿勢が明確である。農業部門では、灌漑の整備や品種改良、農業指導員の育成など、保健衛生部門では、保健医療の人材育成、「リプロダクション・ヘルス」支援、「母子健康手帳」の普及、HIV/エイズ・結核・マラリア対策の世界基金への拠出などが特筆すべきである。

  しかし、援助の受け手としてのアフリカ諸国の期待は別のところにあるようである。アフリカ諸国は政府開発援助よりも民間投資を期待している。民間投資により生産技術や経営ノウハウなどの移転が行われることの期待が大きい。また、アフリカにおいては、かなり多くの国で、「援助協調」が進んでおり、日本単独での援助強化は難しいのが現状である。

ODA、民間投資を含め、日本が今後アフリカ諸国の成長と貧困削減のためにどの程度貢献できるかは未知数である。中国やインドなどの新興ドナーの出現も、今後の援助がどう動くかに大きく影響する。TICAD Ⅳが開催されたことを契機に、国際社会と協調しながら今後日本はアフリカ諸国に対してどのような協力ができるのか、現状の支援のありかたも含め日本とアフリカの関係を構築していく必要があるのではないか。

3.質疑応答

サブサハラ・アフリカという場合、「南アフリカ共和国」の位置づけはどうなるのか?

南アフリカはアパルトヘイト時代には孤立していたが、同政策を放棄し、90年代にネルソン・マンデラ政権ができてからは近隣諸国との経済関係を深めつつある。現在では、サブサハラ・アフリカ諸国への投資や市場の提供などで大きな役割があり、南部アフリカ関税同盟(SACU)などの協定も締結されている。地域の大きな経済パワーであり、サブサハラ・アフリカ諸国の今後の成長の加速化には欠かせない存在である。データ面では同国を除いたデータ、除かないデータなどさまざまである。

日本の今後の支援計画についてどの程度実現できるか?

今回のコミットメントに関しては、確かにどの程度実現できるかによって、日本の真価が問われるであろう。単年度ごとに財務省と外務省が交渉することになるが、当然まだ正式決定されたものがあるわけはなく、「努力目標」という位置づけである。円借款に関しては、中国向けの円借款の新規供与が07年度で終了するので、その分をまわせば目標の達成はそれほど困難ではない。

日本の外交におけるアフリカの位置づけ如何。国連常任理事国問題との関連は?

確かに、国連常任理事国を考える場合にアフリカ54カ国の票は重要である。日本政府も当然それは考えている。日本の常任理事国入りに反対している中国も積極的にアフリカ外交に取り組んでいる。中国はTICADと似たような「中国アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)を3年に一度開催する方針である。援助量でも中国は日本と拮抗するか凌駕する勢いになってきている。林は昨年1月FOCAC関係者と北京で話をしたが、中国も言われているほど「国益」を強く前面に出しているわけではなく、アフリカの地球規模の問題での連帯を重視している。いずれにしても日本としては気になる動きである。