文教大学国際学部

国際ニュースの読み方

国際ニュースの読み方

新聞を読んで 05年10月1日

1. 衆議院議員選挙で自民党の圧勝という結果を受けて、民主党の顔となった43歳の前原誠司代表の衆議院本会議での初舞台が注目されました。主要各紙の9月29日付朝刊は、前原氏の若さ、新鮮さに、まずまずの評価を与えています。

2. しかし率直なところ、議席の差があまりにも大きいために、いかに新鮮味あふれる青年党首であれ、若さと意気込みだけでは如何ともしがたかったのは否めません。巨人に挑んで打ち負かした旧約聖書の有名な物語、デービッドとゴリアテの闘いに倣うならば、前原代表は、もっとアッと驚かせる武器、つまり言葉を用意すべきだったのではないでしょうか。毎日新聞は「気負う前原氏、巨大与党の壁」と評しています。青年党首の初登板には、巨人ゴリアテを倒したデービッドの秘策が見られなかったと言えます。

3. 政治は言葉です。前原代表の名前こそ「誠司」ですが、心に深く刻まれるような政治家の言葉を武器に出来なかったことは、今後の大きな課題でしょう。選挙時のスローガンをもじりあっても、「小泉改革は看板倒れ。いい改革は止めてはならないが、悪い改革は止めなくてはならない」と強調した前原演説は、新聞で読み返さないと、「改革を止めるな」という自民党の選挙スローガンを取り上げたことにも気づきにくいものでした。これに対して、小泉首相が発した「日本をあきらめずに、政権交代ができる政党に発展することを期待します」という痛烈な皮肉には、思わず苦笑してしまいましたが、この揶揄は心に残りました。

4. 政治は、まずは、心に残る言葉の勝負です。歴史を見れば、名を残した政治家には数々の名言があります。例えば、いまだに伝えられるジョン・F.・ケネディ大統領の就任演説の言葉、「国家が何をしてくれるかを問うのではなく、国家のために何を出来るかを問おうではないか」と訴えた言葉は、まさに国民、特にサイレント・ジェネレーションと呼ばれていた当時の青年層を政治に引き込み、奮い立たせました。小泉首相のことばが、名言、名演説と称えられるべきものかどうかは別として、心に残る言葉、という政治的武器の使い方の点では、小泉首相は他の政治家を一歩も二歩もリードしていると言えそうです。

5. 今は小泉首相も含めて、多くの人は「前畑」ならぬ前原・民主党代表に「前原がんばれ、前原がんばれ」とエールを送っているところです。それが、「前原リード、前原リード」となり、「勝った、勝った、前原勝った」というような絶叫に変わるようなことがあるかどうかは、まさに前原代表の力量にかかっています。政治を見る国民は決して忍耐強くはありません。時間との勝負です。

6. 20日付朝日新聞朝刊は、中曽根元総理との長文のインタビュー記事を載せました。同首相の現役時代には、巨大派閥・田中派の影響を受けすぎていると批判して、「田中曽根内閣」などと皮肉っていた朝日新聞が、小泉自民党を批判する狙いの記事で中曽根さんを登場させているのも大きな皮肉ですが、その小泉首相の所信表明演説を評して、中曽根さんは、「郵政以後、何を正面に据えるのか、まだはっきりしていない。所信表明演説でもあまり触れず、国民も政治家も、次は何かがぼやけて、宙(宇宙の宙ですが)を見ている感じだ」と語っています。

7. そして年金統合問題、公務員定数削減問題など重要課題を挙げた上で、中曽根さんは、「だがいま国民がいちばん関心を持っている問題の一つは少子化だ。それに対する長期計画の片鱗ぐらいは見せないといけない」と小泉首相の日本の未来に向けたビジョン不足を批判しています。

8. このインタビューをした朝日のコラムニスト、早野透記者は少子化問題にはあまり関心がないのか、この中曽根発言をそれだけで終わらせていますが、少々残念な気がします。なぜなら、87歳という高齢の中曽根さんが少子化を語るというのは、今なおいかに長期展望を持って政治や社会を見ている人なのかを髣髴とさせるからです。

9. 「少子化」問題は深刻です。しかし日本や一部先進国だけに限定したこの人口問題の見方には私は与していません。少子化という問題も含めて、高齢化社会問題、また日本とは逆に未成年が40パーセントも占めるカリブ海諸国をはじめ、依然として急激な人口増加が国の発展の大きな阻害要因となっている開発途上国が多い現在の世界の人口問題全般に、もっと国民の関心を向かわせるべくマスコミには尽力してもらいたいと感じています。少子化による将来の年金負担者激減問題という狭い捉え方にとどまらず、日本の選択肢をもっと柔軟に、幅広く議論すべきではないのかと感じているからです。移住労働者の受け入れもその一つでしょう。単なる労働力としてだけ受け入れるのではなく、日本社会を支える重要な一員として、教育、訓練をしながら受け入れるというやり方です。

10. 少子化が深刻で、それに大胆に取り組んでいる国の一つとして、フランスの例を、27日付け読売新聞朝刊が取り上げています。「少子化にフランスが新対策、高学歴女性に手厚く」と題したパリ特派員による国際面のこの記事は、ドピルバン首相が22日に発表した新政策を紹介しています。託児所増設やベビーシッター経費の税額控除などに加えて、3番目の子供から育児休業手当てとして国が毎月約10万円を1年間支給するとか、3人以上の子供を持つ大家族を対象に、交通費や家電製品、映画料金を割り引くなどの優遇策を取るというのです。

11. 子供の数が増えて家計が逼迫するとワインも飲めなくなるので、ワインを割引販売するというような支援策はさすがのワイン王国でも見送っているようですが、今回の支援策は、これまでの中間所得層対象から高学歴、高所得の家族が子供を持つよう支援する第一弾だと、専門家が評価していることを、記事は紹介しています。

12. この記事に呼応するかのように、日本も少子化対策でやっと踏み出していることを、同じ27日付の読売新聞夕刊は第10面で特集しています。このように、朝刊と夕刊で関連記事が連動すると、読者の理解が大いに増すことは間違いありません。

13. 「産めばボーナス、子ども一人100万円の例も」という見出しのついた読売のこの記事は、日本の大手企業が出産育児奨励策をとり始めている例をいくつか紹介しています。その一つが、大手住宅メーカーによる「次世代育成一時金制度」です。子ども一人誕生につき100万円、三つ子が生まれて300万円もらった従業員もいるそうです。またあるベビー用品大手は、「第1子、第2子には出産祝い金50万円、第3子以降は200万円」と大増額になるそうです。この出産祝い金制度は、今年4月に始まった「次世代育成支援対策推進法」に基づくものです。

14. 朝青龍が6連勝を果たしました。つまり外国人力士が6場所連続、丸1年間優勝したことをも意味します。1年前の放送で、外国人力士に優秀をさらわれる日本人力士は情けないと嘆いている相撲関係者に私は異を唱えました。しかし嬉しいことに、関係者も相撲ファンも、今では外国人力士の活躍を大いに楽しみ、賞賛するようになってきているようです。

15. 9月25日の秋場所最終日の読売新聞、また翌26日の朝日新聞は外国人力士問題を大きく取り上げました。「外国人力士、主役を独占」と題した読売の記事では外国人力士は幕内で3割、横綱出世率は日本人力士の6倍だとしています。朝日の記事では、観客も横綱審議会も、外国人力士の活躍に対する抵抗が薄れ、「国技の危機と叫ぶ声は往年ほどではない」と書いています。

16. 自国選手が優勝できない事態を、横綱審議会前委員長、渡辺恒夫氏がテニスのウインブルドン現象になぞらえて「ウインブルドン化」と呼んだことを朝日の記事は紹介していますが、相撲の国際化、ウインブルドン化は、柔道の例を引くまでもなく、実にすばらしいことです。ウインブルドン化を前に日本人力士がより発奮して盛り上げてくれれば、相撲はもっと面白くなります。日本を含めたゴルフ界では、世界中どこでも真の国際化が進行しています。まさにスポーツに国境なしです。

17. 最後に印象的だった記事を紹介しましょう。朝日新聞9月23日付の「私の視点」というオピニオン欄です。外交官、そして国連の難民救援機関であるUNHCRなどで活躍し、定年退職後も、一人国際的人道支援活動でバルカン諸国を駆け回っている松元洋(71)さんの意見です。日本が安保理常任理事国入り問題で、世界各国の支持を得られなかった国連外交の敗北に関して、松元さんは次にように訴えます。「日本は国連改革問題でこれだけ各国の権謀術数にもてあそばれたわけだから、国連分担金以外の安保理決議に基づく拠出金要請を毅然として断る。そして独自、または有志諸国と連携して、平和活動や人間の安全保障に取り組めばよい。そこに日本の若者たちを積極的に活用すれば一石二鳥となる」。松本さんが言うとおりで、今後日本は、独自の平和と開発支援のための外交を通して、日本という国の重要な存在を世界に示していけばよい、と私も思います。60年前の戦勝国の古い特権を求めるより、それを否定することこそ、国連改革だったのではないでしょうか。