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2020.04.09
お知らせ

新入生の皆様へ(学長メッセージ)

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新入生の皆様へ

 文教大学の新入生の皆様、入学おめでとうございます。文教大学は、皆様を心から歓迎いたします。また、保護者、ご家族の皆様には、お子様の門出を心よりお祝い申し上げます。私ども教職員は、新入生の皆様を迎えて、これからの皆様の大学生活が充実し、満足がいくものになるよう全力で支えたいと思っています。

 WHOが世界的な流行「パンデミック」を宣言し、感染の拡大が止まらない新型コロナウイルス。7日、ついに日本においても緊急事態宣言が発令されました。この経験のない危機的状況において、文教大学は、新入生の皆様と社会を守るという観点に立つことにより、6日に開催を予定していました2020年度の入学式を中止しました。皆様の人生の、とても大切なスタートについて、こうした決断をいたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。新入生の皆様ならびに関係の皆様の落胆のお気持ちを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
 また、入学式の中止だけでなく、キャンパスへの立ち入り禁止、ならびに新学期の授業開始の延期という判断もいたしました。キャンパスがある埼玉県、神奈川県が緊急事態宣言の対象地域であることはもちろんですが、教員、職員、学生全員で「学びの場」である大学を守ろうという意志がこの判断の根底にあることをご理解ください。
 今本学は、今後しばらくこうした状況が続いても、大学の根幹である「学びの場」であることを一丸となって構築している最中です。ただしこの作業は、本学の構成員全員にとって手探りの中での協働作業です。新入生の皆様にとってだけでなく、在校生を含む本学構成員すべてにとって納得していただける体制になるには、少しばかり時間がかかるかもしれません。しかしそれを目標として邁進していることをご理解いただきたく思います。今、この経験は、本学が今後「学びの場」として、今まで以上のもう一段高みに上ることにつながると確信しています。

 今の状況において、私は高校生だった時に世界史の先生が語ってくれたあることを思い出しました。16世紀のヨーロッパ世界を扱い、マルティン・ルターを取り上げたときのことです。その時先生はルターの「たとえ明日世界が滅びようとも、今日私はリンゴの木を植える」という言葉を紹介してくれました。その際、この言葉の意味するところは理解したものの、私は今の年齢になるまで、それを身近なものとしては理解していなかったということを思うのです。私たちは一度も経験したことのない現在の状況において、恐怖、不安等々、一つとしてポジティブに感じられない毎日を生きています。そんな中で、私はこのルターの言葉を、起きると同時に唱え、唱えてから寝る日常を送っています。今できることを粛々と行うこと。このことこそ、私たちが今やるべき行為なのだと自身に言い聞かせています。また、ルターは、先の言葉と似ていますが、もっと直接的な述べ方もしています。「この世を動かす力は希望である。やがて新しい種子が得られるという希望がなければ、農夫は畑に種をまかない。」この言葉は先の言葉をもっとわかりやすく説明してくれているのではないでしょうか。粛々と行為を繰り返すことは、未来を信じるという強い意志の下において行われることなのだと。何があろうと希望の灯を消さないこと。それこそ危機を乗り越えていける唯一の方法ではないでしょうか。私たちはこの危機的状況においてもなお、その後に必ずやってくる希望に満ち溢れた未来を確信して、今の状況を生きることこそ重要なのです。また、私たちは、今入学をなさった皆様の希望に満ち溢れた表情と心持ちこそ、これからの文教大学を動かす力であるとも確信しています。

 皆様は開高健という作家を知っていますか?私はこの作家の作品に中学生の時に出会いました。最初に読んだ作品は「パニック」だったか「ロビンソンの末裔」だったか「日本三文オペラ」だったかは忘れましたが、このうちのどれかでした。とにかくとても気に入り、その後彼の作品はかなり読みました。また作品以外の、彼の生き方にも、生活スタイルにも当時憧れ、彼の万年筆のインクの色からその字体に至るまで中学生、高校生のころ、ひたすら真似をしたものでした。開高は実は本学の湘南キャンパスがある茅ヶ崎市に居を構えていました。彼が亡くなった後、茅ヶ崎のラチエン通り(この通りの名前も、私たちの世代にとって特別なものです。サザンオールスターズの名曲の一つにこの通りの名前を持った曲があります。)にあった彼の住居が記念館となっています。記念館に行くと、とにかくそこにあるモノたち、そしてその空間にとてもしびれ、時間を忘れます。私は初めて記念館を訪れたとき、大きな幸せを感じていたのですが、ある一隅に掲げられていた箴言を前に立ち尽くしました。そこには「悠々として急げ」とあったのです。
 大学での生活は長くもあり短くもあります。その期間の中では、友人と触れ合ったり、学びを通じていろいろな知識やスキルが身についていったりなど、喜びをたくさん感じることがあるでしょう。また、将来のことを現実的に想像したり、いろいろなことを経験する中で、不安が増大し、焦りも出てくることもあるでしょう。「悠々として急げ」は、「悠々としていろ」だけでもなく「急げ」だけでもない。この心持ちと行為とが合わさった「悠々として急げ」ほど、大学での生活の姿勢のあり方を表した表現は見当たらないほどです。大学時代の様々な経験は、いつか振り返ったとき、人生の根底を形成してくれたと思うはずです。大学で過ごす期間は、時間といった単位からすれば一瞬かもしれませんが、これほど重要な期間はないでしょう。皆様は、今のこの危機的状況においても、希望を抱き未来を確信し、ぜひ、文教大学で、悠々として急ぎお過ごしください。
 来年は、桜に彩られるキャンパスで、必ず春を分かち合いましょう。そしてこの一年に大きく成長した皆様と一緒に、新しい「後輩」の入学をお祝いしましょう。ご入学おめでとうございます。

文教大学 学長 近藤研至

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